新型うつ病の“選択的なストレス反応”と先進国に共通する“労働・仕事の不適応問題”の時代的要因:6

新型うつ病(非定型うつ病)では、自分が好きなことやストレスのない活動をしている時にはうつ病の心身症状が出なくて、自分の嫌なことやストレスの多い仕事をしている時に症状が出やすいという特徴がありますが、このことはアパシーシンドロームや退却神経症の問題とも重なっています。そして、新型うつ病やアパシーシンドローム(意欲減退症候群)をはじめとする『選択的なストレス反応・本業に対する不適応感覚』の問題は、労働・仕事のストレスや困難に対する適応能力あるいは適応意志の低下という問題につながっています。

『労働・職業活動の適応困難』は現代の日本だけに特有の問題というよりは、個人の自由・権利が尊重されていて平和な生活環境が保証され、成熟経済の段階に入った現代の先進国の多くにも共通する問題であり、視点を変えれば『物質的に豊かな社会の病理』であると考えることができます。それは労働・仕事以外のストレスや悩みが現代の先進国ではかなり少なくなっていることの現れでもありますが、共同体的な社会への帰属感が薄まっているために『他者との相互扶助・自分の労働の影響力』が実感しにくくなっていることも影響していると考えられます。

現代社会で新型うつ病や長期失業者、ニート、生活保護層(現役世代の非労働者層)が増大しやすい景気変動以外の社会的・時代的な要因を見ると、以下のような要因があるのではないかと思います。

1.成長経済を経由して一定以上の富(貯金・持ち家)が家計にストックされ、親世代の持続的なキャッシュフロー(給与・年金)もあることで、夫婦以上の長期的な子の扶養力が生まれて、働かなければすぐに生活できなくなるという絶対的な経済上の切迫感が低下したこと。

2.“生活・金銭のためだけの労働,オーバーワークや上下関係の強い労働”を回避する風潮が強まり、“能力・適性・創造性を実現するための仕事(要求水準の高い仕事)”を求める人が増えたが、実際に後者のような仕事に就ける人の絶対数は少ないこと。

3.既存の労働社会のシステムや企業への所属、標準的な人生設計(結婚・家族形成)の相対的魅力が薄れて、労働の苦労・負担に見合うだけの報酬が受け取れないと感じる人が増え、自分から何としてでも採用されたいという意欲が低下しやすくなったこと。

4.家庭の社会資本・教育支援も含めた学力の二極化が進んだことや勉強・労働の競争市場からの早期撤退(早い段階での諦め)が見られやすくなっていること。未来に対する夢や希望を持ち過ぎることの弊害もあるが、人生の前半で職業上の希望を諦めてしまう問題もあり、自分の人生の物語的な価値に関する想像力が抑制されやすいこと。

5.先進国で“産業の空洞化・安価なサービス業の増加・非正規雇用の増大”によって、雇用の質と量が大きく落ち込んできており、“正規雇用の時間的・労務的な負担割合”が増大することで、正規でも非正規でも『仕事(拘束時間・業務内容・所得水準)に対する不満』が潜在的にわだかまっていること。

6.“金銭至上主義・情報技術の進展”によって、生産的な労働(雇用)によって社会とつながりたいという欲求が、金銭(消費)・情報収集・コミュニケーションによって代替されやすくなり、『労働の価値の実感・遣り甲斐』についての個人差が開いたこと。

7.職歴や実務経験などの連続的なキャリア(空白のない職務履歴)に根ざした評価が一般化したことで、いったん新卒採用から脱落したり無職期間が長くなってくると、そこから再チャレンジして再就職することが難しいと感じられるようになったこと。

8.現代社会の低コストな娯楽性・遊興性・自由性・情報性・個人化(自己責任原理)が急速に高まったために、『労働の負担感・ストレス・時間的な拘束感』が過去よりも強調されて感じられやすくなり、心理体制的にストレス耐性の低下や職場への不適応感が引き起こされやすくなっていること。

9.個人的・社会的・時代的・診断基準的な要因を含め、ストレス反応性の疾患やうつ病(双極Ⅱ型障害)、自己愛性障害、各種のパーソナリティ障害、適応障害、パニック障害、社交不安障害(対人恐怖症)などメンタルヘルスの悪化が急速に増大してきたこと。


うつ病や新型うつ病(非定型うつ病)、適応障害、一時的なストレス反応の区別をつけることは難しいですが、それぞれの症状やストレス因子、自己認識、状況認知に合わせて、どのようなカウンセリングや心理療法が効果的かを検討していくことになります。上記したような現代社会における『労働・仕事に対する不適応問題』の社会的・時代的要因もありますが、これらの要因は個人単位で対応できるようなものではないので、新型うつ病のカウンセリングでは『今の自分自身にとって最低限しなければならない仕事』にフォーカスして、ストレスコーピングを行いながら無理のない仕事上の適応(自己アイデンティティの方向付け)を模索していきます。

精神症状・身体症状を和らげるためには『ストレス因子の除去・共感的な理解の姿勢・人間関係や労働環境などの環境調整』が有効なのですが、職場環境や仕事内容への適応性を高めていくという目的においては、『本人‐仕事‐人間関係との相互作用』を考慮しながら、どういった認知・行動を取ればストレスを軽減できるのか、本人の仕事への適応感覚を高められるのかを考えていくことが大切です。

特に、新型うつ病で選択的なストレス反応(嫌なことや苦痛なことの回避)が強く見られているケースでは、本人と家族、配偶者、恋人、友人などとの『人間関係の相互作用』を確認しながら、『他者との連帯感・協働性・共感性』を実感させて仕事・職業への動機づけを緩やかに高めていく方法に効果があります。ただ漫然と休養をし続けるよりは『対人関係の経験・社会的活動への参加体験(チャレンジ的な体験)』といった行動療法的な対応を組み合わせていくほうが、新型うつ病の仕事の適応に関する悩み(ストレスの感じ方)に、直接的なアプローチをしやすく本人の自信も付きやすいように思います。






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