アパシーシンドロームによる無気力化・無関心化と自己アイデンティティ拡散:ウェブサイトの更新

大学生の『学業・進路選択=本業』に関する無気力や意欲減退が持続する状態を、ハーバード大学の心理学者P.A.ウォルターズはスチューデント・アパシー(student apathy)という概念で表現しましたが、アパシー(意欲減退)の問題は青年期の大学生に限らずさまざまな年代や状況で起こる可能性があります。

精神科医の笠原嘉は、人生の主要な課題や活動から退却して長期のモラトリアム(社会的選択の猶予期間)にはまり込む状態に対し『退却神経症』という疾病概念を考案しましたが、退却神経症は客観的な競争状況・評価場面から距離を置くことによって、自己の自尊心や仮説的アイデンティティを想像的に守ろうとする防衛機制の投影でもあります。

現代の学校教育の現場では、教師・社会規範(常識)に対して暴力や非行行為で反発する分かりやすい『反社会的行動』の頻度は減少しており、学校に行かなくなる不登校や各種の課題・行事に対する無関心な態度、進路選択に自分の意思を持たないといった『非社会的行動』の問題の対応のほうが難しくなっています。

マクロな社会学や哲学の視点から見れば、アパシー・シンドローム(意欲減退症候群)は、文明社会における管理化された人生・労働への反発や競争社会における他者との相対比較や自己意識への不適応として解釈できるでしょうし、雇用が減少して自分の希望・能力と仕事内容の乖離が進む中での職業適応の困難や仕事の細分化やマニュアル化によるルーティンワークの認識の高まりといった問題も指摘できるかもしれません。

アパシー・シンドロームの概略については過去の記事でも書いていますが、社会の中で自分の職業的役割や進むべき方向性を定めることができないという『自己アイデンティティの拡散』や自分の努力・行動では自分の望んでいる結果に近づくことなどできないという『諦観を生む非随伴性認知・自己効力感の喪失』とも関係していますが、どうすれば自分が前向きに生きていく為の動機づけ(意欲)を高められるかということは現代社会において重要性の高い問題の一つになりつつあります。

ウェブサイトの以下の記事では、『無力感・意欲減退・努力の消失の形成』を説明するエイブラムソンの改訂学習性無力感理論を引いて、無力感がどのような認知と原因帰属のプロセスを経て強化されるかを解説したりしていますが、高校生・大学生など各発達段階で現れやすいアパシー(意欲減退)の質や無気力の理由には若干の違いもあるでしょう。

何かを自発的にやりたいと感じ、困難な課題にも自分なりにチャレンジしようと思い、社会参加して何らかの帰属感・達成感を得たいと思う『動機づけの心理』については、これをすれば必ずやる気や向上心、参加欲求が起こるという画一の答えは無いですが、自分にとっての社会・仕事に対する適応方略を実践するに当たって、『必要限度のモチベーション・意欲』を高めるきっかけ(何が自分の意欲や関心、行動を突き動かしやすいのかのポイント)を掴むことが大切だと思います。

現代のアパシー(無気力)と不登校・ひきこもりの問題

アパシー(無気力)の形成と改訂学習性無力感理論・自己注目理論

発達段階における無気力の特性とスチューデント・アパシーの定義











■関連URI
青年期のモラトリアムや中年期のアイデンティティの危機と関連するアパシー・シンドローム(選択的退却)

ストレスフルな現代社会における『自己への適応』と『環境への適応』:自由主義と自己アイデンティティ形成

青年期危機説と青年期平穏説:学校・企業・家庭の環境への適応と社会的自立の問題

■書籍紹介

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