ITやインターネットが促進する“現代のグローバリゼーション”と人類の歩んできた歴史過程

トーマス・フリードマンは『フラット化する世界 経済の大転換と人間の未来』でインターネットと情報端末の普及で情報化社会が整備されることにより、生まれた国や地域とは関係なく『個人が平等な競争をする労働市場が広がる』という予言をしているが、グローバリゼーションによるフラット化は先進国と新興国を包摂する『生産‐流通‐消費の一大システム』の構築を促進して、個人と企業を取り巻く国際競争は厳しさを増していく。

日本市場は外国人労働者の流入や農作物の輸入を大幅に規制していて、『日本人の雇用・産業』を制度的な保護主義の枠組みで守っているが、それでも金融の自由化や外資系企業の参入、オフショアリングによる生産拠点の移転、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定による人材交流)の締結によって、段階的に『雇用・資本・人材のグローバリゼーション』が進展している。グローバリゼーションにはメリットとデメリットの双方があるが、グローバリゼーションとは国民国家(政治的集団の単位)の枠組みを超えて『人間・経済・文化・思想』が双方向的な結びつきや共通化(平準化)を強める現象のことである。

現代のグローバリゼーションとは、国民国家の枠組みを超えて“人・モノ・カネ・情報”が移動することで『経済・文化・思想・人材の結びつき(統合度・相互依存性)』が強まる現象だが、近代以前にも軍事力や自由交易、異文化交流によるグローバル化は何度も繰り返し行われてきた。人類は特定の地域や国、文化に閉じこもり続けるような歴史を歩んできたわけではなく、古代ギリシアの植民都市や古代ローマの帝国化、中東のペルシア帝国やイスラーム帝国の誕生、中華帝国の冊封体制の成立など、古代・中世から『軍事的・支配的な共同体(帝国)の拡張』による強制的な異文化交流やグローバリズムが進展してきた。

戦争を手段とする軍事的な共同体の拡張には、商人による自由貿易や世界宗教の布教、未知の土地の発見(地図の拡大)が付随しており、グローバリゼーションは『文化的・経済的・宗教的な混合と統合』を深め、新たな土地の情報を入手することで新天地への探究心や異文化への好奇心を煽り立てていった。前近代のグローバリゼーションは『有力な国家・民族』『有益な技術・製品』による“支配的な文化・言語・宗教”を生み出してきたが、これが暫時的・部分的(限定的)であるにせよ、グローバル・スタンダードに近い“文化的・言語的な標準”を準備することにもなった。

地球全体を包摂する『標準的な文化・言語・宗教』を生み出すところまでは行かなくても、“キリスト教圏・イスラーム圏・仏教圏・儒教圏(冊封体制)”といった広範な複数の地域・文化・言語を飲み込む文化圏(宗教圏)が既に近代以前から形成されており、その部分的なグローバル化は度々、他の文化圏・宗教圏との衝突を起こしていた。言語についても、古代ギリシア・ローマの西欧世界ではギリシア語やラテン語が広く普及していき、イスラームの中東世界ではアラビア語の流通範囲が急速に拡大した。

15世紀になると、クリストファー・コロンブスのアメリカ沿岸部(カリブ諸島)への到達やヴァスコ・ダ・ガマのインド航路開拓、カブラルのブラジル到達、フェルディナンド・マゼランの世界一周航海など、『大航海時代』による(ヨーロッパ人にとっての)地理上の新たな土地の発見が相次ぐ。大航海時代はスペイン人やポルトガル人の『征服者(コンキスタドール)』の言語であるスペイン語・ポルトガル語が南米大陸に普及するきっかけとなり、インドや東南アジアでは香辛料・香料・貴金属の交易が活発化したが、未知の世界に富を求めた大航海時代の影の側面である『植民地主義(コロニアリズム)』を隆盛させた。

その後も、オランダやイギリスの『東インド会社』の国際的な軍事活動・貿易活動によって経済的なグローバル化が進められるが、近代のグローバリゼーションは『西欧諸国の軍事力による異民族の支配・搾取』を前提とするものでもあり、東南アジアやアフリカでは大規模なプランテーション経営によって原住民が過酷な労働に安い賃金(あるいは無給)で隷従させられることにもなった。

