代理母(代理出産)の『想定外のケース』によって浮かび上がった問題点1:子供の授受を巡る争い

オーストラリア人の夫妻や日本人の20代男性の事例によって、代理母による『代理出産』の倫理的な問題が改めてクローズアップされている。今まで代理母に委託する代理出産といえば、アメリカで代理母を依頼した女優の向井亜紀氏のように、通常の『生殖補助医療(子を欲しいと思う男女の精子・卵子・子宮・母体を用いた不妊治療)』では妊娠・出産が原理的に不可能であるか、著しく困難な夫婦(男女)が利用するものとしてイメージされてきた。

代理出産:ダウン症児引き取り拒否 国際ビジネス野放し

オーストラリア人の夫婦は、タイ人の代理母が出産したダウン症の赤ちゃんの引き取りを拒否したとして、国際的な批判が沸き起こった。その後に夫婦は『自分たちは引き取りたかったのだが、タイ人の代理母の側が情愛が移ったという理由で渡してくれなかった。もう一人の子供まで奪われるのではないかと不安になって急いで帰国してしまった。』と弁明したが、代理母とオーストラリア人夫婦のどちらの言い分が正しいのかは分からない。

オーストラリア人夫妻のケースでは、『代理母が出産した赤ちゃんに不治の心身障害・知的障害・発達障害や重篤な身体障害があるとわかった場合に、依頼者は子の受け取りを拒否できるのか』という代理出産にまつわる深刻な倫理的課題を突きつけた。

今までは自分たち夫婦がどうしても欲しい(代理母に頼んででも自分たちの遺伝子を引き継ぐ子が欲しい)と願って依頼した赤ちゃんなのだから、『どんな障害があっても責任を持って養育するはずだ=養育すべき社会的・倫理的な責任を引き受けなければならない』という性善説(どうしても欲しいとする赤ちゃんに対する無償の愛情の当然視)によってこの問題は目隠しされていた。

オーストラリア人夫妻は、自分たちは本当はダウン症の遺伝子異常があっても養育するつもりだったと主張しているが、この夫妻がそう思っていたとしても『これからの代理出産』において、重篤な心身障害・発達障害や先天性疾患を持っている子供が生まれた場合に、依頼主が引き受けを断ったり連絡がつかなくなって逃げたりする可能性を無くすことはできないだろう。

この問題は、胎児の段階で先天性障害(先天性疾患)の有無を調べる『出生前診断』とも重なる部分がある。日本では母体保護法(堕胎罪の違法性阻却事由)によって、障害の有無や養育する自信という本音に基づく『生命の選別』が法律的(妊娠22週未満の期間限定)には容認されているが、代理母ビジネスが盛んに行われているタイでは法律で中絶が禁止されているという。

子供が胎児の段階を超えて、『代理母の出産後』に生命の選別あるいは養育をするかしないかを改めて選びなおすことには、『代理母という第三者の人生・感情・健康』を巻き込んでいるという意味で、本人(夫婦)の中絶と同等以上の倫理的問題があるように思える。

もう一つは、オーストラリア人夫妻の言い分にあるように、『代理母の産んだ子供に対する情愛の深まり(代理母が赤ちゃんを引き渡してくれない)』という問題もあり、アメリカやタイ、インドのように代理母が一種のビジネスになっている国であっても、出産した後の代理母が『赤ちゃんに情が移ってしまって渡すのがつらい、やっぱり自分の子供として育てたい』とそれまでの契約を反故にしてトラブル(裁判沙汰)になる事例が少なからず起こっている。

妊娠出産には女性ホルモンの分泌増加や本能的な愛着形成(保護欲求の強化)が関係しているので、代理出産の経験がない代理母本人にとっても『想定外の感情・情緒的なこだわり』が赤ちゃんに対して生まれてしまう可能性がある。

そういった心変わり(代理母ビジネスの契約違反)を防ぐために、『高額の違約金・出産後すぐの引渡し契約』を設定していても、女性ホルモンや本能、情愛の影響でスムーズな赤ちゃんの引渡しができないことはあり、依頼者も代理母も双方が苦しくてつらい心理的葛藤を経験してしまう恐れがある。

大富豪とされる20代の日本人男性が、タイのバンコクに所有するマンションで9人もの乳幼児を代理母に出産させて、ベビーシッターに代理的な養育をさせていたという事例では、更に大きな倫理的問題と法律の抜け穴、犯罪発生のリスクが危惧されることになった。

この20代男性は、9人の子供以外にもタイ人の代理母を利用して子供を出産させており、代理母のエージェント会社に対して、『長期間にわたって毎年10人以上の子供が欲しい』という親子関係の常識から逸脱した依頼をしていたことにも話題が集まった。現在に至っても、この20代男性がなぜそこまで沢山の子供を希望していたのか不明であり、男性は一切のインタビューにも応じない構えのようだ。

この男性が妻との同意の元で子供を依頼していたかどうか(そもそも結婚しているかどうかパートナーがいるかどうか)も分からず、男性が単独で自分の遺伝子を引き継ぐ子供を大量に生み出そうとしていただけ(男性自身が父親として実際に育児をするような協力姿勢は見られず、10人以上はいると見られる子供の世話はすべてベビーシッターに委託している)の可能性もある。

代理母の濫用による大量出産には、タイ周辺国の治安情勢の悪さや人身売買の横行などもあり、『人身売買・児童売春・臓器売買など代理母の犯罪利用』も可能性としては懸念されるところであり、代理母のビジネス化が進んでいる国においても『一年間に代理母を使って出産することが許される子供の数・累計で持つことができる代理母が産んだ子供の数』には一定の法規制をかけるべきだろうと思う。






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