福島第一原発事故による原発安全神話の崩壊と事故リスク2:東電の工程表と原発の安全管理システム

福島原発事故は海外からの『日本製品全体に対する風評被害』をも生み出しており、中国で貨物船・旅客機からの荷下ろしを拒否されたり、機械部品・精密機器の輸出品に対しても放射能汚染の疑惑を掛けられたりといった不利益が生じています。こういった日本の貿易利益の損失にもなる風評被害に対しては、空港・港湾に輸出品に対する放射線検査システムを整備してチェックを行うようにし、政府が『非汚染商品(安全な商品・機械)』であることの保証をするなどの積極的な取組みが求められると思います。

作業員・近隣住民は何mSv/hまでなら被曝しても大丈夫なのか(現在は作業員で1日200mSvの被曝が限界とされている)、積算のmSvと健康被害との相関はどうなのか、食品に付着した放射性物質の放射能量を示すBq(ベクレル)は何Bqから実際的な危険がでるのかといった部分について、政府、原子力安全・保安院、東京電力、マスメディア、専門家でバラバラの意見を出すのではなく、ある程度の統一見解を出せれば安心しやすいのでしょうが。微量の放射線被曝はその場ですぐに健康障害・被害が出るわけではない『確率的影響』なので、小さな子どもほど放射線の感受性が高いとは言えますが、具体的数値を上げて論じるのが難しいというのはあります。

福島第一原発事故を収束させられるか否かは、1~4号機の原子炉の炉心を安定的に冷やせるかに掛かっていますが、今回の原発事故を体験して誰もが思ったことに、核分裂反応が停止した後にも関わらず、ここまで『燃料棒・使用済み燃料プールの余熱』というものが冷めないものなのかという事ではないでしょうか。事故発生後から一貫して大量の真水・海水を放水し続けているわけですが、絶えず冷たい水を循環させ続ける『原発本来の冷却システム・ECCS(緊急炉心冷却システム)』が復旧させられないために、冷却作業は相当な長期戦となり更に大量の放射能汚染水が溜まるという二次的被害も深刻化しました。

外部から幾ら水を放水してもすぐに蒸発してしまうために、燃料棒が水面から露出して放射性物質が流出してしまう問題があるわけですが、原発事故を安定的に収束させるためには『原子炉の安定冷却・使用済み核燃料プールの安定冷却』が必須条件となっています。東電は電源・冷却システムの回復か、『水棺』という原子炉(格納容器)を水で満たす作業によって、燃料集合体を安定的に冷やそうとしていて、4月27日にも高熱状態が続く1号機の格納容器に大量注水する『水棺作業』を実施するとしています。格納容器からの水漏れによる汚染水の流出の危険性が無いかを確認して、1号機に続き2・3号機でも同じような『水棺』の作業をして冷温停止を目指すようです。

東電は福島第一原発事故を収束させるための具体的な『工程表(ロードマップ)』『原発周辺の汚染地図(サーベイ・マップ)』を作成していますが、炉心を安定冷却させて汚染水を除去する収束までに6~9ヶ月間の期間を要するとしています。東電は工程表において『原子炉の冷却』『使用済み核燃料プールの冷却』『放射性汚染水の処理と保管』『大気と土壌の放射能汚染の抑制』『避難指示・計画的避難・緊急時避難準備区域の放射線量の測定・低減・公表』という5つの課題を掲げてそれらをできるだけ迅速に同時並行的に進めるとしています。

しかし、放射性物質の流出を止めるまでに6~9ヶ月間はかかるという工程表の見通しと周辺の放射線量の上昇の問題などによって、周辺の市町村が1ヶ月かけて計画的に避難する『計画的避難地域』に指定され、住民は住み慣れた土地を離れて避難所などで暮らさなければならなくなっています。更に原発周辺の20km圏内の地域は原則立ち入り禁止の『警戒区域』に指定されて、住民が『認められた一時帰宅期間』以外には、自宅に帰ることさえも許されない厳しい状況になっています。警戒区域で飼われている畜産農家の家畜が殺処分にされる(立ち入り禁止で世話ができなくなり死後の公衆衛生に問題が生じるため)などの悲しい報道もありました。

