仙台市泉区の高校教諭殺害について:夫婦関係(家庭生活)の悪化のプロセスと相互の感情・役割の変化

宮城県仙台市泉区で56歳の私立高校教諭が、44歳の妻と共謀した男性二人(会社役員・寿司職人)に殺害された事件が報道されている。38歳の会社役員の男性と27歳の寿司職人の男性は、以前から高校教諭の家族と親しく交際しており、夫と会社役員の容疑者が勤めていたことのある『学習塾・家庭教師業』を通して家族との人間関係が深められていったようだ。

教諭は2回に渡って襲撃されており、1回目の襲撃では頭部に重症を負うに留まったものの、退院して帰宅してすぐに再び襲撃されて絶命することになった。発生当初は動機も加害者も分からない奇異な事件として取り上げられていたが、その後の捜査で教諭家族と交遊のあった二人の男性が逮捕されて、妻も夫殺害の共謀・教唆をしたという共同正犯の容疑で逮捕されている。

44歳の妻と38歳の容疑者(会社役員)との間には男女関係もあったと伝えられており、事件当時はアリバイ作りのために、妻は子供を連れて自宅ではない知人宅などに身を寄せていたようである。事件の動機の詳細は妻の口からは語られていないが、『夫婦関係の冷え込み(容疑者との親密交際)・夫の家計管理(お金の使い方)への不満』などが動機として上がってきている。妻の側が離婚したいのになかなか納得できる条件での離婚ができないということが関係しているようだが、夫婦関係そのものは10年近く前から悪くなっていて一緒に外出することも無くなっていたと伝えられている。

夫がリスクの高い未公開株に手を出しており、そのことに反対の妻との間でいざこざがあったという話も出ているが、妻は既に容疑者の38歳男性と不倫関係にあったとされるので、夫婦関係の実質(情緒的な結びつき・相互扶助の意志)は無くなっていたと思われる。

余り上手くいっているとは言えない『夫婦関係・家庭生活』に他の男性が深く関与してきたことにより、『妻と他の男性との結びつき・協力関係』のほうが深まって、夫の存在が邪魔になってきたという不倫の絡む犯罪の典型的パターンのように見えるが、結婚するまでは妻の側が(生徒からも人気のあった)高校教師である夫に猛アプローチしていたという話も出ている。

妻が高校生だった当初は、若手の数学教師で女子生徒にも好かれていた夫に、妻の側から熱烈に繰り返しアプローチしたということだが、子どもが産まれて年月が経つにつれて『異性としての夫の魅力』が低下して『共同生活者としての夫への不満』のほうが高まったように思えた。夫がある時から家に『生活費』を全く入れなくなったという述懐も出ており、夫は専業主婦である妻に『家計(給与・貯蓄)の管理』を任せる性格ではなくて、自分の収入は自分で管理して一定の生活費だけを家族に渡すという考え方の人だったようである。

妻の『夫への愛情・関心』が完全に無くなっていたことで発生した事件とも言えるが、夫婦関係が実質的に破綻していたとしても、通常は離婚に至ることはあっても相手のことを殺害までしようとするケースは珍しい。妻が他の男性と共謀して配偶者である夫を殺傷するという事例では、夫の側の恒常的なDVや恫喝・嫌がらせ(モラルハラスメント)があり恨みつらみを蓄積しているか、他の男性と一緒になって別れたいという妻が夫から離婚して貰えないか、夫が死ねば多額の生命保険・労災などが入るかという状況が多いとされるが、実際に事件を起こすか否かは、妻のパーソナリティ特性や倫理観・自制心の偏りに左右される部分も大きい。

この事件では、『他の男性との不倫関係・妻にお金の管理を任せない夫の金銭管理・夫の死後の保険金(高額補償)』などの要因が相互に作用していたように感じられる。事件のそもそものきっかけが、夫が家に生活費を入れなくなったこと(妻に金銭管理を任せなかったこと)にあるのか、妻のほうが浮気をし始めたことにあるのかの詳細は不明であるが、『夫の妻の性格・生活に対する不満』『妻の夫の性格・金銭管理に対する不満』とが少しずつ積み重なっていくことで、相手への愛情・関心もなくなり冷静な対話も困難な状況になったのではないかと思う。

