“studygift”の学費支援サービスはなぜ炎上したのか?:どういった学生を支援するかの認識のズレ

2012年5月17日に開設された“studygift(スタディギフト)”は、不特定多数の賛同者から寄付を集めて、学費の支払いに困っている学生を支援するクラウドファンディング・サービスですが、学費支援を求めていた早稲田大学・元学生の坂口綾優さんはSNS“Google+”で多くのフォロワーを集めた有名人だったこともあり、わずか2日で195人26社から目標額の87万円を集めました。

しかし、初期の段階での坂口さんの『学費支援を求める理由・現在の大学在籍(学籍)の状態』についての説明が不十分だった事もあり、既に学費未納で早稲田大学を退学しているのに『(現時点でも大学に通学を続けており)大学に通い続けるためという理由』で、学費の支援を募ったのは虚偽・詐欺ではないかという批判が起こりました。その後、現時点で中退になっている状態の大学に復学するための支援募集という名目に切り替えましたが、初めの募集の理由が事実と異なっていたことや運営者の対応が謝罪よりも反論に徹したことで、長期にわたって炎上が続きました。

運営に携わっていたメンバーのヨシナガさんが、経済的に困っている坂口さんを自宅に下宿させてルームシェアしていた事が分かり、二人が特別な男女関係にあるか異性としての好意を持っている為に、このサービスを熱心に立ち上げたのではないかと勘繰られたりする事態も起こり(本人は恋愛や特別な好意を明確に否定してますが)、苦学生の学費を支援するというstudygiftの理念の公正性が疑われることにもなりました。結局、5月28日にstudygiftは、サイトの活動停止と集めた支援金を全額返金することを決定せざるを得なくなりました。

閲覧者がサイトを見て自分が納得(共感)した学生に対して、学費の支援をするというstudygiftのクラウドファンディングの理念は素晴らしいと思いますが、プロジェクト立ち上げの時点で支援対象となる学生が坂口さん一人しかおらず、アップされている本人の写真(若くて魅力的な女性のイメージ)やその知名度の高さから『アイドル的な認知』がされてしまったことも炎上のしやすさにつながったのかもしれません。

つまり、複数の支援対象の学生のそれぞれの理由や近況、目的意識などを比べてみて、自分が最も共感したり応援したいと思った学生に学費支援するような状態にはなっていないので、『苦学生一般を支援するサイト』ではなく『(写真・雰囲気・SNSの活動などが気に入った人が勉学への意欲云々とはあまり関係なく)坂口さん個人を支援するサイト』のように映ってしまいやすかったというのはあると思います。

その部分は運営代表の家入一真氏も、『彼女ありきのサービスだった。学費に窮している彼女の存在が、考えるきっかけになった。まずは彼女を救うところから始めて成功のイメージを作る。そこから支援の輪をほかの学生にも広げていくストーリーだった。でも今では最初に2、3人用意できたらよかったなと思います』というコメントを出していますが、ネット内である程度の知名度がある坂口さんをモデルケースとして活用することで、成功モデルを作りたかったという目的があったようです。

学費の支払いに困っている学生を支援するという善意の理念で、実験的に始められた民間のウェブサービス(運営者の手出しで始められたサービス)なので、初めのモデル的な支援対象として、坂口綾優さんのようなSNSでの知名度が高くて写真(外見)でも好印象を得やすそうな女性にある人を選んだこと自体は悪くないし、支援を集めやすく話題になりやすいという利点もあったと思います。

