人間関係の悩みと“他者の愛情・承認”を求める普遍的な欲求1:対人魅力の要因と距離・美の基準

社会心理学では人間関係において、人が人を惹きつける対人魅力やその要因について以下のように様々に分類しているが、『人が人との交わり(他者からの承認・愛情・評価)を求める欲求』は、特別なトラウマや性格傾向の偏り、生活の困窮などがない限りは、ある程度普遍的なものである。心理的な苦悩や不調の原因になるものの多くも、孤独で他者から愛情や承認を得ることができなかったり、重要な他者から自分の価値や尊厳を否定されて傷つけられたりといった『対人関係の問題・悩み』と何らかの形で関係している。

1.環境的要因……家・学校・職場などが近くて、実際に顔を合わせたり会話をする頻度が高かったりすると、(嫌悪感を抱いていない)相手への好意・親しみやすさが生まれやすくなるという単純接触効果で対人魅力も高まる。

2.外見的要因……帰属社会で共有されている『美の基準』に適っている容姿やスタイル、愛嬌を感じさせる親しみやすい表情、きちんとした身だしなみをして清潔感(信頼感)を感じさせる外見は、相手の好意的な注意や関心を惹きつけるので対人魅力も高まる。

3.生理的要因……強い不安を感じて心細い時や恐怖を感じていて誰かを頼りたい時、孤独感に苛まれていて誰かととにかく話したい時などには、その場に一緒にいる人の対人魅力は高まりやすい。

“吊り橋効果・ジェットコースター効果”と呼ばれる生理学的な興奮状態(心悸亢進)では、恐怖による心拍数の高まりを相手のことが好きだからドキドキしていると思い込んでしまう『原因帰属の誤謬』が起こりやすい。“フィーリンググッド効果”ではロマンティックな気分を楽しめるような環境やリラックスしてゆったりしているような状況などで、一緒にいる相手に対人魅力を感じやすくなる。

4.性格的要因……話してみて相手と趣味や話題、価値観が共通していたり、『自分に対する行動・発言』が共感的で優しさ・思いやり(頼りがい)を感じられる時には、相手の性格に対する好感度(評価)が上昇して対人魅力も自然に高まる。対人魅力に与える性格の影響では、客観的な性格の良さ・悪さよりも、『自分と向き合っている場面』での相手の言動や態度に主観的に好印象を感じるかどうかのほうが重要である。

5.社会的・経済的要因……社会的な地位を得ていたり、職業キャリアを積み重ねていたり、平均以上の経済力を持っていたりする社会経済的で実利性を感じさせる対人魅力。ただ経済力や社会的地位、職業能力を持っているかどうかというよりも、それらの優位性を好きな相手のために気持ち良く使えるかどうかということのほうが対人評価では重視されやすい。

対人魅力を高める環境要因の一つである『単純接触効果』は、頻繁に顔を合わせたり言葉を交わす相手ほど親密になりやすいというシンプルなものであり、『遠距離恋愛の不利』を示す根拠として用いられることもある。入学式(入社式)で隣だったとか学校の席が近いとか、会社で一緒の部屋で働いているとかいった単純接触効果は主に、『人間関係の初期のきっかけづくり』に果たす役割が大きいだけであり、そこからコミュニケーションを重ねて性格や価値観、話題、趣味の違いが明らかになってくると、親しみが薄れていき別の相手と親しくなることもまた多い。

しかし、物理的な距離が近い相手のほうが遠い相手よりも関係の構築維持に有利であり、物事に対する態度・価値観が類似している相手のほうが異なっている相手よりも親しくなりやすいというのは一般的に当てはまる原則である。

これは単純に、物理的距離が遠いと顔を合わせて話したり遊んだりするだけでも『大きな経済的・時間的コスト』がかかりやすく、距離が近い相手のほうがより小さなコストで簡単かつ頻繁にコミュニケーションすることができるからであり、身近に親しい相手ができてくると遠い相手のことが意識に入りにくくなるからである。物事に対する態度(好き嫌い・賛成反対)が大きく異なっている場合にも、二人のコミュニケーションを楽しく展開するためにあれこれ相手を刺激しないように気遣いしなければならず、その『心理的・時間的コスト』が大きくなるので、一般に物事・人生に対する態度や価値観が異なる相手とは親しくなりにくい。

これらの事から言えるのは、大多数の人は可能であれば“より小さな心理的・経済的コスト”で楽しいコミュニケーションをしたいと思い、構築した人間関係をスムーズに維持したいと思っているという事であり、『心情的・記憶的な要素』が強く働く人間関係にも一定の『節約原理(効率性の重視)』が働いていると考えられる。

物理的距離が離れすぎてそれを縮められる見通しが立たない時、あるいは以前はお互いに似通っていた価値観・人生観・物事への態度が、いつの間にかその溝を埋められないほどに異なるものになってしまった時には、『心理的・経済的コストの上昇』に耐えられなくなり、意識しないままに疎遠になってしまう事も多いのである。

外見的魅力は恋愛の異性関係において重視される事が多いものだが、少し前までは『男性の経済力・頼りがいと女性の若さ・美貌の交換(つりあい)』によって男女の異性選択が成り立つという“社会的交換理論(バランス理論)”が言われていた。しかし、近年の先進国では女性の社会進出が進んだり男性の平均所得が下落したりして、従来的な性別役割分担のジェンダー(男は仕事・女は家事育児など)が大きく揺らいでおり、男性の経済力への依存性が低下する反面、男性にも女性のように『美しさ・格好良さ・愛嬌の基準』が適用される場面が増えているようである。

バブル景気前までは、男性は外見を過度に着飾ったり容姿にこだわったりするよりも、中身を磨いて勤勉に働き家族を支えることに重点が置かれてきたし、現在でも平均的な傾向性(平均的な女性の好み)としては男性の外見(美的外観)は女性よりも重視されてはいないが、若者を中心に一部で男性用のエステや化粧品が流行する(男性が自分の容姿や体毛について劣等コンプレックスを深める)など、かつての時代とは明らかに異なる価値観が出てきていることもまた確かである。

その背景には、男性の平均所得が低下して家計を一人で支えることが難しくなり、就業率が上昇した女性もまた男性にそこまでの経済的責任を求めずに共働きすることが多くなったことがあり、その『代理的な補償(マスメディアの影響も含め)』としてかつては余り求めなかった『男性に対する容姿・外見の好み』の相対的比重が高まったのかもしれない。






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