自己愛の充足と“働くこと+愛すること”との関係性1:仕事におけるやり甲斐と自己承認のポイント

人生にとって大切なことは、働くことと愛することだけではないが、それでもやはり『自分の仕事(職業活動)が上手くいっていること』や『愛することのできる他者がいること(愛して愛されるような関係があること)』は、人間の精神状態の安定や社会適応の良さと密接に関係している部分があります。

単純に言えば、仕事(職業活動)と結婚(恋愛)が上手くいっているか否かということであり、『生活に必要なお金をどのような気持ちで稼げているか』や『自分が安心したり幸せを感じたりできる人間関係があるか』ということですが、これらを完全に価値がないものだと本気で思える人間というのはやはり少ないからです。

“自己愛の満たし方の分類”と“理想自我とのギャップが生む落ち込み”

現代人の心理的な苦悩の大半も、仕事(職業活動)と結婚や恋愛(近しい相手との人間関係)に由来していると考えられます。仕事が上手くいって自分の職業に誇りを持っている人、金銭面で差し迫った貧窮がない人、自分を大切に思ってくれる他者がいる人(愛して愛される好ましい関係があること)というのは、身体的にも精神的にも病気になりにくいですし、一般に人生や物事に対する前向きな意欲も高まりやすいでしょう。

大多数の人は、生きていくために働いて収入(自分・家族の生活費)を得なければならない、これは精神分析でいう『現実原則』の中核にある規範でもありますが、『仕事はつらいもの・嫌々でもしなければならないもの』という思い込みが強いと、現実そのものが嫌(苦手)になってしまいやすいのです。

自分の『自己愛(自分は価値がある人間だと確信できる自己承認)』を、職業活動や社会的役割を通して満たせる人というのは、その意味では『生きづらさを感じにくい人』ですが、あまりに仕事や社会適応にエネルギー・時間を注ぎ込み過ぎて『燃え尽き症候群』のリスクが上がってしまう事はあるかもしれません。

勉強をして良い大学や企業に入りたいという人は多いが、それも人生の時間の大部分を費やすことになる『仕事・職業』が不本意なもの(やり甲斐のないもの・極端に収入が少ないもの)にならないようにというリスク回避の動機づけに根ざしています。勉強したり資格を取ったりして、何らかの分野の専門性や特殊な技術を身につけるというのも、社会的・職業的な分野での『自己愛の充足』と関わりがあると言える側面があります。

専門家(技術者)や職業人として働いて自立できるというのは、ただ『経済的な自立』だけではなく、自分がやり甲斐やプライド、自身を持って働けるという『自己アイデンティティの確立+自己愛の充足』を意味しています。

芸術家・作家・歌手・思想家・クリエイター・芸能人・スポーツ選手のような仕事は、一般的なサラリーマンにはない『特別な魅力のある仕事』と見られやすく、どこか堅気の地道な仕事とは異なるという印象を持たれやすいものです。

それは『自分の長所・能力・才覚を伸ばして発揮する仕事(自分の好きなことを仕事・プロとして通用するレベルにまで高めて維持・向上するプロセス)』というのが経済的な自立だけではなくて、自分の理想自我を反映した『自己愛・承認欲求の充足』を伴っているように見えるからであり、『義務的に働いている(仕事をさせられている)イメージ』から遠くなりやすいからです。

実際、芸術家や文筆家、思想家、スポーツ選手の中には、『その分野で一流と認められるだけの才覚・適性・実績・収入』がなければ、一般的なサラリーマンとしては通用しないだろうと思われるような自由奔放(豪放磊落)で常識はずれな人も少なからずいます。

一般的な常識には沿っていないが、特定分野で抜きん出た才覚を発揮して評価を得るというのは、自分が表現したいものをひたすらに創造的に表現しているだけの芸術家、自分が持っている天性の才能(身体能力)を弛まぬトレーニングで伸ばし続けているだけのアスリートという感じの人を想起させます。

そういった人は、『自分がやりたいことを徹底的に突き詰める(他のことは殆ど関心の対象にならない)』という自己愛と、『その成果によって社会的地位と収入が得られる』という職業活動が自然に一体化した幸運な人とも言えるでしょうが、無難さ・常識から離れているがゆえの苦悩やリスクもまた大きくなります。

しかし、一般的な会社員や公務員の場合には、『仕事の内容そのもの』ではなく『仕事の地位・役割に付随する権力的関係(他者から一目置かれたり影響力を振るえたりする関係)』によって自己愛を満たせるという人も多くいます。

それは権威的に威張っている意地悪な上司(パワハラをするような人)というわけではなく、上司・先輩の立場に立って部下・後輩を普通に指導したり教えてあげたりする時にでも、自分がその組織における上位者(事情をよく知った者・気を遣わないで良い立場)であるという満足があるわけです。

形式的であっても、後輩・新人が自分を立ててくれること(先輩の自分が仕事ができる人だと思って頼ってくれること)に居心地の良さを感じるものですし、今でも年功序列の感覚が残る日本では特に、勤続年数が長い人のほうが短い人よりも優位な立場になりやすい面はあります。






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