しかし、『坂口さん以外の応募者がおらず募集理由・学業への意欲などが比較できない点』『優秀なのに学費の支払いに困っている学生を救いたいという公共的メッセージのみが強調された点』を考えると、学費に困っている学生一般ではなく坂口さん個人だけを応援しているようなサイトの形式に対する不満(不公平感)が元々あったのでしょう。そして、まだ大学に在籍していると思われていた坂口さんが、既に退学しているという事実が分かったために、虚偽の情報で資金を集めるのは不正だ(ずるい)という非難が巻き起こったわけですが、ここでは『どういった人がクラウドファンディングの支援・投資を受ける資格を持つのか』に対する大きな認識のズレもあったように思います。

studygiftのサービスに対して“公共性・公正性(より勤勉に勉学を頑張っている人が支援を受けるべきという奨学金的な選別基準)”を期待していた人たちが、坂口さんが簡単に短期間で学費支援を集めてしまった状況に対して、一方的に落胆したり嫉妬したりした側面もあるでしょう。また目標金額を超えてお金が集まってしまった事で、学費以外にもお金が使われてしまうのであればそれは不公正ではないかという批判もあり、ウェブで不特定多数からの寄付を集める行為自体の難しさや節度というのもありますが、日本では特に『労働に依拠しない金銭の獲得(自分自身が最大限の努力をしてもどうにもできないよほど特別な理由がないのに寄付を募る行為)』に対しては道徳的な反発や感情的な嫉妬は強いように思います。

状況が可哀想だからとか考え方に共感したからとか見た目が好きだからとかいう理由で、寄付をする行為自体が悪くないにしても(不特定多数からの寄付・資金集めには法的制約もあるようですが)、感情的にそういった寄付を集めることに反発する人(ずるくて怠惰なやり方だと非難する人)もかなりいるというのは前提として認識しておかなければなりません。日本経済の雇用状況や所得水準の厳しさの影響もあり、働いて得られる所得が少なくなっていることも関係しているでしょう。

自分はもっと真面目に大学に通学して勉強も頑張っているんだから、SNS・海外旅行の活動に多くの時間を割いていた坂口さんよりも学費支援を受ける資格があるというような意識を持っていた人もいたのではないかと思いますが、studygiftは『(成績・勤勉さなどだけに基づいた)客観公平な選別基準』というより『(理由・意欲・写真も含めた自己PRとそれを見た人による)人気投票的な選別基準』を意図したサービスという側面もあります。今回の炎上では、studygiftの公共性・真実性に期待した人の誤解・憤懣のようなものもあったように感じます。

運営者側からすれば『公共的・奨学金的な支援対象の選別基準(支援対象者の勤勉性・倫理性・成績)』などは殆ど意識していなかったように思いますが、クラウドファンディングというものは元々、『支援(投資)を求める人の写真・情報・理由・意欲・発言』などを見た閲覧者が、その人を気に入れば支援すれば良いし気に入らなければ支援しなければ良いというある種の市場原理(自由意志の人気投票)に任されたものではないかと思います。

実際にstudygiftで坂口さんに出資した当事者からの不満・非難・クレームは殆ど出ていない事からも、studygiftの人気投票的な支援基準が伺えますが、『どういった状況にある学生を支援したいのかという目的・理念』が固まっていないうちに、成功モデルとして坂口さんの学費支援を拙速に集めようとした事が裏目に出てしまったのかもしれません。

但し、今回は支援対象のモデルケースとして選んだ坂口さんの大学在籍の状態についての情報公開に誤りがあったため、学費支援に特化したクラウドファンディングであれば『応募者の学籍・通学状況・成績・卒業(課程修了)する意欲』などの裏付けを取ることは必要でしょうね。

家入氏はTwitterで「今までの『どんな人にいくら渡るのか分からない寄付』ではなく『この人に共感するから支援』をやはり実現したい。一度仕切り直してでも。議論したい」としていますが、困っている学生の学費支援を中心理念として据えるのであれば、『容姿の魅力や貧乏自慢、自己アピールなど学業・学校とは関係のない何でもありの共感・人気・好き嫌いを基準にするのか』『大学での目的意識(将来の夢)、通学状況(卒業の意志)、勤勉と向学、成績などある程度従来的な基準も織り込むようにするのか』についても考えておくべきかもしれません。






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