U.ベックの“個人化”と自由・孤独な個人の“自己の物語化”によるアイデンティティ再構築

ドイツの社会学者のウルリッヒ・ベック(Ulrich Beck, 1944~)は、近代社会では個人は伝統的な家の縛りや村落共同体、血縁共同体、身分階層、宗教の規範からどんどん解放されていく『個人化(individualization)』が進展すると指摘したが、これは伝統的な共同体やその規範・慣習からの『自由な個人の解放』を意味してもいた。

この記事は、『近代化による“自己(自分)”と“共同体感覚”の変化:帰属感・安定感を弱める現代の自己』からの続きになっています。

U.ベックは『第一のモダニティ(first modernity)』では個人は『前近代的な家系・身分・宗教・村社会』から解放されて、『近代的な近代家族・企業(役所)・束縛の弱いコミュニティ・階層集団』などに再編成されて帰属していくとしていたが、現代社会で進行している『第二のモダニティ』では個人はそういった近代の家族や企業からも解放あるいは疎外されて『帰属先を持たない孤独・不安』を味わうようになるという警鐘も発している。

近代以降の社会における『自己』『物語的自己』と呼ばれるように、近代的帰属先である『家族・会社・国家・ライトなコミュニティ』などの社会的ストックを参照しながら、自分自身についての叙事的あるいは抒情的(感情的)な物語を語るようになる。

カウンセリング技法としても『ナラティブ・セラピー(物語療法)』という自分の人生や人間関係について物語的に語っていくことで、自己アイデンティティを再構築して精神状態を安定させる技法がある。

このように、近代の不安定で孤独な自己は『帰属・活動の記憶・人間関係などの社会的資源』を参照しながら自分で自分について物語を語っていくこと(その物語を他者に聞いてもらうこと)で『自己の存在実感』を補強しているというところがある。

『自分についての物語』は、その結末がポジティブなものかネガティブなものかによって、そのプロセスに配置される物語の素材・記憶が変わってくるので、『客観的な事実としての人生記述』とは異なるが、自分の好きなように物語の構成を変えられるが故に、『主観的かつ対話的(双方向的)な人生物語』によって人間の生きる喜びや意欲が高められるという効果が期待できるのである。

ここでは、自己や自意識(自我)の強さが近代社会に特有のものであるという理由を語ってきたが、近代化が十分に進んだ現代社会においてもなお『人間(個人)は一人だけでは生きていけず、自己(自分自身)の存在意義やアイデンティティを確立しにくい』という限界を背負ってはいる。

社会学では、ゲオルグ・ジンメルの『相互作用(相互行為)』による個人化と社会化の絶え間なき進行・葛藤に見るように、『自己』も『社会』もそこに実体としてあり続ける実在(存在)などではなく、他者や社会との相互作用によって日々刻々と作り上げられている可変的な現象(認識)として定義されている。

他者から独立した自由な自己(個人)、社会から独立した自由な自己(個人)というのは観念的・理論的なイメージとしては有り得るが、実際に現実社会で生きる個人は、たとえ誰とも関わらないような隠棲・ひきこもりの生活をしていたとしても、『外部社会・経済状況の変化・他者のまなざしによる影響』をゼロにすることはできない。相互作用によって自己の意識や行動の意味づけは無意識的に変化を続けることになる。

また、『近代的な自己』は読み書き計算ができたりメディアのコンテンツを読んで理解することができたりする『社会化(学校教育による学習)』の影響をほぼみんなが受けていて、タルコット・パーソンズがいうように、近代における『自己』とは社会的に共有されている価値・常識を一定以上に内面化しており(ミシェル・フーコーのいう規律訓練システムとしての学校・企業が機能しており)、それに従って行動する(そうしないと不利益が多いことを意識している)という傾向を強く持つ。

『社会的・制度的に共有される価値基準』を意識的に無視するにしても(自分は自分のやり方で自由にやると決めるにしても)、社会の平均的な価値(他者の常識的な感覚)をはじめから全く知らなかったという自然的・自立的な態度を取ることは(近代的な教育を受けた文明人であるという前提では)原理的にできないのである。

社会学の理論では、個人と個人、個人と社会の相互作用によってリアルタイムで形成されたり変化したり演技したりしている『自己(自意識)』や『社会』についての概念化や分析的な考察が行われているが、興味のある方はウェブサイトのコンテンツも読んでみて下さい。

○ウェブサイトの関連URL

ゲオルグ・ジンメルの人間観と秘密・信頼関係

タルコット・パーソンズのダブル・コンティンジェンシーと役割期待,社会秩序

アーヴィング・ゴフマンのドラマツルギーと役割演技・役割距離






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