河本準一の“親族の生活保護受給”の釈明会見から見る現代の諸相1:弱者の認定に対する懐疑・差別

お笑いコンビ『次長課長』河本準一氏が推定5000万円の年収を貰っていながら、母親が受け取っていた生活保護の受給を打ち切らなかった事が大きな問題となり、河本氏は25日に母親の受給を継続した事情を説明しながらの実質的な謝罪会見に追い込まれた。この問題が明るみになった発端は、週刊誌が年収5000万円のお笑い芸人の母親が生活保護を受給していると報じたことであり、その芸人が『(正直に親族を扶養できるなどとは言わずに)貰えるものは貰っておいたらいい』という主旨の利己的(社会的責任無視)の発言をしたとされたことから、世論の不満が高まったようである。

受給者が約209万人(152万世帯)を超えて、予算3兆7千億円を計上するという『生活保護費の増大』が財政的な負担になっている事もあり、片山さつき・世耕弘成といった自民党議員も強い関心を示した。片山さつき氏が積極的に動いて匿名報道だった週刊誌の情報から河本氏個人を特定し、厚労省の福祉担当課長に詳細の調査を指示した辺りから、河本氏をマスメディアに引きずり出して母親の生活保護受給の経緯についての釈明会見を行う流れになっていった。

片山さつき氏は河本準一氏に対して『生活保護の不正受給分の返還を求めるべき』という主張を展開したが、河本氏の母親・姉・叔母二人の生活保護受給が法律的に違法だったという意味での『不正受給の証拠』は未だ出ていない。また、河本氏は岡山県の福祉事務所の担当のケースワーカーと話し合いをして、『自分が確実に可能な仕送り額』を決めさせて貰ったと語っている事から、厳密には所得水準からすれば仕送り額が少なかった(本気で扶養しようとすれば生活保護を打ち切ることが可能だった疑惑がある)とはいえ、『法律違反の不正受給』とまで断定できるものではないのだろう。

この『釈明・謝罪会見』は、社会一般の常識的な金銭感覚・生活水準や福祉給付を受け取ることが妥当であるように感じられる資格(困窮の度合い)から考えて、『母親が生活保護を受け取らなくても別に困らなかったのではないかという疑惑』に基づいた道徳的・人格的な吊るし上げに近いものではある。この道徳的・人格的な吊るし上げは、これまでも『生活保護の不正受給者(暴力団・同和部落・在日朝鮮人など一般人よりも審査の甘い属性や対象があるのではないかという疑惑)』に対して社会に潜在的に燻っていた不満が燃料になったものでもある。

『本当は働けるのに生活保護を受け取っている人がいるのではないか・社会的弱者であると偽装したほうが最低賃金前後で働くよりも得なのではないか』というルサンチマン(弱者間の怨恨・理不尽の訴え)が高まっている背景には、生活保護を受け取らずに真面目に働いていても相当に生活が苦しく、ほとんど娯楽・贅沢・レジャーの消費ができないといった“ワーキングプア”と呼ばれる低所得層が増加している事ともおそらく相関している。

能力・努力・健康・運が及ばずに生存権(社会権)が脅かされている人の最低限度の生活を保障するのが『生活保護制度』であり、本来、生活保護受給は正当な理由・状況がある限りにおいて“恥辱・差別・自己否定”と結びつくべきものではないのだが、日本では自助努力の労働道徳が強く、国家(税)に暮らしを頼ることを恥とする文化があったため、生活保護と差別感情・自己否定感は根強く結びついてきた。

更に歴史的には、社会的差別による不利益(就職・婚姻などの差別)があった特定社会集団に対して、生活保護受給が認められやすく半ば既得権化していたことなども、生活保護に対する不公正感・不信感の原因の一つになっている。近年の『労働所得の低下・若年受給者の増加の傾向(身体的・健康的には就労可能だが働いていない状態にある受給者の存在)』も、働いている人のほうが生活保護よりも報われていない気がするという不満感に追い打ちを掛けている。

日本の生活保護支給額は諸外国に比べて突出して多いというわけではなく、GDPに占める比率はOECD加盟国の平均2.4%に対して日本は0.3%に過ぎず、受給者の人口に占める比率もOECD加盟国の平均7.4%に対して0.7%に過ぎない。

だが、日本は働かずに制度的にお金を受け取る事に対する『道徳的忌避感・感情的不公正感』が平均的にはかなり強く、労働無しで生活費を全面的に給付される生活保護制度は、かなりの日本人が抵抗感・敬遠感を示す典型的な制度である。政治でも『子ども手当』に対する反対意見が多かったように、『現金バラマキ型の政策』は基本的に好まれない傾向が強く、同じ予算を掛けるにしても『現金以外のインフラ・モノ・サービスなどの給付』のほうがより適切で公平だと考える人が多い。






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