ポスト菅政権のビジョンと過去に先送りしてきた政治課題2:税と社会保障の一体改革・公務員制度改革

菅首相が議長を務めた税と社会保障の一体改革を検討してきた『社会保障に関する集中検討会議』では、2015年までに段階的に消費税を10%まで増税する案が明記された。消費税を年金・医療・介護・育児支援などの社会保障だけに用いるための目的税にして、2013年までに2%程度の増税、2015年までに3%程度の増税をして10%にするという事だが、民主党としては珍しい『痛みを伴う改革』の具体案である。

国・地方の累積債務は1,000兆円に迫るレベルにまで高まってきており、日本経済も低迷して成長率と税収が増えない状況にあるが、少子高齢化の影響もあり年々、公的年金・医療・介護に必要な社会保障の予算は1兆円単位で増えていく。超高齢化社会における社会保障制度を持続させるためには、経済成長戦略とその具体化が基盤になければならないが、制度改革として可能な選択としては『負担の引き上げ+給付の抑制』があり、今回の提言はそれに沿ったものである。

税・保険料などの負担が大きくなって、更に貰える金額やサービスが減るとなれば、有権者の支持を取り付けることは困難であり、『増税・給付削減』を打ち出した政権与党は選挙に勝てないとも言われるが、このまま財政赤字を拡大させ続ければ将来の社会保障の持続性が危ぶまれることになる。現在でさえも、公的年金制度の世代間格差に対する不満は根強く、20代の若者では年金保険料を納付し続けても、将来の給付額削減(給付開始年齢の引き上げ)によってトータルとして1千万円を超える赤字になるという推計が出されたり、超高齢化・長寿化・少子化・未納増加(雇用問題)で年金制度が破綻するという主張も為されたりしている。

消費税増税に対しては、『低所得者ほど負担が大きくなる逆進性』や『消費を冷え込ませて景気が一段と悪化する(結果として税収額が減る)』などの理由から反対論もあるが、中長期的に見て現在に近い水準の社会保障(年金・健康保険)を維持しようと思えば、増税を回避することはできないだろう。民主党が政権を獲った当初は、『事業仕分け・公務員人件費の削減・特別会計の削減(省庁の埋蔵金の活用)』などの行政コストの大幅な節約によって、社会保障や政策遂行に必要な財源を捻出できるとの大風呂敷を広げたが、実際に行政改革を行ってコスト削減をしても十兆円以上の規模の恒久財源が湧いてでるようなことはなかった。確かに、短期間での大幅な増税は、消費者の購買意欲を低下させて企業活動や税収に悪影響を及ぼすリスクもあるが、段階的な増税で景気・税収・購買意欲の動向を確認しながら増税するという方針を取るべきだろう。

集中検討会議が、当面の社会保障改革に必要と算定した予算は約2.7兆円で、『子育て支援・医療・介護・年金制度の充実強化』に約3.9兆円の財源を要するが、医療や福祉サービスの給付削減で約1.2兆円の歳出を減らすことができるという。税方式で全国民に月額7万円の年金を保障するという『最低保障年金の創設』、サラリーマンを対象にした最低保障年金に上積みできる『所得比例年金の分離』という民主党のマニフェストにあった案は実質的に見送りの形となり、今回の改革案では『現行年金制度の手直し・財源拡充』に留まっている。最低保障年金と所得比例年金による『年金制度の一本化・無年金問題の解決』というのは、制度そのものの抜本的改革であるが、今まで加入してきた年金の納付額・給付額などの計算が非常に複雑になることや、今まで基礎年金部分(国民年金)をずっと納めてきた人と納めてなかった人との間の公正性をどう担保するのか(段階的な全額払い戻しだけで良いのか)といった問題が残ることになる。

民主党の年金制度改革の最終案は『最低保障年金(税方式による全国民の一律給付)+所得比例年金(サラリーマンなどが納めた金額によって所得比例の年金を加算)』だが、現状の改革案では『低年金者への加算・給付資格を得る納付期間の短縮(現行25年を5~10年に短縮)』など現行の年金制度を微修正することで低年金・無年金の対策をしようとしている。低年金者対策としては『高額医療費の自己負担分の引き下げ』なども検討するとしているが、無年金問題の解消策として『約400万人のパート労働者を厚生年金に加入させる案』も出してきている。

一方で、現行年金制度では年金給付額の格差が国民年金のみの6万円台から大企業・公務員勤務の(企業年金分を含む)30~50万円台超まで格差が大きくなっているので、年金の高所得者に対しては給付額の削減を検討するともしている。パートやアルバイトの被用者も厚生年金・社会保険に加入させる案については、『保険料折半の企業負担の増加』や『非正規雇用の低所得者の可処分所得が更に減るという問題』も指摘されているが、源泉徴収による公的年金の財源確保や無年金者防止の代替案にもなっている(将来の給付額まで含めると財源が増えるかは分からないが)。現行と同水準の厚生年金給付があるという前提に立てば、パートやアルバイトの人も厚生年金に加入したいという人は少なくないだろうが、制度としての持続性と給付水準の維持がなければ、少ない所得から厚生年金の保険料を納めるデメリットのほうが大きくなる事もあるだろう。

