マゾヒスティック・パーソナリティの“苦労・努力の自己選択”と“他者への依存性・他者の支配欲求”

前回の記事の続きになりますが、受動攻撃性パーソナリティは『不満・反発を感じながらも、経済的・実際的には依存しなければならないという苛立ち』によって突き動かされる未熟性を孕んだ人格構造であり、基本的には『依存的パーソナリティの側面』を強く持っているので、依存している対象からの『保護・恩恵』を受けられなくなるほどの徹底抗戦には踏み切れないという事になります。

『不当な要求をされている・不公正な事柄を押し付けられているという被害者意識』には、自分に指示や注意をする上位者が自分に『保護・恩恵』を与えてくれるのは当然だが、その保護や恩恵が不十分であるという不満が内在しており、基本的には自立性が低く依存性の強いパーソナリティとして解釈することができます。『要求・支配』『保護・恩恵』の二面性による葛藤・不満というのは、エディプス・コンプレックスのような親子関係の葛藤の転移といった見方もできますが、『主体性・自尊心の傷つきやすさ(自己アイデンティティの希薄さ)』といったものが影響していると考えられるでしょう。

なぜそこまで主体性・自我構造が脆弱になるのかというと、『自分自身のやりたいこと・信念や価値観に基づく行動選択』が定まっていないからですが、そういった依存性が強化される要因として『他者中心の行動パターン(他者に嫌われないようにする行動基準)』『標準的な人生設計しか目標が見つからない同調性(大多数の人と同じ選択をするという自衛策)』などがあります。

自分自身がやりたいことや興味関心のあることが決まっていない曖昧な状態の中で、社会規範や上位者から『強制的な指示・指摘』を受けることによって、最低限の主体性・自尊心を防衛しようとして嫌々ながら仕事をしたり、愚痴・不満をくどくどと言ったり(質問に対する答えをはぐらかしたり)するような消極的抵抗が起こりやすくなるのですが、拒絶性パーソナリティの対応では『自分自身の主体性・自尊心』を支えるために何をしたいのかの目的性を明確化していくことが重要になってきます。

あるいは、自分が直面している現在の状況や仕事上の役割に対して『ネガティブなラベリング・被害者としての目線の固定化』をすることをやめて、『ポジティブなラベリング・仕事自体の遣り甲斐(面白さ)を探す姿勢』へと転換していかなければ、拒絶的・無気力で不満の多いライフスタイルを改善することは難しいでしょう。受動攻撃性パーソナリティの問題解決では、『自分はどういった存在なのか・自分は何を不満に思っていて何をすれば楽しめるのか・自分の人生における優先順位はどのようなものか』といった自己アイデンティティの振り返り及び再構築が、意欲的かつ積極的に人生を楽しむための最終的な課題として持ち上がってくることが多いと言えます。

セオドア・ミロンのポラリティ理論(極性理論)で『依存性の極』に近いものとして、依存性パーソナリティ、演技性パーソナリティ、受動攻撃性(拒絶性)パーソナリティを上げましたが、客観的には“自立的な努力・忍耐”の行動パターンを持ちながらも、“心理的な他者への依存性(強度の承認欲求)”を持つ性格構造として『マゾヒスティック・パーソナリティ』というものがあります。
サディズム(嗜虐嗜好)やマゾヒズム(被虐嗜好)というとSMのような性倒錯・異常性欲をイメージしやすいのですが、マゾヒスティック・パーソナリティでは『自分が苦労したり努力したり辛い思いをしたりする選択を評価する』という認知が特徴としてあり、一般的には『困難な事態にも負けない・高い目標を達成しようとコツコツ努力する・苦労や面倒を厭わずに頑張る』ということで職業適応(仕事の成果)や家庭生活(家族としての役割分担)そのものは良くなりやすいのです。

マゾヒスティック・パーソナリティの基本的な価値基準は『苦労して辛い思いをすること=良い・苦労せずに楽をして成果だけを出すこと=悪い』であり、同じ結果を得るために簡単なやり方と困難なやり方(自己犠牲を伴うやり方)を選べる場合にも、敢えて苦労するほうを選びやすくなります。

マゾヒスティック・パーソナリティで問題になる『心理的な他者への依存性』というのは、苦労したり辛い思いをして頑張っている自分を大袈裟にアピールすることで、自分の存在価値や相手への貢献性(役に立っていること)を認めてもらおうとする傾向のことですが、この依存性が過剰になり過ぎると、『他人も自分と同じように苦労しないと不公平だ・自分は相手のためにこんなに尽くして苦労してきたのにそれに見合う返報(見返り)がないのは許せない』といった抑圧移譲の押し付けがましさが生まれて対人関係の悩みやトラブルが増えてくることがあります。

自分自身が納得して選択したはずの『困難で辛い道』であっても、『他人(あなた)・組織のせいでそんな苦労をしなければならなかった。だから、そのお返しがないというのは不公平でおかしいじゃないか。あなたも同じだけの苦労や辛さを経験すべきじゃないか』という他者への責任転嫁がマゾヒスティック・パーソナリティでは起こってくることがあり、この責任転嫁は相手に罪悪感や申し訳の無さを感じさせることを無意識的な目的にしています。

つまり、マゾヒスティック・パーソナリティの問題点は、『自分がやりたいことを追求して苦労・忍耐をする』のではなくて、『相手に罪悪感や恩義を感じさせて自分の思うようにコントロールする』ことが目的になりやすいという事であり、『あなたの為』に苦労したり嫌な思いをしてきたのだということをアピールすることで、『相手の行動・反論の自由』を感情的な自責感(自分のせいで相手に苦労させてしまったという思い)によって押さえ込もうとしているのです。

マゾヒスティック・パーソナリティの自己承認を得ようとする行動戦略は、人間にとって普遍的な『贈与に対する返報(お返し)の負債感』を間接的に利用したものであり、このパーソナリティは相手に押し付けがましさや心理的な不自由感(お返しの義務感)を与えやすいという問題があります。

『依存の極』に近いパーソナリティには、他者に従属して同調する“依存性パーソナリティ”、演技的な自己アピールで注目を集める“演技性パーソナリティ”、消極的抵抗やサボタージュで相手を困らせる“受動攻撃性パーソナリティ”、自分がどれだけ苦労して努力を続けてきたかをアピールして相手をコントロールする“マゾヒスティック・パーソナリティ”がありますが、これらに共通するのは価値判断や行動選択の基準が飽くまで『他者の反応・承認・制御』にあるという事、『自分自身が何がしたいのか・何を優先して選んでいるのか』の主体性が二の次(関心の外)になりやすいという事でしょう。






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