“家族ペット”と近代家族の揺らぎ2:直系家族から核家族への変化と主観的家族としてのペット

人はなぜペットを飼うのかという問いに対する一般的な答えは、『癒しの体験・寂しさの緩和・生活の充実・子どもの情操教育(生命尊重と思いやりの感覚)』を求めてというものだが、最近読んだ山田昌弘『家族ペット ダンナよりもペットが大切!?』という社会学に関連した書籍では、“主観的家族論”によって『ペットを飼う理由』が説明されている。

『主観的家族論』というのは、客観的には社会・法律によって承認された家族とは言えないが、主観的な認識や関係性、接し方においては家族と見なせる存在がいるという理論である。主観的家族論に基づけば、『家族同然に認識・処遇されているペット』は家族の一員と見なすことができ、そのペットに向けられている喜怒哀楽の感情は家族に向けられるものと大差がなくなっているという。

主観的家族論によって、ペットの犬・猫・ウサギなどを『家族の一員』として認識できるようになった背景には『近代家族の形態・機能・構造の変化』があり、昭和中期以前の昔にもペットの動物を大切にしている人はいたが、人間にほぼ等しい『家族の一員』というような情緒的な認識は無かったという。明治時代の日本のイエ(家族)は、武家を模範とする家父長制の『直系家族(三世代以上の大家族)』から始まったが、直系家族は『農業・商店・旅館などの家業(先祖代々の仕事)を持つ家』に特化した家族形態であり、工業化の進展によるサラリーマンの増加と都市化によるライフスタイルの変化によって次第に廃れていった。

現代でも地方農村部には、兼業農家などをしながら三世代以上が同居する直系家族はないわけではないが、基本的には現代では『どちらかの両親(主に夫方の両親)と同居する子の夫婦』というのは少数派で、直系家族を構成するにしても『子ども夫婦が近くに住んでいても別居』という形態のほうが多くなっている。

現代では、経済的事由や家事の効率性(独り暮らしの不必要性)から両親と同居し続ける独身者(パラサイトシングル)は増えているが、近代化の進展によって地域外への就職や結婚を契機にして、両親と別居して『核家族』を形成するというライフスタイルが一般化していった。家業を営みながら複数世代が同居する『直系家族』は極めて少数派となり、結婚した夫婦とその子どもだけからなる『核家族』が多数派になったわけだが、直系家族と核家族とでは『子ども(子・孫)』の位置づけが大きく変わってくる。

直系家族で家族総出で農業や商店、旅館などの家業を営んでいた時代には、子どもは小学生くらいの年代になれば『家庭の貴重な労働力』として認識されることが多かったが、核家族では子どもの役割は就職するまでは『学校(大学・専門・高校)に行って勉強すること』に限定されることが多い。核家族では家をでて就職をすれば『別世帯(子どもには子どもの生活・都合・家庭がある)』という認識が強まるため、“他の家族のために働くという役割”は、老親の介護(その多くは病院・高齢者施設の入退所や介護サービスを受けるための手続きである)などを除いては殆どなくなる。

直系家族では子どもが親(家)のために、『労働力の提供・経済的支援・老後の世話』をするというのは半ば義務的なものだったが、核家族では逆に親のほうが子どもに『してあげること(経済的コストをかけて教育や援助をし続けること)』が多くなり、大学卒業までの養育費・教育費だけでも2,000万円以上のコストが必要になると言われる時代になった。家業・第一次産業が中心だった戦前戦後(昭和中期まで)の直系家族では、『学歴』にこだわる親が少なく学歴が無ければ仕事が無いという状態もなかったので、子どもを持つことで教育費が多くかかるという心配をする親は少なかったし、本人に学力や意欲がなかったり家に経済的余裕がなければ、中卒で働けばいいという価値観が主流でもあった。

高度経済成長期前後は大卒というだけで『優秀なエリート・幹部候補(特別な階層)』と認識される時代だったが、大卒進学率が段階的に上昇するにつれて『高卒が最低ライン・大卒(短大卒)が普通』という社会的認識が広まり、親の子どもに対する『教育費の負担・重圧』が重くなっていった。

経済的な豊かさが増大した昭和期を通して、子どもは直系家族における労働力(助け・支え)になる存在から、核家族における守られる存在(自立までにお金がかかる存在)へと変質していき、『親子関係・家庭運営』が概ね“子ども中心(子どもの教育・幸せを第一に考える)”になっていったと考えることができる。






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