超高齢化社会の進展で増大する高齢者の医療費や高額医療費については、病院・診療所の外来患者の窓口負担の一部増額(100円~数百円程度)も検討されているが、将来的には現在の公的健康保険(会社の社会保険)の3割の自己負担比率も引き上げられる可能性があるのだろう。負担する社会保障費を賄うためには、『税収の自然な増加(経済成長)』か『負担の増加(増税・社会保険料増額)』か『給付の引き下げ(年金給付額の削減・制度の縮小)』かしかないが、デフレ不況と雇用悪化(非正規率・失業者数の高止まり)が慢性的に持続している現状では、増税と給付の引き下げも検討していかざるを得ない。

しかし、与謝野馨経済財政担当相が言及したような『年金給付年齢の68~70歳の引き上げ』というのは、60歳定年の企業が多くて安定した高齢者雇用のパイ(若年雇用さえ減少している)が確保されていないこと、年金給付時期までの所得を得たり医療費などを準備できない世帯が困窮すること、当初の給付時期から何年間も延長することが倫理的に許されるのかなどの問題も出てくるだろう。『税と社会保障の一体改革』そのものは、民主党だけの政治課題ではなく、どの政党が新たに政権を樹立したとしても避けることができない問題である。与野党が必要に応じて協議しながら国民の納得を得た上で、『具体的な社会保障制度改革・税制改革のロードマップ』を実現に移していく必要があると思うし、社会保障制度を持続させていくのであれば、国民も一定以上の負担の増加を覚悟するしかないのではないかと思う。

民主党は行財政改革の一環として『公務員総人件費の2割削減』を謳っていたが、東日本大震災における財政負担の急増と国民負担の増加予測を受けて、既に『公務員給与の1割削減(人事院勧告に基づかない異例の給与削減)』については政治的な合意が為されて労組との話し合いも持たれた。連合などが人件費の1割削減を受け容れるかの見通しは不透明であり、実際問題として『公務員給与の財政危機時の引き下げの決定』をどういったプロセスで行えるのかというのは手探りの状況であり、民間のような労使交渉を目指す公務員制度改革がどのような顛末を辿るのかは分からない。

民間労働者と比較して公務員が優遇されているという『官民格差』は以前から議論されているが、犯罪の起訴や自主退職でない限りは雇用が基本的に保障される公務員と民間企業のサラリーマンとの待遇を単純比較する事は難しく、公務員人件費の切り下げと財政状況の悪化をどのくらい結び付けるべきかについても意見は分かれる。同じ公務員でも採用試験の種別や勤続年数、医師等の専門家であるか否かによって待遇は大きく異なり、年功序列を維持している官庁では高学歴でも(同世代の同学歴の民間サラリーマンよりも)若いうちは比較的所得が低いという指摘がある。

国が財政破綻してデフォルトすれば公務員の雇用や俸給も保障されないのだから、財政状況と公務員の俸給に一定の相関を持たせるべきという意見は合理的ではあるが、日本の財政状況は悪化しているものの、まだギリシアやスペイン、アイルランドほど危機的状況になっているとは言えず、現状では国債格づけも他の先進国と比較して極端に悪いわけではない(東日本大震災や原発事故の負担増加で国債格付けが落とされるという話もあるが)。公務員の人件費(給与水準)の調整に不公平感やややこしさが付きまとうのは、公務員の俸給をどちらかというと公務員寄りに見える人事院が勧告していたり、公務員に基本的に解雇・減給が無い代わりに『労働基本権』が与えられていないからである。

民主党は国家公務員に労働基本権(ストライキ権を留保した団結権・団体交渉権)を与える公務員制度改革の法案を議会に提出したが、これは人事院が国家公務員の労働条件を勧告する現在の制度を見直し、公務員自身が労使交渉ができるようにしようとする改革案である。年功序列に従っている人事慣行や給与水準を、民間企業の人事に近い『能力・業績・意欲の指標』に切り替えようとするものだが、『職務の公共性・必要性』に照らし合わせてストライキを行う労働争議権の付与は見送られた。公務員が労働条件の改善を求めてストライキ(職場放棄)を行えば、行政機能が麻痺したり公的な手続きができなくなったり、治安上の危険が増したりするためで、労働争議権の見送りは妥当のように思う。

公務員の人事・給与に対する政治的な介入の度合いを強める代わりに、人事院の権限を弱めて公務員自身(労働組合)に労働基本権を与えるというのが、この法案による公務員制度改革の趣旨になっているが、『政治・労組・公務員の交渉と合意』によってどのくらい公務員の生活上(労働上)の権利と公共の奉仕者としての役割を両立させられるかが大きな課題となる。大連立の可能性も含めてポスト菅政権がどのような体制になるかは未知数だが、震災復興や原発事故対応に加えて、『税と社会保障の一体改革・TPPなど自由貿易圏への参加・景気対策と財政改革・公務員制度改革・少子化対策と超高齢化社会への対応・安全保障問題』など、日本が長年にわたって抱え続けている政治的な課題にも積極的に取り組む事を期待したい。






■関連URI
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