“幸福感・充実感・リラックス感”を得るためのカウンセリング的な視点3:今・ここにある幸福への感度

カール・ロジャーズの来談者中心療法(クライエント中心療法)『徹底的な傾聴』とも重なってくるが、カウンセリング技法の基本中の基本である『傾聴』は聴いて貰う側だけに心理的な効果や支持があるわけではない。前回の話題の続きになるが、相手の話を集中して丁寧に聴いているカウンセラーの側のほうにも、他者を理解しようとすることの喜びや自己を客観視して落ち着ける効果というものがある。

しかし、他人の話を親身になって共感的に聴くという行為は、カウンセリングの時間の枠ではない日常的なコミュニケーションの中では思っている以上に難しいものだ、人はどうしても意識しなければ『自分の話を聴いてほしい・自分の意見の正しさを示したい・自分のユーモアや面白さを知ってほしい』という自己のニーズに流れていきやすいものだからだ。

相手の話の内容への集中力を高めて、とりあえず『自分が言いたいこと』の優先順位を少し落としてみよう、相手の言いたいと思っていることや理解したいと思っている感情に寄り添いながら、『相手の求めている質問・うなずき・解釈』を返していくことで、自分が言いたいことを話すよりも、もっと相手の自分への好意・承認を得られるということが意外に多いことに気づくと思う。

自分がどんなに優秀で実績のある人間か、どのくらい面白い話題やユーモアのセンスを持っているか、どれだけ自己の主張の正しさを論証(プレゼン)できるかといったことに、他者が本心から関心を持ってくれる確率はそれほど高いものではない(他人の自慢話は一般的には敬遠されやすい話題の常に上位にある)、だが多くの人は『自分の話題・主張・アイデア』などを聴いてもらいたいという欲求を持っており、それを丁寧かつ積極的に傾聴する人には相当に高い確率で好ましさや付き合いやすさを感じる。

更には、他人の自慢したい心理や成功を自己顕示したい欲求までも楽しく傾聴する姿勢を持てるのであれば、『相手よりも自分のほうがもっと凄い・それは大した業績とは言えない』というような皮肉的・対抗的な言説を取る人よりも、ずっと対人的な魅力や懐の広さを認められやすくなるし、自慢や見栄に対していたずらに『競争的・拒絶的』にならないことで自分のネガティブな気持ちも強まりにくくなる。

人間関係にまつわる悩みを根本的に解決する方法としては、『他者への依存性・期待のレベル』を適度な現実的水準にまで下げること、ふとした時に他者が離れていったとしても、人と人の出会いと別れを必然のものとしてありのままを受け入れ、(新たな出会い・ふれあいを求めるとしても)『自分ひとりで過ごす時間』も、有意義に楽しく過ごせるような生活習慣や意識の持ち方を身に付けることが心を安らかにしてくれる。

もう一つは、社会的動物としての人間に先天的に備わっている『贈与と返報の等価性(人間関係の貸し借り・損得勘定)』に過度に囚われないようにして、自分がこれだけして上げたのに相手は何も返してくれないのは理不尽(不公平・裏切り)だというような否定的認知をできるだけ持たないようにすることも大切である。

自分が他人に対して何かをして上げたり何らかのプレゼントをしたり、役割を果たすのは、『自分がそうしたいと望むからする』のであって、『相手の返報(お返しによる誠実さ)の言動を試す』ためにするのではない、何かをして上げて自分の望む返報がないから相手のことを嫌いになってしまうようであれば、初めから親切や奉仕、プレゼントなどをすべきではないとも言える。

もう少し『他者に対する親切・善意・贈与』のあり方を適応的な認知で捉えるならば、私たち個人の時間・労力は有限でありその日その日の調子の波もあるのだから、『友人知人などの承認・援助の訴え』にいつも毎回耳を傾けたり支援しなければならないというわけではなく、本当に疲れていて相手の問題の緊急性も低いのであれば、その時には『他者の申し出・要求』を丁寧に断ったりして自分自身を大切にしても良いのである。

これは上記の『贈与と返報の等価性』にこだわり過ぎる吝嗇(ケチ)な生き方の弱点をカバーする行動理念でもあり、視点を変えれば一方的な好意・援助などを『相手に利用されているだけ』と受け止めてしまいがちな人へのアドバイスでもある。

