男女平等社会における男女関係・結婚生活の幸福観と水無田気流『無頼化する女たち』の雑感

この記事は、現代日本における“女性のアイデンティティの錯綜”と“仕事・結婚・消費の価値認識”:1からの内容を踏まえたものとなります。1980年代は女性のアイデンティティが多様化して、規範的なジェンダーが拡散した時期であり、メディアが“キャリアウーマン的な生き方”“専業主婦的な生き方”よりもカッコ良いと賞賛することで、女性が社会的生産に参加する『女性の労働者化・男女共同参画社会化』が進んだ時期でもあった。

しかし、女性の雇用待遇や給与水準が大幅に引き上げられたのは、大卒のエリート社員層・専門職層が中心であり、大多数のキャリアパスの無い女性は就職したとしても、それほど安定した雇用が保障されたわけではなく給与水準も低いままに留まった。1991年前後にバブル経済が崩壊して日本の経済成長が鈍化する中で、男性の正規雇用を守っていた『終身雇用・年功序列賃金』が揺らぎ、『男性の平均的な雇用待遇』が低下することで、女性の相対的な社会的地位・責任が引き上げられることになった。1990年代には望むと望まざるとに関わらず、男女共同参画社会の風潮や女性の労働者化の傾向は強まったが、『男性の雇用・所得の減少』を埋め合わせるほどには『女性の雇用待遇・所得の向上』は進まなかった。

男性だけでは家族の生活を支えられず、かといって女性も十分に経済的に自立できないという『中途半端な形の男女平等社会』のプロセスにおいて、男性も女性も自分がどのように生きていけば良いのか、どのような相手と結婚すべきなのかという迷い・不安が強まり、アイデンティティ・クライシスを感じる人も増えてきた。

非正規や所得の少ない男性は自分の社会経済的な能力・地位に対する自信を失いやすくなり、女性は『男性に近い社会的自立(就労状況)』を求められつつも『結婚・家庭・育児の役割』も求められるというアンビバレンツな葛藤と多重役割(マルチロール)に襲われやすくなった。

そういった雇用情勢や社会規範、ストレス状況の急速な変化は、アノミー(無規範状態)に基づくアイデンティティクライシスを惹起し、その派生的な現象として『未婚化晩婚化・ニート・ひきこもり・うつ病・摂食障害(自己イメージ障害)・境界性パーソナリティ障害・自己愛性パーソナリティ障害』などを生み出してきた側面があるかもしれない。自分がどのように生きれば安定できるのか、どういった選択をすれば幸福になれるのかというライフスタイル(自己決定)に関して、スタンダードなジェンダーや社会的規範が強制力を失ってきており、『労働・結婚・出産などの選択性』が強まっている。

1980年代より前の時代であれば、学校を卒業すれば男性は正社員として働かなければならない(世帯主として家計を支えなければならない)、女性は一定の年齢で結婚しなければならない(子どもを育て家庭を守らなければならない)という社会的圧力・規範性が確固としたものとしてあり、様々な価値観やライフスタイルの人はいても実際には9割以上の人が30代には結婚する選択をしていたのである。

この結婚規範は、社会規範や集団圧力による『個人の自由・権利』の抑圧とも解釈できるが、ある程度の抑圧はあっても『真面目に働いて結婚し家族(子ども)を作るというスタンダードな人生設計』が担保されていたので、細かな不満や不公平感はあっても『人並みな幸福感・中流意識』が満たされやすい時代だったと言える。1970~80年代頃までは、大多数の人が同じような人生設計をしながら、『就職・結婚・育児』といったライフイベントを経験していたので、『生き方・価値観についての個人差』が少なく、どのように生きれば幸福になれるのか正しい選択ができるのかという迷いが小さかったように思う。

男性がフリーター・無職ではなく正社員として働くのは当たり前であり、女性がいつかは結婚して子供を産み育てるのが当たり前だったので、『正社員として働くか否か・結婚するか否か・子どもを持つか否か』という選択に関しての迷いが少なく、人によっては抑圧感や性差の不平等は強くあったかもしれないが、大半の人が『人生とはこういうものなんだ(スタンダードな社会的価値観やジェンダーに従っておけば安心)』という納得感を横並びの中流意識の中で持てた時代とも言える。

こういった1980年代初頭までの社会規範や中流意識を支えてきたのは、『男性の安定雇用・所得水準』『恋愛至上主義(ロマンティックラブ・イデオロギー)』であり、男性が魅力的な女性と付き合ったり結婚したりする為に、必要なお金・労力を惜しまないという恋愛至上主義(女性に自分が恋人・配偶者として選ばれたいという欲求の強さ)によって、画一的な女性ジェンダーが有効に機能していた側面が強い。

現代は“消費・恋愛・家族”といった女性の適応度が高い『小さな物語』が優勢であるため、女性原理によって動かされる『女性の時代』と言われる。だが、『女性の幸福のイメージ』『ジェンダーの規定性』が拡散しており、恋愛市場への参加意欲(女性に好かれようとする努力)が乏しい草食男子が増えていることもあって、女性が女性であるだけで生きやすい時代とまでは言えない。

もちろん、男性には男性の生きづらさやプライドの傷つきがあり、女性には女性の生きづらさやアイデンティティの混迷があるわけで、男性は『ひきこもり・ニート(競争からの離脱・非社会性)』のリスクが高くなり、女性は『摂食障害・境界性パーソナリティ障害(愛されたい願望・依存性)』のリスクが高くなったとも言われる。社会経済的ストレスの増大による対人関係や労働環境への適応の困難は、うつ病のリスクファクターとなり非定型うつ病を含めて膨大なうつ病患者が生み出されている。

その根底にあるのは『男性の欲望・自己規定』『女性の欲望・自己規定』がすれ違いやすい現代の社会構造や雇用システム(所得・社会保障の水準)の問題であり、かつて『当たり前とされていた幸福』を手に入れるためには、“労働への適応(生活基盤の維持)”“メンタルヘルスの安定”という二つの要因が重要になってきている。水無田気流(みなしたきりう)の『無頼化する女たち』を読んだのですが、具体的な内容についての感想・書評についてもまた時間のある時にまとめてみたいと思います。










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■書籍紹介

無頼化する女たち (新書y)
洋泉社
水無田気流

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