メンタルヘルス(こころの健康)と生産的なスローライフ1:精神的な充実・意欲を増すフロー体験

メンタルヘルスを悪化させる要因には、精神的ストレスや過労状態、人間関係の対立、理想自我とのギャップ、性格傾向、生物学的原因などさまざまなものがありますが、『悲観的な認知(物事の捉え方)』『ゆとりのないライフスタイル』を修正することでメンタルヘルスも改善しやすくなります。流行や物事が移り変わるスピードが速く、達成しなければならない仕事が増えたように感じられる現代社会では、多くの人が『幸福追求のため・成功実現のため・問題解決のため』に“今”を我慢すれば何とかなると思って、自分で自分を追い込んで苦しめるような認知を持ちやすくなっています。

学習内容・授業時間を減らした『ゆとり教育』が世論の厳しい非難を浴びて見直しをされたように、“ゆとり・余裕”といったものが『非効率・不達成・知識不足・無気力な怠惰』など好ましくない結果(将来)と結び付けられてイメージされることも増えています。基礎学力の向上や学習態度の形成といった観点から、教科書の分量を増やして発展的内容を盛り込んだり授業時間を増やしたりする『ゆとり教育の見直し』には教育政策上の意義があるとは思いますが、『ひとりの人間の人生全体のメンタルヘルス・意欲向上』を考える場合には、とにかく膨大な学習や仕事を義務的にこなし続ければ、メンタルヘルスが維持されてやる気も高まるというわけにはいきません。

うつ病の発症リスクの一つである病前性格として、『几帳面・生真面目・頑固で融通が効かない・責任感が強い・遊び心や柔軟性に乏しい・他人や周りに配慮し過ぎる・組織人として適応性を持つ』といったH.テレンバッハのメランコリー親和型性格や下田光造の執着性格があります。この性格類型は、気持ちにいつも余裕がなくて義務的に~しなければならないという焦燥感や無力感(自己不全感)に駆られている状態ですから、感情的には絶えず『今を楽しめていない・自分の欲求を押さえ込んで我慢している』といった前向きさを欠いた自己抑圧に陥りやすいのです。

モチベーション論でも書きましたが、勉強にしても仕事にしても『無理やりにやらされているという感覚・義務として淡々とこなさなければならないという意識・とにかく急いで焦ってしなければならないという状態』では、自分本来のパフォーマンス(潜在能力)を十分に発揮できなくなりますし、モチベーションも低下して精神状態も悲観的・抑うつ的になりやすくなるのです。誰もが経験したことがあると思いますが、焦燥感・切迫感に駆られて『とにかくやらなければ(覚えなければ)ならない』という精神状態では、まともな思考力・集中力は発揮できず、勉強・仕事は思い通りに捗りません。

最も生産的に集中して物事に取り組むためには、精神状態がリラックスしていて安定している必要がありますが、そのためには『気持ちと時間のゆとり・そのゆとりを生み出す柔軟な認知』が重要になってきます。逆説的ですが、生真面目な態度で勤勉に物事に取り組もうとすると『他律性・義務感・焦燥感(間に合わない恐怖)』といったネガティブな要因に生産性を阻害されやすくなり、リラックスした態度で物事の面白い側面を見つけ出して取り組もうとすると『自律性・自発性・ゆとり(間に合うという確信)』といったポジティブな要因で生産性向上のフィードバックがいつの間にか働きやすくなります。

多くの人が自分の今までの人生や活動の中で、集中力・思考力が最大限に高まってスムーズに物事が進んでいる時のことを思い出してみると、やはり『リラックスして落ち着いた心理状態・物事そのものに没頭して時間に追われていない感覚(主体的に物事に取り組めている感覚)』が優勢であることに気づくことができると思います。人間のメンタルヘルスを悪化させたり集中力を低下させたりする典型的な非適応的認知として、『~しなければ後で大変なことになる。~し続けたとしても間に合わないのでダメだ』という状況の捉え方がありますが、いずれにしてもやらなければならない事ならば、『今やっている事』に前向きに意識を集中して気持ちを落ち着かせてから(周辺的な雑念を追い払ってから)取り組む事が大切だと思います。

