カウンセリングルーム:Es Discovery

アクセスカウンタ

zoom RSS 松本清張『砂の審廷 小説東京裁判』の書評2:大川周明・東条英機の確執と汎アジア主義

<<   作成日時 : 2013/09/26 20:14   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

大川周明の日本精神を中核に置いたアジア主義の思想は、猶存社時代の『雄叫び』に書いた大川の文章、猶存社の綱領にも反映されているが、大川は1920年頃に以下のようにアジア主義・アジアの大同団結のために果たすべき日本の役割について述べていた。こういった日本を絶対的盟主の地位に置いたアジア主義のための軍事国家建設思想(アジアを団結させて白人の世界支配を終わらせる神の国の思想)が、国家・国民を誇大妄想めいた思想で騙し、無謀な戦争へ誘導した罪として評決される対象になってもいた。

○松本清張『砂の審廷 小説東京裁判』の書評1:戦時中の右翼思想を代表した大川周明

『われわれ日本民族は人類解放戦の旋風的渦心でなければならぬ。従って日本国家はわれわれの世界革命的思想を成立せしめる絶対者である。日本国家の思想的充実と戦闘的組織とは、この絶対目的のために神そのものの事業である。国家は倫理的制度なりしと云ひしマルチン・ルーテルの理想は今や日本民族の国家に於いて実現されんとする。眼前に迫れる内外の険難危急は国家組織の根本的改造と国民精神の創造的革命を避くることを許さぬ。われわれは日本そのものの為の改造または革命を以て足れりとするものではない。吾人は実に人類解放戦の大使徒としての日本民族の運命を信ずるが故に、まず日本自らの解放に着手せんと欲する』

アジア主義を唱導した大川周明は、『日本と中国との和平及び協調』がなければ、世界最強国であるアメリカと軍事的に対抗することはできないという国際情勢の客観認識を持っていたという面において、他のただ好戦的なだけの民族主義者、現実の力量の差を顧みずに精神論だけで米国に勝てるとする軍国主義者とは一線を画していた。

更に中国大陸における日本人の中国人に対する差別的・暴力的(恫喝的)な態度や優越意識に対しても、『アジアの大同団結を阻害する要因(=日本人がアジア人を自分たちよりも一段低い存在と見ており、白人のような人種的優越感によってアジアの連帯が成り立たなくなる要因)』として憂慮していたようである。南京虐殺についての連合国軍の検察の尋問に対しても、『中国来訪時に自分は虐殺は目撃していないが、日本兵の中国人に対する扱いはおしなべて差別的であり暴力的なものであった(中国人に対する殺害までは見ていないが暴言や殴打、虐待は何度か目撃しているという証言をした)』という事実については認めている。

大川周明は昭和14年の『亜細亜・欧羅巴・日本』の論文で、東洋世界の代表国である日本と西洋世界の最強国であるアメリカは必然的に戦う運命にあるという予言をしていたが、大川自身は猶存者の時代には『大英帝国打倒による中国の救済+日米連携』の考えを持っていた。太平洋戦争前にも『日米戦争回避・日中戦争(支那事変)との両面作戦の不可能性』を主張してそれまで友人であった東條英機(陸相時代)と外交・軍事を巡る意見の対立から絶縁している。

東京裁判では、脳梅毒による心神耗弱状態に陥った大川周明が、前席に座っている禿頭の東条英機元首相の頭を平手ではたく奇行が知られており、頭を叩かれた東条元首相は苦笑いのような表情を浮かべてやり過ごしている。東條英機の頭をはたいている時の大川周明は脳梅毒を原因とする精神障害で正気を維持していなかったとされている。

しかし、大川は東条英機のことを支那事変(日中戦争)を解決しないままに敗戦必至の日米戦争に突入することを決断した人物、結果、大日本帝国を破滅させた軍人・首相として否定的に見ていたという前置きがあるために、『東条英機の頭をはたく大川周明の絵図(YouTubeに動画あり)』はそれを見る人に独特の解釈の気分を引き起こさせるだろう。

満州事変が泥沼化の様相を呈してきた時期に大川は、ドイツからの仲介を受けてアメリカとの対話姿勢を崩さず、中国から速やかに撤兵して『対米戦争の好機(日本の国力の回復・発展)』を待つことが、日本を現在の危険な国際情勢から救う手段であるというような事を東条陸相に進言する。しかし、東条英機は『支那より撤兵することは靖国神社の英霊に申し訳が立たない』として大川の進言を拒絶して、1940年における決定的な大川と東条との絶交にまで至るのである。

日本改造・革命の計画の心労を慰撫するために、大川周明は新橋・池之端の花街に通いつめていた時期があるといったプライベートについても触れられており、それが梅毒感染の原因になったのではないかという伏線になっているが、大川は脳梅毒の精神障害(責任能力・答弁能力がないとする判断)によってA級戦犯としての断罪法廷を免れることができたのは皮肉かもしれない。

しかも、東京裁判が終審した後には、大川は脳梅毒の治療が無事に成功して、従前の知性・知識と人格機能、言語能力(まともに会話できる能力)を取り戻しているため、一部には裁判中の大川の奇矯な常識外れの振る舞いは(報復裁判から逃れるための)『詐病・演技』だったのではないかとの意見もあったという。

東京裁判は『事後法による遡及処罰・戦勝国の戦争犯罪の不問・敗戦国の言い分(戦争目的)の全面的却下』などの要因によって、一方的な報復的断罪のための不正な裁判だとするような反論もある。一方で、東京裁判・A級戦犯処罰の結果を受け容れた『サンフランシスコ体制(米ソ冷戦構造+平和主義憲法)』の享受によって、日本は人権・自由・平和を重視する民主主義社会を再構成しながら経済成長に専念することができた(大日本帝国時代の臣民意識や価値観の統制から個人として自由な人生を歩めるようになれた)という恩恵もあり、現代から見た東京裁判の評価は法的にはともかく功利的にはモザイク状のグレーなものにならざるを得ない部分もあるだろう。






■書籍紹介

昭和史発掘〈1〉 (文春文庫)[新装版]
文藝春秋
松本 清張

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 昭和史発掘〈1〉 (文春文庫)[新装版] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コンテンツ

日本の古典文学

ことわざ事典

食べ物・料理の知識
スポンサーリンク


ブログアーカイヴ
2005年
3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2006年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2007年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2008年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2009年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2010年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2011年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2012年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2013年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2014年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2015年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
2016年
1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月
松本清張『砂の審廷 小説東京裁判』の書評2:大川周明・東条英機の確執と汎アジア主義 カウンセリングルーム:Es Discovery/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる