孫子とカール・シュミットの性悪説的なリアリズム2:シュミットの政治観と友敵理論

孫子のリアリズムは『支配と略奪・権力闘争』をイメージさせるが、ドイツの政治学者カール・シュミット(1888-1985)もまた政治のリアリズムを『権力闘争・友と敵の区別』に求めた人物である。

カール・シュミットは『第二帝政のドイツ帝国・ワイマール共和国・ナチスドイツ・戦後の西ドイツ』という4つのドイツの政治体制を経験したが、ナチスドイツの台頭期に政治の本質や政治学の意義を考えた『政治的なものの概念(1932)』という著作を著した。

『孫子の兵法』の戦略性とリアリズム1:彼を知り己を知る・戦わずして勝つ・権謀術数

シュミットは国家・政治権力の必要性に基づく政治理論を考察するためには、人間を生まれながらに『悪しきもの(権力・法で規制すべきもの)』と前提する『性悪説』の立場に立たなければならないとした。仮に、人間を生まれながらに善なるものとする『性善説』の立場に立てば、国家や法権力で人間を規制したり強制したりする必要がなくなるばかりか、国家・法の権力そのものが、『自由で善なる人間』を束縛して抑圧する悪しきものと見なされる恐れがあるからである。

政治や体制のリアリズムでは、『国家権力を廃絶する無政府主義(アナーキズム)』『法秩序・伝統規範を無視する自由至上主義(リバタリアニズム)』は現実的ではない(多数の賛同は得られない)というのがシュミットの政治観であり、これは大多数の人々の常識的な政治・社会の捉え方とも一致するものである。

人間は生まれながらに善であるから、国家や法律に制御・規制されずに自由にやりたいように振る舞えば、社会の適度な秩序が保たれて各個人はもっと幸せに豊かになる(権力の抑圧・強制が全くないほうが社会も個人も上手くいく)というのは確かに空想的(非現実的)かつ牧歌的(楽観的)な政治観といわなければならない。

その一方で、シュミットの権力闘争を前提とする操作的・統制的な政治観では、『教育教養・経済の効果(教育された人間が善性・倫理感覚に近づいたり、経済社会が豊かになることで、強い強制や権力の威圧を必要としなくなること)』が軽視されているような感覚もある。

しかしシュミットの政治学が言わんとしていることは、人間は生まれながらに善だとも悪だとも断定はできないが、必ず『悪しき行為(他者と戦って奪い取ろうとする行為)をする利己的な人間』がある程度の割合で存在し続ける現実がある以上、政治学のリアリズムは『危険で利己的(動態的)な人間像』を要請するということである。

確かに、人間の中には他者に危害や迷惑を加えることがない人、他者から何も実力で奪い取ろうとはしない思いやりが深い善人も多くいる、また、ダイナミックかつ行動的に他者を押しのけてでも自分の利益を追求しようとはしないスタティック(静態的)で大人しい人もいるが、そういったことはシュミットも百も承知なのである。

それを踏まえた上で、国家が貧しくなれば(国民の不満が強まれば)国は外国を敵視する要因を見つけるようになる、生活が苦しくなれば国民は生活水準が低下した不満を自分の外部・外国にぶつけやすくなるといった現実をシュミットは指摘して、国家や人間は『敵』を作り出して戦う可能性(何かが原因で自分が圧倒的な苦難に陥っている時に敵を滅ぼしたり奪おうとする悪しき本性)を常に持っているというのである。

シュミットは政治に固有の本質や指標として『友(味方)と敵の区別』を上げており、道徳が善と悪を区別し、美学(芸術)が美と醜を区別し、経済が利益と損失を区別することを本質的な判断の指標とするように、政治は友と敵を区別して自分+友の利益を最大化しようとする『友敵理論』を、その根底的な行動基準として持っているのだとした。

シュミットが定義する『敵』は、『共存することが不可能な自分(友)の存在様式や価値観を否定する者・勢力』を指しており、単純な利害や意見の対立によって許せないと感じる敵よりも格段に深刻な、『相互否定の動因(相手を滅ぼそうとする動機)』を抱えた敵のことである。

だからといって、シュミットは友敵理論に基づく政治的対立が必ずしも物理的に敵を殺戮しようとする『戦争』に行き着くとは当然考えておらず、『外交交渉・取引・抑止力・妥協と納得・圧力と譲歩』によって政治的対立が緩和するケースも多いとしている。

シュミットは日本国憲法第9条のような性善説的な平和主義はリアリズムに合致しないと考えるだろうが、それは自分が敵対しなければ『友』だけしかいなくなるとは断言できず、他者を支配しようとする『敵』が僅かでもいれば、政治対立から闘争(戦争)に発展するリスクをゼロにはできないからである。






■書籍紹介

カール・シュミット入門講義
作品社
仲正 昌樹

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by カール・シュミット入門講義 の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのトラックバック