TPP参加のメリット・デメリットをどのように考えるか4:TPP・FTAの自由貿易圏拡大の圧力と選択

TPPに参加する自由貿易のメリットとデメリットを大まかにまとめると以下のようになりますが、TPP締結による実際的な影響の読みにくい分野として『規制・制度・ルールの国際標準化』『サービス業・金融・医療・公共事業・雇用規制などの規制緩和』があります。

それらの分野については具体的な内容の交渉が進まないことには、そのメリットとデメリットを正しく把握することは難しいですが、輸出入の自由化以上にインパクトのある変化(介護看護など需要の多い分野での外国人労働者の受け入れ基準の緩和・混合診療の解禁など)が起こる可能性もあるように思います。

しかし、これらの問題は現状進められている『TPPの条件交渉の俎上』には上がっていないという報道もあり、労働者受け入れの規制緩和だとか保健医療と自由診療を併用できるようにする混合診療の解禁だとかは、飽くまで『可能性論』として受け止めるべき状況ではあります。貿易自由化以外の具体的な内容はこれから交渉するのでしょうが、『モノの輸出入の自由化・人材の移動や受け入れの自由化・各分野での規制やルールの標準化』という変化がTPPでは起こってくると考えることができます。


TPP参加のメリット

1.日本の工業製品をはじめとする輸出量が増えて『貿易利益』が拡大する可能性がある。

2.消費者がより安い価格で食品・商品を買えるようになる。

3.TPPの交渉会議で国際的なルールづくりに参加できる(後から遅れて入ると初めから決められていたルールに従う他なくなる)。

4.国内企業がFTA・TPPを結んでいる外国に生産拠点や本社機能を移そうとする『海外移転(オフショアリング)』を抑制できる。

5.経済競争が激化することで企業努力が促進され景気が刺激される。

6.少子高齢化や現役労働者層の減少で縮小していく『内需』を『外需(貿易)の増大』でカバーできる。

7.関税障壁の撤廃で経済活動が促進することになり、金融市場(株価)の景気が良くなる。

8.『経済的な相互依存性』がアジア太平洋地域の安全保障環境を改善させ日米同盟を深化させる。


TPP参加のデメリット

1.外需に頼る輸出産業の大企業以外には経済成長のメリットが乏しい可能性がある。

2.安価な農業品が輸入されて国内の農業が打撃を受ける。

3.物価が安くなってデフレ経済が更に悪化して、国内の従業員の給料も安くなる。労働力の移動の規制緩和によっては失業率が上がる恐れもある。

4.農作物や食品の安全管理基準が統一化されても日本よりも基準が甘い可能性がある(食の安全性に対する不信)。

5.経済競争が激化することで企業体力が低下して景気が抑制される。

6.『円高の持続・放射能汚染の風評被害・労賃コストの高さ』などで日本の製品・農業品が売れにくい恐れがある。

7.(日本の農業の競争力が上がらない場合には)食糧自給率の低下が起こることで『投機的な穀物・食品市場の影響』を受けやすくなり、食糧安全保障上の問題が起こるかもしれない。

8.アメリカに有利な国際標準を押し付けられたり、(中国に対抗するという意味合いでの)アメリカ中心のアジア太平洋地域の安全保障環境に組み入れられる。


日本がTPPに参加すべき理由のひとつとして言われることに、韓国がEUやアメリカと“FTA(自由貿易協定)”を結んでいるので、TPPに参加しないと『韓国をはじめとする新興工業国』に貿易競争で遅れを取るという理由もあります。

韓国のサムスングループやLG電子の電化製品やヒュンダイの自動車は、ヨーロッパのEU諸国では日本製品よりも売れるようになっておりそのブランド力も向上しています。『価格メリット』につながるEUとのFTAの恩恵もそこに加わってくれば、日本製品の競争力が品質やデザインを云々する以前の価格の部分で大幅に低下してしまうのです。EUはTPPとは関係がないのですが、EUは自動車に10%、薄型テレビに14%を掛けており、この関税が韓国に対して撤廃されることの意義(日本企業にとっての不利)はやはり大きいでしょう。

日本国内では自動車であればトヨタやホンダ、日産、電化製品であればソニーやパナソニック、東芝が一流ブランドとしての価値を維持しており、(アップルのiPhoneなど例外を除き)海外製品よりも競争力が高いのですが、外国では日本ブランドこそがナンバー1であるという認識が薄れてきており、価格が高いと韓国や新興国の製品よりも売れにくくなってきています。

