『卒業後数年は既卒者を新卒扱いで採用すべき・学業と就活の両立』という日本学術会議の提言について

『景気の波』によって企業業績や人材需要が変化することで、偶発的な『就職難(就職氷河期)』の世代が生まれているが、『新卒採用主義』の雇用慣行が強い日本では新卒時に就職できないことが大きなビハインド(生涯賃金の減少・安定雇用の喪失などの不利益)となる。企業の新卒一括採用の雇用慣行にはメリットもあればデメリットもあるが、新卒時に大手企業に採用されないことの不利益が大きいため、大学生の就活競争が過熱して講義・学業(研究)に集中しにくいという問題も指摘される。

かつては大学4年から始められていた就職活動が大学3年からに前倒しされており、『学問の府』である大学が学問・研究をする場としての存在意義を失い、『就職予備校(新卒資格の付与)』として期待される割合が格段に増えている。社会・仕事で実際に役に立たないことの多い学問をするよりも、早い段階から就職活動を始めて内定を取りたいという心理には共感できるが、新卒採用時の『大卒(新卒)の資格』を取得するためだけに大学教育に莫大なコストを掛けるのであればかなりの社会的時間的損失になってくる。

大学教育のカリキュラムについては、実際の仕事に役立つ職業教育的な内容にシフトして教養教育的な内容を減らすという改革の方向性も出されることがある。日本の大学教育でも一律的な一般教養水準の向上を目的とするのではなくて、北欧圏の大学教育制度のような『職業大学校(実学・技術習得)』『専門大学校(各専門分野の研究・知識への熟達)』のカテゴライズが要請されてくるのかもしれない。

“新卒者”“既卒者”の雇用待遇が極端にかけ離れていることの問題は、新卒採用者の安定雇用と引き換えに既卒者の不安定雇用が増大することであり、職業キャリアにおける『再チャレンジの機会』が制約されることで若年層の労働意欲やスキル向上の意欲が低下しやすいということである。既卒でアルバイト・派遣などを続けていて履歴書の空白が多くなってくると、正規雇用での採用が難しくなり『今から努力してもどうせいい仕事は得られない』という労働意欲低下・スキル向上の断念といった悪循環が深まってくる。

『新卒一括採用』はいったん新卒採用から続く正規雇用の職業キャリアから脱線すると、非正規雇用(フリーター・派遣社員)やニートになりやすくなる構造的問題も含んでおり、就職活動が前倒しされて熱狂することで大学での学業と就職活動の両立も困難になりやすい。そういった問題も含めて、日本学術会議の検討委員会(委員長=北原和夫・国際基督教大教授)が、企業に対して若年既卒者も新卒者と同じ枠組みで採用するように提言しているが、企業が実際にどのくらいまで柔軟な採用体制を取ってくれるかが問題になるだろう。


卒業後数年は新卒扱いに…日本学術会議提言へ

日本学術会議の検討委員会(委員長=北原和夫・国際基督教大教授)は、深刻な大学生の就職難が大学教育にも影響を与えているとして、地方の大学生が大都市で“就活”する際の宿泊・交通費の補助制度など緊急的な対策も含んだ提言をまとめた。

17日に文部科学省に提出する。企業側が、卒業して数年の「若年既卒者」を新卒と同様に扱うことや、早い時期からの就業体験も提唱。学業との両立のためのルール作りも提案している。文科省は、産業界の協力も得て、提言を現状改善につなげる考えだ。


大企業が新卒一括採用を行うのは、『終身雇用(長期雇用)・年功序列賃金(年齢給)』を前提とした従来の雇用制度では、入社年次や勤続年数をある程度揃える必要があるからであり、新卒採用主義のほうがフレキシブルな採用よりも『人事・労務管理の利便性』『従業員のロイヤリティ(忠誠・帰属意識)』において優れているからである。

企業の共同体的な一体感や忠誠心を重視するということであれば、新入社員の年齢・経験(キャリア)をバラバラで採用するよりも、大学卒業時に一括採用したほうが効率的ということになる。既卒者や履歴書の空白を敬遠する企業の考え方としては、『学卒後の職業経験や生活習慣の個人差』を減らして、最低限度の人材の質を担保したいということもあるし、履歴書の空白や働いていない期間を『企業人としての素質(勤勉性・実直性)の欠如』と見なしやすい部分もある。

日本企業は新卒時から企業内教育・社員研修やOJTを通して、自社が必要とするパーソナリティや価値観を持った人材を育成するという『規律訓練型システム』の性格を残しているので、ただ業務に必要な能力・スキル・資格を持っていれば採用するといった仕組みにはなっていないことが多い。

その企業に長く所属したという勤務年数が『年功』として評価されるのは、日本企業が『目的達成のビジネス集団(流動的なメンバー構成)』というよりも、『相互扶助の共同体(固定的なメンバー構成)』としての特徴を多く備えているからである。『新卒一括採用・同期意識・社内行事(旅行や運動会)』などもそういった共同体に帰属する自己意識を強化することに役立ってきたのである。

しかし、文科省の学校基本調査では今春卒業した既卒者で就職も進学もしなかった『進路未定者』が10万人を突破したと伝えられており、正規雇用のレールから外れた進路未定者の雇用の不安定さや労働意欲(スキル向上意識)の経年的な低下などが懸念される。

若年者の採用の入り口を『新卒時』のみに制限することで、ますます『潜在的なフリーター人口・非生産人口』が増えることにもつながるので、企業は最大限の努力を払って採用条件の柔軟化(多様化)やスキル・資格を取得した既卒者の積極採用に注力して欲しいとは思う。

その一方で、そういったフレキシブルな新卒にこだわらない採用が企業にどのような利益をもたらすのかがポイントになってくるし、既卒者も『正社員として採用されていない期間』に何らかのスキルアップや資格取得、職業経験などを積み重ねていかなければならないだろう。

問題になるのは『新卒採用・正社員としてのキャリア』以外の個人の経験や資格、スキル、専門知識などを企業が余り評価しないということかもしれないが、固定的な長期雇用のメンバーで企業活動を行う『共同体的組織の性格(企業と社員の一体感)』が変わってこないと、労働市場の流動性(人材評価基準の多様性)が高まってこないということも言える。










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■書籍紹介

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筑摩書房
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