原発事故の恐ろしさは『見えない放射線による健康被害と環境汚染』にありますが、『大気・土壌の長期の放射能汚染によって土地(故郷・居住地)を失うこと』も大きなリスクになります。火力発電所・水力発電所などでも天災による大事故のリスクはありますが、事故が発生しても原子力発電所のように周辺地域の住民が強制的に長期避難させられるような事態はなく、事故そのものの人的・物的被害はあっても、事故の収束は比較的短期でできます。

原子力発電所は現在の技術水準であれば、『平時の運転制御可能性』は相当に高く安全な発電技術だとは言えますが、原発のリスクは大きく分ければ以下の2点に集約されます。厳密には、原発施設で働く作業員の累積的な被曝リスク(確率的影響)などもあり、完全に安全な原発運営というのは難しくなりますが、原発の危険性として即座に思い浮かべられるものは自然災害あるいは人為的ミス(ヒューマンエラー・設計上のミス)による『原発事故』でしょう。

1.事故リスク……地震・津波・戦争・テロなどによって原発施設が損傷し、メルトダウン・水素爆発・核爆発などを起こして放射性物質が拡散するリスク。

2.高レベル核廃棄物の処理のリスク……原発では半減期の長い危険な高レベル廃棄物が産出され続けるが、それを安全かつ持続的に処理できるかどうかのリスク(現在では数km以上の深さの地底に封印して埋める超深層処分で安全に処理できるとされている)。

『事故リスク』は今回の福島第一原発事故で、原子力損害賠償紛争審査会が設立されて賠償のあり方が検討されているように、『巨額の損害賠償』の原因にもなります。原発のリスクとして、『民間企業では負担しきることができない数兆円以上に及ぶ損害賠償(最終的に国民負担の増加につながる賠償)の問題』を上げることができると思いますが、これは事故発生時の最終責任を取れない一民間企業が、原発を保有して運用することが適切なのか否かの倫理的な疑問点(補償能力無視のモラルハザードではないかの批判)にもつながっています。

原子力発電所は事故が絶対に起こらないという前提の下で建設されていますが、科学理論(科学的根拠に基づく安全管理)は飽くまで仮説であり、過去の事故や天災などに照らし合わせて99%以上は大丈夫だろうと言えても、残りの1%については絶えず『想定外の事態』が起こり得るというリスクはあると思います。極論でいえば、高さ30メートル超の大津波だとか地盤そのものが崩落する大地震だとか、直径10キロオーバーの小惑星の衝突だとかが起これば、どんなに堅牢な安全管理システムを準備していても、原発施設は物理的に崩壊して放射性物質は漏れてくるでしょう。

M9の東日本大震災が引き起こした20メートル超ともされる大津波は、福島第一原発の安全管理体制においては、正に『想定外のシビア・アクシデント(過酷事故)』だったわけですが、僅かな確率でもいったん起こってしまえば取り返しのつかない大事故・大惨事(放射性物質の大量拡散)になるというのが原発の特徴でもあります。

原子力発電所の安全神話の根拠には、まず放射性物質を絶対に外部に漏らさないという『五重の壁』がありました。五重の壁というのはその名の通り、『燃料ペレット・燃料被覆管・圧力容器・格納容器・建屋』の燃料複合体(濃縮ウラン・MOX燃料)の周囲に五重に巡らされた防御壁のことであり、通常はこの五重の壁と冷却システムにより放射性物質は絶対に流出しないと説明されていました。

五重の壁という物理的な壁だけでなく、原子力発電所の安全システムとしては『制御棒(緊急時に核分裂反応を停止させる)』『ECCS(緊急炉心冷却システム)』『非常用ディーゼル電源(どんな事態でも電源を供給できる)』があったわけですが、今回の福島第一原発事故で明らかになったように、津波で絶対に停電しないはずの非常用ディーゼル電源がすべて使えなくなる事は有り得るわけです。その後の調査で、非常用ディーゼル電源が発動しない場合に用いる電源車(大容量電源を積んだ特殊車両)の数が調べられたのですが、殆どの原発で非常用電源の代替になるだけの十分な数(発電量)の電源車が準備されておらず、『三重の電源のセーフティネット(通常電源・非常用電源・電源車)』とされたものもかなりいい加減なものであったことが伝わってきています。






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■書籍紹介

新版 原発のどこが危険か 世界の事故と福島原発 (朝日選書)
朝日新聞出版
桜井 淳

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