勝間和代『目立つ力 インターネットで人生を変える方法』の書評:セルフブランディングのPDCAサイクル

日本の社会・組織や人間関係では『個人で目立つこと・集団から突出すること・自己アピールすること』はある種のリスクと見なされやすい。『個人の実名』で目立った行動や発言をすれば批判や反論、非難を受ける確率が高まるだけではなく、一般的なサラリーマンや公務員では『個人としての知名度』を上げることで得られる実際的なメリット・報酬というものも乏しい。

『出る杭は打たれる・寄らば大樹の陰』を自覚して行動することが、従来の日本社会では最善の処世術でもあり、『個人の名前』ではなく『企業組織の看板・職位(肩書き)』によって社会的アイデンティティを確立することが、最も安定的でリスクの小さい生き方だというのが世間一般の認識でもある。

『個人の名前』の知名度や権威性が上がることで報酬(メリット)を高める仕事・職業というものも数多くあるが、芸能人やアーティスト、スポーツ選手、作家、知識人・評論家、ベンチャー起業家、一部の専門家などの職業は、個人としては目立たないサラリーマン(会社員・公務員)と比較すると、どうしても『不安定な仕事・堅気ではない仕事・(世間に監視されているような)ストレスの多い生き方』と見られやすい。

個人として『目立つ』ということは、個人の顔と名前、主張を大多数の人に認識されるということであり、目立たない人には手の届かない大きなチャンスとメリットを享受できることも確かにある。誰もが子ども時代や思春期には、個人として突出した存在感や知名度を持つ『有名人・著名人』に憧れたりなりたいと思ったりするものだと思うが、成長するに従って『ほどほどに目立ちたい・余り目立ちたくない・できるだけ集団の一員でいたい・帰属集団や経歴で自分の価値を分かりやすく代理表現したい』というような価値観を持つ人が増えてくる。

誰もが知っているような芸能人や著名人になれば、大きな報酬や名誉は得られるかもしれないが、『プライベートの時間・場所』は極めて限定されるようになり、私生活や異性関係の一挙手一投足までマスメディアに報じられるリスクが出てくる。酒井法子や押尾学、琴光喜、田代まさしなどの事例が典型的ではあるが、途中で犯罪や不祥事を起こして転落でもすれば、一般人とは比べ物にならない激しいバッシングや侮辱・中傷を受けることになり、そこから精神的・社会的(職業的)に立ち直ることは並大抵の努力と意志では追いつかないかもしれない。

これは“超”がつく大多数の人が知っている有名人の話なので、本書『目立つ力』と直接的な関係があるわけではないし、インターネットを有効活用してセルフブランディングや自己宣伝を繰り返しても、そこまでの知名度につながることはまず無いだろう。しかし、有名人・著名人の立場から物事を考えてみると、『派手に目立つことを恐れる心理』として失敗した時の世間からの非難を恐れる気持ち、社会的な評価・名声(期待)に自分の実像が追いつかなくなる不安感などを想定することができる。

本書『目立つ力』は、勝間和代氏がネットを活用したセルフブランディングの経験論を開示しながら、『目立つことによって、自分の夢・目標を達成しやすくすること』を目的にして書かれている。その為、有名人や著名人のように知名度を最大限に高めて、誰もに自分を認識して貰うことが直接の目的になるわけではない。『自分の目的・夢に見合った目立つ力』を、インターネットを使ってエンパワーメント(強化)していくことが重要になってくる。『目立つ力』は飽くまで目的を達成しやすくするための手段という位置づけである。

人間には誰しも自己表現や自己主張の欲求があり、自分固有の価値や魅力を多くの人に認めてもらいたいという承認欲求もある。そういった自己表現欲求や承認欲求が『目立ちたい欲求』へと転化することになるが、本書では『目立つことそのもの』ではなくて、『自分が設定した夢・目標を達成するために目立つこと』を一貫したテーマに据えている。

ブログやSNS、Twitterをはじめとする個人の情報発信手段が続々と登場したウェブ2.0以前には、個人が不特定多数の他者を相手にして、自己表現(自己主張)をしたり効率的な情報伝達をすることは技術的・経済的に不可能に近かった。しかし現在のインターネットには、自分の目的や希望に合わせて自由に使い分けられるウェブサービスが出揃っており、無料(あるいは低料金)で不特定多数に対する自己アピールや情報発信を簡単に行えるようになっている。

梅田望夫氏が『ウェブ進化論』『ウェブ時代をゆく』で指摘したウェブ2.0の総表現社会は成熟・収斂の度合いを深めているが、玉石混交のコンテンツから“玉”を選り分ける時にも『個人としての主張・見識・知性などが際立っている人(一定の目立つ力を感じる人)』というのが一つの指標にはなるかもしれない。

本書『目立つ力』は既にブログやSNSをバリバリ自由に使いこなしている人に向けて書かれた本ではなく、これからインターネットを個人メディア(自分メディア)として活用していきたいという初心者に向けて書かれた啓蒙書的な色合いを持つ本だ。仮説検証モデルの『PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)』に合わせて各章のコンテンツが書かれているが、ブログのコンセプトや目的、想定読者層を決めた後に、どのようにしてアクセスを増やしていけば良いのかということについても自分の経験に基づいたアドバイスが為されている。

インターネットを使って人生や仕事が良い方向に変わっていった勝間氏の経験談も含めながら、自分メディアとしてのウェブの活用法やブログの書き方・集客法について説明している。コンセプトや目的が明確化していて『集客・コミュニケーション・自己表現の方法論』が正しければ、ウェブの活用をリアルの利益や人間関係の広がりにつなげていくこともできるだろう。自分が何を実現したくてブログを更新しているのか、自分はどんな体験や結果をリターンとして楽しむことができるのかという『基本コンセプトの設定・目的達成のための手順と方法』を重視したウェブ活用を本書では勧めている。

勝間氏がブログは意外に時間コストのかかる個人メディアだと書いていることには同意なのだが、第四章『Check&Action――改善・継続する』“一エントリーに書ける時間は30分以内に”というのは、ブログのコンセプトや自分の伝えたいことに必要な文書量によってはなかなか実現が困難な基準ではある。私自身も5年間以上ブログを継続しているが、ブログを長く続けていくためのヒントは『好きな分野や興味のある事柄について書く・毎日更新しようと気負い過ぎない・アクセス数でもビジネスでも自分にとっての何らかのリターンを実感できるようにする・自分で読んでみても楽しめるクオリティの内容を書く』ということに尽きるように思う。










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■書籍紹介

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勝間 和代

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