東日本大震災の被害と福島第一原発事故3:計画停電による都心機能の麻痺と今後のエネルギー政策

福島第一原発の事故がもたらしたもう一つの影響として、『農作物の放射能汚染による出荷停止措置・水道水への放射性物質の混入』があります。政府はただちに健康に被害が出るレベルの放射性物質の付着はないとしながらも、食物摂取による内部被曝(特に乳幼児・妊婦の内部被曝)のリスクを考え、福島、茨城、栃木、群馬の4県のホウレン草やかき菜、牛乳などに対して出荷停止を指示しています。

農作物を育てる土壌が激しく汚染されない限りは、その地域の農作物が長期に汚染されるわけではなく、現状でも深刻なレベルの汚染ではないとされますが、いったん放射性物質が付着したという情報が広まると、中長期の風評被害(その地域の産品の購入を避ける行動)が起こる危険性があります。国民の健康を守るために、放射性物質によって飲料水や農作物が汚染されていないかを的確にモニタリング(監視)することは必要不可欠ですが、迅速な情報公開と徹底した監視体制によって風評被害を抑えつつ、早期に福島第一原発の事故の収拾を進めていくことが何よりの優先課題となっています。放射性物質にはセシウム137のように半減期が30年と長い物質もあるので、土壌そのものが汚染されないようにする注意が求められますが、放射性物質が漏出していると見られる大本の原子炉の崩壊熱を冷やさない限りは、安心できる解決は覚束ないように感じます。

福島第一原発の事故は更に、計画停電に追い込まれた東京都心と関東地方の『電力インフラの脆弱性』を示し、日本の発電方式の『原子力発電への依存性』を明らかにしました。今まで幾らでも使えて当たり前のように感じていた『電気・電力』が、福島第一原発と太平洋沿岸の火力発電所が操業停止に追い込まれただけで、大幅な供給不足となり『計画停電』によって節約するしかなくなったわけです。日本で最も先端的で利便性に富んだ大都市であったはずの東京都心やその周辺で、電力が不足して電気を自由に使えない生活を余儀なくされるというのは、今までの常識で考えれば想像しづらかったことでした。

更に、日本の発電量の約3割を担っている原子力発電所(福島第一原発)が大きなトラブルを起こし、近隣住民に強い不安と疑念を与えてしまったことから、今後、東日本大震災の被害が復旧して原発事故が終息したとしても、今まで通りに『原発による電力供給』が続けられるかの見通しが怪しくなってきました。福島第一原発は爆発が何度も起こったり燃料棒が過熱して熱崩壊を起こしたり、大量の海水を注入したりしたことで、『廃炉』となってもう使えない恐れも出てきていますが、廃炉にならなくてもそれを修理してもう一度発電することを近隣住民のみならず国民が許容するかは相当に微妙です。

日本の電力需要は人口動態や省エネ技術を考えれば、現時点がピークに近いかもしれませんが、それでも関東圏で福島第一原発の発電量を代替する新たな原発か他の発電方式の発電所を増設しない限りは、慢性的な電力供給不足や強度の節電要請(計画停電含め)が続く恐れがあります。福島第一原発のみに留まらず、現在稼働中の原発に対しても、震災・津波に対する危機管理の不十分さや使用済み核燃料の廃棄リスクを理由とした『原発反対運動』が起こる可能性もあり、仮に他の原発まで運転停止に追い込まれれば、日本全国で電力の供給が滞るリスクもでてきます。

エコロジー思想や温室効果ガス(CO2)の抑制が普及する中で、原子力発電はこれまで『CO2排出量の少ないクリーンな発電技術』として売り込まれてきましたが、それは『絶対的な安全管理システム』があるという前提の上の話であり、今回の福島第一原発のような事故が起こってしまうと、クリーンといっても事故リスクが余りに大き過ぎるのではないか(近隣住民の健康・安全が十分保障されていないではないか)という批判が巻き起こってくると思われます。福島第一・第二原発の発電量は計10基で約910万キロワット(kW)とされており、東電の全電源(検査中・停止中のものも含めた全電源)の約14%を占めるとされていますが、現在の東電管区の電力需給は約4000万kWの需要に対して、約3000万kWの供給に留まっており、圧倒的な電力不足となっています。

東電の通常時の電力供給力は約5000万kWだそうですが、そのうちの約910万kWが原発停止で失われ、更に火力発電所が幾つか停止したことで、約3000万kWにまで供給力が低下しているのです。事故が無事に終息したと仮定しても、福島第一・第二原発を再稼動させることは技術的にも倫理的(世論的)にも極めて困難ですから、約910万kW分は恒常的に失われる恐れが強く、現在停止中の火力発電所を稼動させてその分を賄えるかどうかがキーになります。それでも東電は、夏場の冷房で最も電力需要が上がる時期には、十分な電力供給は難しくなると予測しており、東京都心や関東地方では新たな発電所が稼動しない限りは、慢性的な電力不足か強度の節電をしなければならなくなるのかもしれません。

電力供給が不足して滞るというのは、ただ電気が足りない時間が増えて不便になるというだけではなく、経済活動自体の萎縮や損失をも招くわけで、現代の都市インフラの血流とも言える『電気・石油』をどう確保していくかは非常に大きな喫緊の課題となるのではないでしょうか。近代の豊かなモノに満ち溢れた経済社会とは畢竟、『石油文明・電化文明のインフラ装置』を基盤にして維持されている社会なのですが、東京のような巨大都市の血流となる電気を供給するためには、原子力発電に頼らないとすれば、火力発電所の大幅な増設か巨大ダムによる水力発電などを考えることになるのではないかと思います。

自然エネルギーを電気に変える『風力発電・太陽光発電・地熱発電』などは、クリーンで安全なエネルギーとしてエコロジーの観点から国民の人気は高いのですが、天候に左右されるなど発電の効率性が悪かったり、広大な土地を必要とするなど施設建設のコスト面でも問題を抱えています。原子力発電所と同程度の電気を発電するためには、自然エネルギー利用の発電では非常に広大な土地と膨大な設備が必要になるだけでなく、安定的に大量のエネルギーを生産できるという保障もないわけです。火力発電所であれば数基建設すれば、原発同等の発電力がありますが、石油燃料を燃やして発電するために、CO2排出・黒煙排出といった環境破壊の問題が生じてきたり、長期的には中東での石油不足・原油高騰のリスクも気になってくるかもしれません。

国際的にも『安全技術先進国』と見られていた日本で、福島第一原発事故が発生して短期かつ安全に収拾できていないことに注目が集まっており、今まで原発推進派だった国々でも一部で『原発増設の見直し』が進むのではないかという見方もあります。

その一方で、巨大化した現代の電化文明の電力需要を効率的に賄うには、原子力発電所をある程度の比率で稼動させるしかないという見方もあり、『原発のオルタナティブな発電方式』が火力・水力(ダム建設)以外には開発されていないところに、原発の事故リスクと効率的発電を巡るアポリア(難問)が横たわっているのかもしれません。日本の福島第一原発事故の今後の経緯と原発の災害リスクを巡る日本・世界の世論の動きに注目しながら、今後の日本および世界全体のエネルギー政策の方向性や原発の安全管理(あるいは原発の縮小廃止も含め)について考えていく必要を痛感させられます。

※この記事を途中まで書いていたのは3月24日だったのですが、その後、福島第一原発事故の国際原子力事象評価尺度(INES)における危険度がレベル5からレベル6へと引き上げられ、3月25日には3号機タービン建屋内の水溜りで作業員3名が高い線量の被曝をするという事故が起こり、放射線被爆専門の放射線医学総合研究所(千葉市)へ緊急搬送されました。この建屋内部の15センチの水溜りには、原子炉か燃料プールから漏れでた放射性物質が充満しており、通常の原子炉内の冷却水より約1万倍も強い放射能が検出されたということで、作業されていた3人の方の健康状態の推移が心配されます。

東電は1立方センチメートルあたり390万ベクレルの放射能が検出されたこの危険な水溜りについて、この事故が発生する以前に1号機に放射能汚染された水溜りがあることを知っていたとの報道が流れ、被曝回避の危機管理体制の不十分さについて東電が批判されています。水溜りの危険性を事前に把握していて、そのことについて現場に『高放射線量を持つ足元の水溜りに注意せよ・絶対に水が入り込まない防水長靴を必ず履いて現場に向かえ』との伝達をしていなかったのであれば、東電の安全管理責任が問われることにもなります。

今回の被曝事故で最も驚かされたのは、危険な放射線管理区域での作業を指示しているにも関わらず、放射線・水の浸出の装備(防護対策)がほとんど為されておらず、作業員3名のうちの2名が通常作業時に履くような短靴(防水性能を持たない作業靴)で作業をしていたということです。β線の高放射線量で皮膚に直接被曝した場合に起こるやけど・水疱などの『ベータ線熱傷』は、防水性能が高い長靴を履いていれば、かなりの程度防護できた可能性があるといいますから、作業員の方たちの装備の適切な見直しも行ってほしいと思います。危険な水溜りが複数個所にわたって拡散していることで、冷却システムの復旧作業に遅れが出てくる可能性も高まりましたが、作業員の方の安全を第一に考慮して、放射線計の警報音が鳴ったら即座にその場から退避する指示を徹底してもらいたいと思います。

しかし、作業員の方の懸命な作業のお陰もあり、復旧した外部電源を活用して約10キロ離れたところにあるダムから真水を引き入れることに成功し、1号機の冷却水は25日の午後3時37分、3号機は午後6時2分にそれぞれ冷却水を海水から真水に切り替えることができました。本来原子炉は海水ではなく真水で冷却する設計になっており、海水では金属部品の劣化・腐蝕や配管の塩分による目詰まりなどが懸念されていたことから、1・3号機で真水に切り替えられたことは評価できる部分でしょう。過酷な条件下で必死の復旧作業が続きますが、農作物・水道水の放射能汚染への不安・風聞も広がっており、今後、原子力発電の安全性・制御可能性については更に厳しい眼差しが注がれることは避けがたいように感じます。






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