妻はフルタイムの正規雇用では働いていない専業主婦(パート)だったようなので、自分が思い描いていた結婚生活(家庭生活)に比べて、思っていた以上に自分自身で裁量できるお金が少ないことへの不満(夫が自分にお金の管理を任せてくれない不満)もあったのかもしれないが、そういった不満が夫が生活費のお金さえ入れなくなる(未公開株のギャンブル的投資にのめり込んで損失を重ねる)ことで限界に達したと見ることもできる。

これは夫と妻の年代を考えると『ジェンダー(社会的性差)の変化』に絡む問題でもあり、共働き世帯が当たり前の現代の男女関係で考えれば、自由に使えるお金が欲しければ妻が自分で少し働けば良いという話になるが、『夫が外で仕事をして稼ぎ、妻が家で家事・育児をする』という旧来的ジェンダーの影響を強く受けている人・世代の場合には、夫が収入をまともに入れないことは十分に憎悪・不満の原因となり得るだろう。

結婚生活は長くなればなるほど『異性としての好き嫌い』よりも『育児・経済的な共同生活・人間性の相性の部分』がメインになってきやすいので、初めから専業主婦・パートとして補助的に家計を支えるつもりで結婚をした女性であれば、『夫の経済的責任(家庭生活に必要なお金を入れること)』にシビアな評価を下しやすくなるのは必然でもある。

男性がギャンブルやリスク投資にのめり込んで家に生活費を入れなくなることは、離婚・夫婦不和の主要な原因の一つでもあるが、結婚した当初からギャンブル依存症的な問題を抱えていたのか、結婚した後に家庭生活や夫婦関係への不満(虚しさ)があってギャンブルに依存し始めたのかによって『問題状況への対処』は変わってくる。

この仙台市泉区の事件では容疑者である妻と男性2人に重大な加害責任があることは疑いないが、こういった夫婦間の悲惨な事件を未然に抑止するためには当事者がそれぞれどうすれば良いのか、『修復不能な夫婦関係の対立・憎悪』をどの時点で見極めて別離の判断をすれば良いのかなどを考えさせられる。

より早い段階で夫婦の間で冷静な話し合いの機会を設けて、それぞれの『相手に対する不満・怒り・要求・憎悪』を前向きに解消しようとする合意が出来れば良いのだが、実際には夫婦関係がいったんこじれて『相手の嫌がる行動・発言』を頻繁にし始めると、そこからどちらかが折れて『相手の言い分・要求』をとりあえず受け容れるということがかなり難しくなってくる。

夫がサラリーマンで妻が主婦・パートという夫婦で『家計の金銭管理』をどのようにすべきかというジェンダーと相関する問題も、従来であれば『浪費・ギャンブル・借金などの問題』がなくて堅実な家計管理をしてくれる妻であれば、給料(預金通帳)をそのまま妻に渡すのが夫婦円満の方策と言われたものだが、現代ではジェンダーや男女の労働環境(労働意識)の変化によって家計管理のあり方(共働きで完全に別会計にしているような夫婦など)も多様化しているので一概には言えない部分も多いだろう。

夫婦関係や家庭生活が崩れ始める時には、必然的に金銭(仕事)か異性(不倫)か暴力か育児の問題が絡んでくるものだが、家族や夫婦の関係は『日常生活における行動・言語の相互作用』によって規定されてくるので、(性格や考え方の合う合わないはあっても)どちらか一方だけが完全に悪いということは少ない。中にはどちらか一方だけが理不尽な要求をつきつけたり一方的に不倫・暴力・借金をしたりといった問題もあるが、人間関係が悪化していくプロセスでは、お互いの言動が相手の行動・判断に影響を与えるという相互作用が見られやすい。

家庭生活のバランスが崩れてきた時には、『自分の対応を変えれば相手の対応も変わる可能性が高まる』という原則を頭において、お互いにとって望ましくない結果を回避するために家庭生活(夫婦関係)の立て直しを図って欲しいと思うが、どうしても改善が無理であれば現在の夫婦関係の納得のいく整理も考えていく必要があるだろう。










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