認知行動療法における“自動思考”と“中間的信念・中核的信念”との関係性:ABC理論に基づく作用機序

短期療法(ブリーフセラピー)を実際に適用する技法の多くが『認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)』になってきているように、短期療法では“認知的変容+行動的変容”が作用機序になっていて、ネガティブな認知(自分や物事の捉え方)と不適切な行動を減らして改善していくことに重点が置かれています。

認知行動療法のベースにある認知理論では、『認知(思考)‐気分感情-行動-生理-環境の相互作用』が前提にされていて、それらの変数のうちのどれかを変化させれば、それ以外の部分も変化していくというシステム論によって、人間の心理的問題(精神症状・不適応行動)を理解しています。

自分が置かれている環境(生活状況)や人間関係のやり取り(相手の反応)が良い方向に変化すれば、確かに気分も良くなって不快な感情も和らいでいくことが多いのですが、『もっと収入が増えて生活が安定すれば気分が良くなる・好きな人から認めてもらえればやる気が出る・意地悪な上司が異動すれば会社に気持ちよく通勤できる』というのは客観事実ではあっても、心理療法的・カウンセリング的に直接介入することが難しいやり方です。そのため、『環境・現実のポジティブな調整』というのは、カウンセリングや人生の自然な展開における“結果論”として受け取られることのほうが多くなります。

今までの生活習慣を見直して朝にウォーキングをしたりジムに通ったり、ずっと不安を感じて出来なかった仕事にチャレンジしたり、好きだった異性に気持ちを思い切って伝えたりという『行動の変容』も、憂鬱な気分を改善したり迷って不安になっていた感情を変化させたりする効果が期待できるので、“行動的技法”として用いていきます。

人間の感情・気分は生物学的には『自律神経系(興奮・抑制)のバランス』『各種の脳内ホルモン(情報伝達物質)の分泌量』によって規定されるので、生理学的状態を変化させれば気分・感情も前向きに変わるとは言えますが、薬物療法ではない言語的な心理療法(カウンセリング)では生理学的状態を自在に変えることは通常できません。催眠療法や自己暗示、自律訓練法などで自律神経系を抑制してリラックスした心理状態を作り出すことはできますが、深刻な心理状態の悪化や抑うつ感・絶望感の高まりがある時には、『自己暗示(トランス状態)』に導入するまでの動機づけが難しくなります。

認知行動療法を実施する場合にも、カウンセラーの基本的態度はカール・ロジャーズのクライエント中心療法に準じたものになりますが、『傾聴=クライアントの伝えようとする内容の的確な理解・共感的理解=クライアントの感情を汲み取ること・無条件の肯定的受容=クライアントの人間性や不安な心理を受け止めて前向きに評価すること』は特に重要になります。

上記した内容を踏まえて、“感情・気分”の安定した調整と前向きな改善を認知行動療法の目的にすると、“認知(思考)‐行動-生理-環境”のうちで最も自分の努力や注意でコントロールしやすいのは、自分や物事、他者をどのように考えて受け止めるのかという『認知(思考)』になってきます。

認知療法を開発したアーロン・ベックや論理情動行動療法(REBT)を考案したアルバート・エリスの基本的な心理メカニズムの理論は、『客観的な出来事そのもの』ではなく『その出来事をどのように受け止めるのかの思考(認知)』が人間の気分・感情を規定するというものであり、その考え方は『ABC理論・ABCDE理論』としてモデル化されています。

A(Activating Event)……実際に起こった客観的な出来事や他者とのコミュニケーションの内容、環境の変化など。

B(Belief)……客観的な外部の出来事や人間関係をどのように受け止めて解釈するのかという信念・認知・考え方。

C(Consequence)……物事に対する認知・信念(思考)によって発生した結果としての感情・気分。

D(Dispute)……心理的問題を生み出す非論理的な信念(イラショナル・ビリーフ)に対する効果的な反論・反駁。

E(Effective New Belief,Effective New Philosophy)……気分の落ち込みや感情の悪化などの問題を事前に予防できる効果的な新しい信念(効果的な新しい人生哲学)。

