佐世保市の事件と加害者の動機・人格を巡る臆測2:人が信じたい仮説と事実・因果の臆測

未成年者の凶悪犯罪には、親の育て方や関わり方の道義的責任(監護責任)がどうしても追及されやすくなるが、子供と小さな頃から関わってきた親の気持ちからすれば、その多くは『生まれながらに人を殺すことを楽しむ子供・先天的異常で人を殺傷する運命を背負わされている子供』がいるというのはやはり俄かには信じがたいということもある。

『被害者の子供への同情・悲しみ』と『加害者の子供への憤慨(処罰感情)・怒り・恐怖』という反射的な二元論の感情はあるとしても、環境的なマイナス要因(虐待・放置・孤独)や養育環境のストレス(異常な価値観の学習)が何もないのに、生まれながらに『ただ人を殺したいから殺す(人を解剖してみたい)』と遺伝的・決定的に考えるようになってしまう子供がいるのだろうかという疑念は残る。

佐世保市の事件と加害者の動機・人格を巡る臆測1:遺伝要因と環境要因の分断

それは科学的根拠に基づくものではないが、経験則的には家庭環境の異常(虐待・放置・無視)や学校生活への不適応(いじめ・孤独感)などがないにも関わらず、性格や考え方が他人に危害を加えようとしたり、一般的な楽しみ・遊びを共有できなくなったりする方向に歪んでいく子供は多くないように感じられるからである。

無論、どんなトラウマやストレス、虐待環境、異常な価値観の学習があったとしても、実際に人を殺してしまったり遺体を損傷したりする子供はまずいないのだから、この加害少女の性格構造や行動理念がその時点において正常ではなく常軌を逸していたとは言えるし、『生得的な脆弱性(ストレスによる性格・価値観の歪みやすさ)』も併せ持っていると推測される。

確かに、自閉症(広汎性発達障害)や知的障害といった生後の環境に発症の有無が左右されない先天的障害はあるが、それでもそういった障害が他害行為と直結しているわけではなく、今回の加害少女にそういった先天的障害が診断されていたという情報は出て来ていない。

加害少女は3~5歳といった可愛い盛りの幼児期にも、親が笑顔で語りかけても笑顔を返さず、お母さんやお父さんの愛情・関心を求めてしゃべり掛けることがないような冷淡な子供だったのだろうか、そこまでの情報は出てこないので想像するより他ないが、生まれながらに嗜虐的・攻撃的なサイコパス(精神病質)としての変わりようがない気質を持っていたという客観的証拠も乏しいように思う。

『氏か育ちか・遺伝か環境か』というのは、性格心理学や発達心理学における普遍的な原因究明の課題だが(現状では遺伝要因の比率が高いとする研究も多いが)、佐世保市の事件も、『殺人という重大な結果』がなければ『非行や暴力・不登校・性格の偏り(愛情飢餓)の原因』になってもおかしくない家庭生活や親子関係のマイナス要因はあったように思える。

父親に対する不満・怒りが、非行や家出、不登校、性格の偏りのレベルで表現されていたのであれば、『全く理解できない性格・考え方』というようには受け取られなかったはずだが、『無関係な他人(同級生)の殺害』に至ったことで合理的な因果関係の理解の筋道から逸脱してしまった形になった。

あるいは、加害少女の内面を合理的・共感的に理解しようとしてあれこれ考えることが、何の落ち度もない被害者の女子高生に対する裏切りや冒涜(冷たさ)のように感じられる原因にもなっている。被害者は加害者の怨恨・憎悪を買って殺されたわけでもなく、加害者の少女が家庭環境の影響によって人格形成が暴力的な方向に歪んでしまったのだとしても、そんなことは被害者の少女には何の関係もないことだからである。

メディアが父親の特異性や問題行動として報じた内容には、『実母の死後間もなく若い女性と再婚をした(東京から来た若い後妻をチラシで近隣に触れ回るような行動を取った)・精神的に不安定な高校生の娘をマンションで独り暮らしさせた(100万円以上の大金を与えて放任した)・本人は色々事情があって留学することになったと学校で報告していた(家にいづらい環境があり留学準備を理由に独り暮らしさせられた)』などがあるようだ。

加害者少女の異常性・暴力性を示すものとして取り上げられた言動にも、『小学生の頃に何回も給食に異物を混入した・動物を虐待したり解剖したりした・父親を金属バットで襲撃して大怪我をさせた・人を殺しバラバラにしたかったとの供述・生前の実母も殺そうとしたことがあると友人に語った』などがある。

実母の死に対する喪の期間が短かったり、娘を遠ざけるような父親の関わり方が悪かったから、加害者の性格形成が歪んだのか、先に娘の暴力・問題行動があって手に負えなくなったから、家庭環境が悪くなって父親が娘から遠ざかるような態度を取ったのかは、本人たち以外の目からは『卵と鶏』で答えを見出すことはできないだろう。

小学6年生の時に給食への異物混入事件を起こしたというが、それ以前の親子関係や親の夫婦関係、家庭環境の影響についての報道はないし、加害者の少女本人は『事件の動機や心理状態に対する両親(家庭)の影響』を全否定して、何の理由もなく自分はただ殺したいから殺しただけのサイコパスであるかのような供述を続けている。

父親のことは昔から尊敬していて、父親の再婚には賛成だったし継母との関係も良好だった、留学には自分から行きたいと思っていたというような供述は、『家庭や親子関係には何の問題もなかったこと』の強調であり、『自分の先天的な異常性・自分が常識的な理解の範疇を越えた特殊な存在であること』のアピールでもあるが、こういった一連の少女の発言が『自分の本心・本当の動機』を語っているものかどうかは検証のしようがない部分もある。

加害少女の人格形成の歪みや猟奇犯罪の動機を説明する『合理的な仮説(少女の長期にわたる家庭・親からの疎外感や見捨てられ感、間違った価値観、愛憎の高ぶり)』はいくつも考えられてはいる。

だが、加害者の少女も父親もどこまでが本音(本心・事実の開示)でどこからが建前(見せ掛けの自己呈示)かが分からない以上、それらの心理的原因や生得的原因を求める仮説は『(それぞれが信じたいと思う物語的・擬似科学的な)臆測・想像』の域に留まらざるを得ないように思う。

佐世保市の事件は、インターネット時代の懲罰感情や直情的な正義感(絶対的な悪の設定欲求)によって、未成年の加害者に関する個人情報が流出するなど、『少年犯罪の匿名報道・矯正教育』が形骸化するような流れが見られた。『刑事司法・少年法のルールや量刑』に納得できない大衆感情や実際に少女を知っている人がその情報を公開したいという欲求が、ネット上では制御することが困難になりやすい。

このような一般化して語ることが難しい未成年の凶悪事件では特に、『理解できない(理解したくない)ことによる恐怖・不安・怒り』が、分かりやすい処罰感情や私刑めいた情報公開を生み出すし、自分が望んでいるストーリー(加害者の実像・動機・性格形成プロセスとして信じたいもの)を補強するような臆測・誇張を呼びやすい。それは私も含めて犯罪の背後にある心理学的要因を思わず考えてしまう人にもあるし、反対に、生まれながらの生物学的原因(サイコパスや脳の器質的障害)を主に想定したくなる人にもある心理だろう。






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