いつもいつも自己犠牲を払って他人のために生きるというのは、自分を追い込む本末転倒なもので不健全な生き方にもなり兼ねない。『自分自身の人生の優先度』を維持しながら、自分がしてやりたいと思う相手にそれをすることができる余裕がある時に、相手が喜ぶこと(求めていること)をしていければ良いし、それが通常の人間の現実的な限界というものでもある。そして、他人に優しさや思いやり、親切を与えることと同等以上に大切なことは、『他人の自由・自律』を尊重して相手が求めていない形の干渉や助言などをし過ぎないこと、自己と相手との距離を適度に保つことでお互いの人格的な尊厳と自由を守るということである。

最後に『人生における幸福の実感』を高めるためのカウンセリング的な方法を書くとすれば、『あらゆる感情・気分の悪化に基づく苦悩』を過大に受け止めずその変化の兆候に意識を向けることであり、『自分自身を喜びや意欲で満たす認知(考え方)のトリガー』をいつでも引けるように、物事に対する肯定的な思考・解釈のトレーニングをするということである。パールズ夫妻のゲシュタルト療法では『今・ここにおける自分の意識』に焦点を定めることで変更困難な過去の事実そのものは極力取り扱わず、フォーカシングでは『今自分が実際に感じている身体感覚』のみに意識を向けて、自分の考えていること(悩んでいること)と感じている感覚の変化との相関を受け容れていく。

自分の人生を不幸なものにしたり、自己の存在価値を損ねて絶望感に囚われたりする発端には、『過去のトラウマ・苦悩への囚われ』や『未来を思い通りにコントロールしたいができないという欲望の過剰』があることが多い。だが、『今・ここにある自分の人生や人間関係』を楽しもうとする意志や認知を持てないのであれば、過去の苦悩と未来の不安に覆い尽くされるような閉塞感に苦しみ続けることになりやすく、人生は自分が思っているよりも早いペースで流れていきやすい。

同じような平凡でありふれた人生を歩んでいる人でも、『自分の人生は何の刺激も感じられず味気なくてつまらないものだ』と悲観して自己否定ばかりしている人もいれば、『自分の人生には素晴らしい仲間がいて新たな発見や感動も多く体験できる』という風に楽観的に人生をリラックスして楽しめる人もいる。両者の違いは『物事の長所・利点・面白さ』を中心にして世界や人間を眺めているか、『物事の端緒・欠点・つまらなさ』を中心にして世界や人間を眺めているのかの違いでもある。認知的なパースペクティブ(世界の見え方の遠近法)によって自分自身が感じる人生の価値や面白さはかなり大きく変わってくるし、肯定的な自己概念や世界観を持てれば自分を前向きに動かしていく行動力・意欲もでてきやすくなる。

仏教思想では心の平安や人生の深い味わいを得るためのヒントとして『少欲知足・諸法無我』を説くが、これを認知療法的なコンテキストに置き換えると、『自分が持っていない状態・財物・可能性』を嘆いて人生を悲観するよりも、『自分が持っている状態・人間関係・可能性』に認知をフォーカスさせて人生を幸福なものとして実感できるようにしたほうが良い、自己愛や自我の肥大に囚われることでかえって不自由になり不幸にもなり兼ねないということである。

現代資本主義の経済生活や消費文明は、『今よりももっと豊かに幸せになりたい・もっと経済成長をしなければ生活水準を維持できない』という人間の無限の欲望と不安を煽り立てることで繁栄している側面が確かにある。だが『今よりも豊かな状態・幸せな状態』に行き着いたとして、そこで再び『もっともっと満たされたい・まだまだ足りないので自分は不幸だ』と思ってしまえば、どこまで成長しても永遠に自分の欲望・自己愛は満たされることがなくなり、せっかく手に入れた豊かさや幸福をゆっくり味わう暇さえも惜しんで、成長を追求しなければならなくなる。

人間の感じる達成感・充実感の一部は、『止まることのない成長と前進の興奮』に宿ってはいるのだが、人間の幸福感・安心感の多くは、『区切りをつけて少し休める余裕(自分だけの大切な時間)・他者との喜びや感動の交歓(大切な他者と過ごす時間)』の中にこそあるようにも思う。人生における幸福の実感を高めるためには、『自分の人生の中でもっとも重要なもの・譲れないもの』のプライオリティを振り返ってみて、自分のライフスタイルや価値観にメリハリをつけることが重要であり、『今を我慢すればいつか来るはずという将来の幸福』のためだけにがむしゃらな自己犠牲で生きるのではなく、『今・この時点における自分の幸福や楽しみ』を堪能しようとする姿勢を作ることが必要なのではないだろうか。






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