その意味ではTPPあるいは個別FTAを締結せずに、『日本の工業製品だけに関税が掛けられるという不利な状況』を維持するのは、通商政策・貿易競争戦略の上では間違った判断だと言えるようには思います。いったん韓国や新興国の製品に『海外市場のシェア』を奪われてしまうと、韓国・新興国のメーカーのブランド認知・評価が高まるので、事後的にそのシェアを奪い返すというのは相当に難しい事だからです。

アメリカと韓国とのFTA(自由貿易協定)ではアメリカと韓国の双方がメリットを得る“Win‐Win”の関係が成り立つとされており、オバマ政権は米韓FTAの経済効果を年間110億ドル(約8500億円)、7万人以上の雇用創出と推算して、失業率回復の決め手にしようとしています。韓国の側の試算でも、5%以上のGDPの増加、35万人以上の雇用増加という経済効果があるとしています。韓国は日本よりも経済が『外需(輸出産業)』に大幅に依存していて産業構造が違うので、日本と単純比較することに意味はありませんが、韓国はFTAによる貿易額が全体の6割にも及ぼうとしていて、『FTA通商戦略』に国運を賭けているような状態です。

ただ日本の輸出産業の中心である自動車・電機・機械などは、FTAの価格メリットを享受している韓国製品と激しい市場競争をせざるを得ない現実もあるので、日本もこのままTPP・FTAに消極的でいいというわけではなく、自由貿易圏の拡大によって得られるメリットにも大きなものがあります。

TPPにせよFTAにせよ『自由貿易圏に参加する国・地域』の数が増えれば増えるほど、それに参加しないことのデメリットや不利益は大きくなり、日本の経済成長できる部分の多くが、輸出産業に依存してきている構造(内需が将来的に今よりも減少する高齢化要因など含む)がある以上は、TPPへの参加を長く拒否し続けることは難しいかもしれません。そしていずれは参加するというのであれば、個別分野の自由化・規制緩和・基準統一化について交渉や主張ができる早い段階で参加していたほうがまだマシというのはあると思います。

日本のTPP参加による経済効果の試算は、内閣府はGDPが2.4~3.2兆円増加するといい、農水省は11.6兆円のGDP減少と雇用の340万人減少が起こるとしています。経産省はTPPに不参加の場合は参加した場合に比べて、GDPが10.5兆円減少して雇用が81.2万人減少するとしていて、調査する母体によって試算の結果は全く違いますが、TPP参加では工業・輸出部門のメリットが大きく、その反動として農業部門のデメリットが生じるという見方では一致していると思います。

また、TPP・個別FTAを結ばないことでFTAを結んでいる外国へ生産拠点・本社機能が移転していくという『産業の空洞化・オフショアリング(拠点移動)』が起こるリスクも指摘されており、『農業再生政策』『貿易による経済成長』を両立させていく方針を立てることが重要になっています。後は上述してきたように、『貿易自由化の促進』以外の分野である医療・通信・労働・環境・サービス業・公共事業などの規制緩和(統一化)や経済連携がどのようになっていくのかという交渉の行方が気になるところです。






■関連URI
TPP参加のメリット・デメリットをどのように考えるか2:日本と外国の平均関税率比較と農業品の関税障壁

TPP参加のメリット・デメリットをどのように考えるか3:TPPが農業に与える影響と農業再生の課題

民主党の年金制度の改革案についての雑感2:社会保障(社会福祉)と社会保険の理念の分離を考える


“生きるための定常型経済”と“稼ぐための資本主義経済”:利潤と蓄積を行動原理とする経済人

アメリカの『双子の赤字』の拡大の深刻化:好調な日本経済の抱える格差の問題

■書籍紹介

自由貿易は、民主主義を滅ぼす
藤原書店
エマニュエル・トッド

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 自由貿易は、民主主義を滅ぼす の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル






震災復興とTPPを語る—再生のための対案
筑波書房
鈴木 宣弘

ユーザレビュー:

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 震災復興とTPPを語る—再生のための対案 の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 18

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた 驚いた 驚いた
面白い
かわいい

この記事へのトラックバック