欧米諸国とアジア・アフリカ諸国の『力の不均衡』に基づく強制的なグローバリゼーションは、アフリカ大陸からアメリカ大陸に黒人奴隷を送る『奴隷貿易』やアジア・アフリカ諸国を経済的・軍事的に支配する『帝国主義(植民地主義)』など、外国人の人権を不当に侵害する非人道的な事態も多く引き起こした。

その為、複数の文化圏・言語圏を接続する“グローバリゼーション”は現代特有のものというわけでもないのだが、『近代以前のグローバリゼーション』『現代のグローバリゼーション』には多くの質的・方法論的な差異がある。

現代のグローバリゼーションは、『インターネット(情報技術)の普及・ボーダーレスな金融とビジネス・国際貿易の発展・人権思想と自由主義の流通・生産拠点と労働力の移転』など直接的な軍事力や支配を用いない形で進行しており、“英語・IT・金融”といったグローバル・スタンダードとされるスキルもイノベーション(技術革新)や利便性によって標準性が確立していったように見える。

現代のグローバリゼーションは一般的に、先進国の人たちには新興国の労働者と競争する『将来の不安』を与え、新興国の人たちには先進国の労働者に取って代われるかもしれない『未来の期待』を与えるが、グローバリゼーションの恩恵を受けれずに、貧困状態のまま放置されている開発途上国や独裁国家の人たちの問題は深刻化している。

グローバリゼーションは『ローカルな固有の文化・常識・言語・伝統』を緩やかに解体するように感じられ、先進国の人たちにとっては『安定した今までのライフスタイル・雇用(仕事)・価値観』を揺らがす体験として不安や恐怖の原因ともなる。前回の記事で書いた楽天とユニクロの社内での『英語の公用語化』というのも、今まで慣れ親しんだワークスタイルや雇用慣行を変化させるグローバリゼーションの影響であり、大多数の日本人にとっては『(部分的にではあれ)英語を使う仕事環境やライフスタイルへの移行』は面倒臭くて苦痛の多いものではあるだろう。

経済的なグローバリゼーションの影響の一つとして、『先進国に生まれたことによるベネフィット(雇用・所得の優位性)』が相対的に低下して、『新興国・途上国に生まれたことによるビハインド(雇用の不利益)』が相対的に改善されるという傾向があり、中国人労働者の賃上げ要求・ストライキなどが強まっているように、労賃が国際的に平準化(フラット化)する圧力が強まりやすい面がある。日本人の労働者(正規雇用者)は現状では、地理的・制度的・法律的にその地位と所得がある程度は守られているが、国際競争圧力やオフショアリング(生産拠点の海外移転)による非正規雇用の増加など、労働市場に対するグローバリゼーションの影響も静かに浸透してきている。

グローバリゼーションの本質は複数の異文化や異民族、経済活動を相互依存的に結び付けていき、グローバルな規模で通用する共通のルールや競争環境を拡大していくことであるが、グローバリゼーションの現象を人類学的な歴史スパンで考察したければナヤン・チャンダ『グローバリゼーション 人類5万年のドラマ』が参考になるかもしれない。ナヤン・チャンダはグローバリゼーションを人類史の必然的な展開として解釈しており、情報通信技術やインターネットが発達した現代ではグローバリゼーションの大きな流れを政治的・意図的に堰き止めることは不可能でリスクのほうが大きいという結論につなげている。

ナヤン・チャンダは現生人類の祖先が約5万年前にアフリカ大陸を出た時から、知的好奇心や支配や富の欲望、生活と食糧の必要に突き動かされる形で『必然的なグローバリゼーション』が始まったという仮説を元に、世界各地の異文化交流や『支配・征服・交易の歴史』を豊富な事例によって解説している。

人類の歴史でグローバリゼーションを推進した要因として『征服(軍事支配と帝国拡張)・交易(経済交流)・宗教(布教活動)・冒険(未開の土地の知的探求)』の4つの要因を上げている。そして、世界各地の人とモノ、言語、通貨が対立と依存を繰り返して持続的(断続的)に交流してきた歴史を『多面的・複合的』に読み解きながら、『現代のグローバリゼーション』が人類にもたらす大変化を分析している。










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■書籍紹介

グローバリゼーション 人類5万年のドラマ (上)
エヌティティ出版
ナヤン・チャンダ

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