『幸福追求のため・成功実現のため・問題解決のため・人間関係のため』に、“今(現在)”をぐっと我慢して苦痛に耐え忍べば、“未来(将来)”ではもっと幸せで安楽な時間が持てたり余裕のある生活を送れるようになれるはずだという考え方は、現代的な『計画的で堅実な人生の基盤』にあるものですが、今現在の生活や人間関係をあまりに犠牲にし過ぎると、メンタルヘルス(こころの健康)を決定的に崩してしまうリスクがあります。未来で幸福やゆとり、成功を思う存分楽しむためには、さまざまな近視眼的な欲望を我慢して『十分な準備・計画』が出来ていなければならないというリスク回避の考え方というのも、『過ぎたるは猶及ばざるが如し』で余計に自分自身の幸福や精神的健康を阻害してしまうことがあるわけです。

生真面目で毎日の仕事(義務的事項)が気にかかり計画性を重視する人は、『今現在の楽しみ・休息・感動』といったものに浸りきって自分をリラックスさせることが難しいのですが、それは『今を楽しむこと・少し手抜きしたり休むこと』が罪悪感につながったり将来のリスク(怠けた事のツケ)のように感じられたりするからです。

改めて文章化してみると、『私はそれほど禁欲的ではないし無理はしていない・今の時点でもいろいろな楽しみがありストレス解消ができている』と感じる方も多いと思うのですが、現在を我慢して未来でその我慢の恩恵(貯蓄)を多く受け取りたいという基本的な認知スキーマ(考え方の前提にある知的枠組み)は、自己責任の強調されやすい現代社会では誰もが多かれ少なかれ持っているものです。

各種の勉強・勤続年数・年功序列・定期預金・社会保険(年金制度)なども『過去の蓄積→今現在の努力→未来の保障(リターン)』という合理的な自己抑制のビジョンに基づくものですが、そういった努力・自己抑制のビジョンで前向きな展望が持てなくなると、『過去の失敗(後悔)へのこだわり』『未来の不安(リスク)へのとらわれ』によって心のバランスを崩したり深刻な苦悩・絶望に陥りやすくなったりします。

今をある程度我慢して計画的に物事を進めたり、目的達成のためにコツコツ努力するという『認知スキーマ』も概ね適応的であり効果のある考え方なのですが、『焦燥感・切迫感・イライラ・強迫観念』が強まったりしてメンタルヘルスが悪化する兆候が見られる場合には、『今現在の活動・楽しみ』のほうに注意を向け変えて少し楽観的認知を持つようにしてみることも大切です。

特定の物事や活動、趣味、関心事に、『今の時点』でのめり込んで没頭すること、時間感覚が心地よいスローなものになることを、アメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi, 1934)『フロー体験(Flow experience)』と名づけていますが、人間の幸福感やリラックス感、充実感が高まる時にはこのリアルタイム的なフロー体験が起こっていることが多いとされています。フロー体験には以下の8つの要素があると考えられていますが、これら全ての要素が揃っている必要はなく、幾つかの要素が揃っていれば、精神的な充実感やリラックス感、やりがいを感じられる『フロー体験』が起こりやすくなります。

1. 明確な目的や方向性がある。

2. 集中力・思考力を限定された特定分野だけに注ぎ込むこと。

3. 自己・自我に対する意識(とらわれ)の低下。活動そのものに意識が融合する感覚。

4. 時間感覚の心地よい変化。通常の時間速度(時の流れ)のスローな歪みの感覚。

5. 直接的・即時的に『成功・面白さ・興味深さ』などのフィードバックが感じられる。

6. 自分の能力水準と課題の難易度との適度なバランス(課題が簡単すぎず、難しすぎずのバランス)

7. 状況や問題、時間を統制できているというセルフコントロールの感覚。

8. 活動そのものに本質的な価値を認めていて、自発的な行動であること。






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