認知行動療法では『自己否定的・非機能的な認知(考え方)の修正』によって、気分の落ち込みや感情の混乱を改善するというシンプルな作用機序を想定しており、そこで重要になってくるのが自分で自分の考え方や信念を知るという『セルフモニタリング(自己観察)』です。セルフモニタリングの対象になるのは主に『自動思考(automatic thoughts)』ですが、自動思考が発生する原因を洞察するために『中核的信念(core belief, underlying belief)・中間的信念(intermediate belief)』がセルフモニタリングされることがありますが、ここで信念(belief)と呼んでいるものは“強固な思い込み”に近いものです。

アーロン・ベックが認知療法の理論的概念として導入した『自動思考(automatic thoughts)』というのは、ある気分・感情を経験している時に自然に頭の中に浮かんでくる思考・イメージのことであり、認知行動療法ではこの自動思考にあるネガティブで不適切な内容を書き直していくことが重要な課題になります。自動思考は、内的世界における自分自身への語りかけや自分の言葉であることから『セルフトーク(self-talk)』と呼ばれることもあります。自分自身に語りかけるセルフトークが自分を否定したり非難したりする内容だと、どうしてもその自動思考のセルフトークによってネガティブな自己暗示にかかりやすくなり、自動思考が浮かび上がると同時に気分が落ち込んでしまいやすくなるのです。

『中核的信念(core belief)』というのは、乳幼児期からの経験の積み重ねによって形成された情報のフィルタリング(取捨選択)やファイリング(収集)を行う認知的スキーマであり、認知機能の階層構造の根本に位置するものです。

この過去の経験・記憶から作り出された中核的信念の内容によって自動思考が規定されていくのですが、認知機能の階層構造の根底にある中核的信念そのものを修正することは非常に困難であり、精神分析理論の影響も受けていたアーロン・ベックは『無意識領域にあるその人を特徴づける固定的な認知スキーマ』として中核的信念を解釈しています。認知機能の階層構造において、最も根本にあるのが“中核的信念”であり、最も表層に浮かび上がってくるのが“自動思考”ですが、中核的信念と自動思考の中間領域にある認知構造が“中間的信念(intermediate belief)”と呼ばれるものです。

認知行動療法の認知理論において概念化した『中間的信念(intermediate belief)』は、一般的には『固定観念・先入観・偏見』として理解されているものであり、中核的信念の内容から生み出された“中立的・客観的とは言えない偏った考え方・イメージ”を意味するものと考えることができます。中間的信念は更に『先入見的見解(パニック発作は死の危険とつながっている)・先入見的規範(だからパニック発作を起こさないように注意しなければならない)・先入見的想定(電車やバスに乗らなければパニック発作は起こさないと推測できる)』というように分類することができます。

実際の認知行動療法の心理面接でワークシートに書き込むのは『自動思考(頭の中に自然に浮かんできた考え・言葉・イメージ)』だけなのですが、クライアントに対する理論的な説明として『中核的信念・中間的信念』について話すことで、人間がなぜ偏った考え方をしやすく固定観念に突き動かされやすいのかの仕組みを理解してもらいやすくなります。






■関連URI
短期療法(ブリーフセラピー)で重視される“時間的・コスト的な効率性”と“解決志向の戦略性”

“人の可能性・話す意欲・リソース”を引き出す解決志向カウンセリングのコミュニケーションスキル

問題解決志向のカウンセリングと現実認識の転換1:人はなぜ自分の現実を抑圧・否認するのか?

認知療法・精神分析・クライアント中心療法の異同と特性

■書籍紹介







幼児期の自己理解の発達—3歳児はなぜ自分の誤った信念を思い出せないのか?
ナカニシヤ出版
郷式 徹

ユーザレビュー:

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 幼児期の自己理解の発達—3歳児はなぜ自分の誤った信念を思い出せないのか? の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのトラックバック