“ネガティブな感情・気分”の悪循環を断ち切るための認知療法とセルフヘルプによる気分の改善

A.ベックの認知療法やA.エリスの論理療法(論理情動行動療法)では、『認知(物事の捉え方)が気分や感情を規定する』という認知理論の前提に立って、『自分にとって苦痛で不快な感情(気分)』を変容させることを目指していきます。『客観的な出来事』『自分の感情・気分』が直接的に結びついていると、『嫌な出来事・つらい状況』があると反射的にネガティブな感情が起こったり気分が激しく落ち込んだりします。

『嫌な出来事・つらい状況・不愉快な相手の態度』があれば、怒ったり悲しんだり落ち込んだりするのは当たり前ではないかというのも最もな意見なのですが、『怒り・悲しみ・抑うつのレベル』が深刻になり過ぎると、通常の社会生活が送れなくなったり対人関係にさまざまな不都合が起こってきます。最悪のケースでは、怒りや不満、孤独感、見捨てられ不安などの感情を制御できずに、他者を傷つける反社会的行動や常軌を逸したクレーマー、ストーカーなどの問題に発展してしまうこともあります。

認知療法的な技法や考え方を用いても、『怒り・悲しみ・抑うつ・不安などの感情』を完全にコントロールしたり無くしたりできるわけではなくて、精神病理や不適切な行動にまで悪化しないように適度なレベルでコントロールできるだけというのが実際に近いと思います。嫌な出来事や不快な対人状況があれば、誰でもネガティブな感情が起こってきますが、『健全な感情の範囲内』にその感情を抑えられるかどうかによって、そのネガティブな感情の強度と持続性はかなり大きく変わってくるのです。

自分が相手に軽視されたり暴言で挑発されるような『不快な対人コミュニケーション』があった時に、『怒り・自己嫌悪の感情』が起こることは自然な感情反応ですが、過度に激怒すれば健康にも悪く暴力行動にもエスカレートし兼ねません。相手から言われた暴言や非難を気にし過ぎたり、何であの時に毅然として言い返せなかったんだと後悔ばかりしていては、自己嫌悪(自己否定)の感情が強まってその後の生活や人間関係を快活に楽しめなくなる恐れもあります。

物事を悪い方向にひたすら解釈していけば、人間は幾らでも攻撃的に激怒することができるし、終わりが見えない抑うつ感の底に沈むこともできるわけですが、こういった『ネガティブな認知』に気づいていない無自覚な人こそ、認知療法的な対応を試してみる価値があると言えるでしょう。

『人間はつらい時にはこういう風に考えるのが当たり前だ・自分を軽視するむかつく奴は絶対に許さないのが俺の性格だ・この考え方以外の考え方ができるとは思えない』という特定の認知(考え方)へのこだわりは、その人の過去の人生経験や対人関係、生得的な気質によって規定される『認知的スキーマ』に由来しています。

特定の方向へと認知を誘導する『認知的スキーマ』は、ある程度長い年月を掛けて築かれる『思考の枠組み』なので簡単に変えることは難しいのですが、ある出来事の後に自分の頭の中に浮かんでくる『自動思考(言葉の内容)』を意識的に検証することができれば、完全には変えられなくても感情・気分を適度に調整しやすくなります。

怒りや憂鬱、不安の感情が強まっている時にはお勧めできませんが、ある程度精神状態が安定している時を選んで、『自分を落ち込ませるフレーズ・自分を怒らせるフレーズ』を意図的に繰り返し唱えてみて下さい。すると、『こういう方向に物事を考えると、本当に抑うつ感や怒りが強まってくる』ということが、自分の実体験や内部感覚として分かってくると思います。そういった自省的・反省的なアプローチを通して、自分の『認知的スキーマの特徴・傾向』を把握していくことで、『自分自身の感情・気分を安定させる効果を持つ認知』『感情・気分を悪化させる影響力を持つ認知』を体感的に理解することができます。

『認知的スキーマ』の特徴・傾向の個人差は大きいですが、自分自身がどういった思考・言葉の影響を受けやすいのか、どういった方向に認知を進めていけば、気分が前向きになったり落ち込んだりするのかを体感的に知っておくことは、自分の感情・気分の適度な制御に極めて有効です。自分で自分を過度に落ち込ませたり、自信喪失や絶望に追い込んでいくような『ネガティブな認知』を持っていると、『自己否定・気分悪化の悪循環』にはまり込みやすくなり、精神疾患(うつ病・社交不安障害など)の発症リスクを高めたり日常生活に適応できなくなったりします。

いつもどんな時でも『適応的・論理的な認知』で自分の気分・感情を前向きに支えていけるわけではありませんが、自分が『感情・気分の悪循環』に入っていることに早い段階で気づくことが出来れば、心理的なケアを効果的に行いやすくなります。自分の認知で自分の感情を無意識的に悪化させているという『悪循環』に気づいた段階で、頭の中で繰り返している『悲観的・否定的な思考パターン』を、肯定的な方向へと変容させていければ良いわけです。

認知療法では『客観的な出来事→自分の認知(考え方)→結果としての感情・気分』というモデルで感情・気分の形成を理解しますが、論理療法も『ABCモデル(Activating Event→Belief→Consequence)』という似たようなモデルで感情・気分の形成を説明しています。『客観的な出来事』をどのような認知(信念)で捉えて解釈するかによって、自分の感情や気分が変わってくるというモデルですが、簡略化して言えば自分や他者、世界を否定する『悲観的な認知』を持っていると、ネガティブな感情・気分の悪循環にはまり込みやすくなります。

頭の中で無意識的に発生する『認知』は、その場で即座にチェックすることは難しいですが、事前に『自動思考(自然に起こってくる考え方)』を記録して認知の内容を確認しておけば、自分がある状況や出来事において持ちやすい『認知パターン』が自然に分かってきます。

前述したように、『客観的な出来事』に対応する形で自然に発生する『適応範囲内の感情・気分』であれば、認知療法などを用いて無理にポジティブな感情に変えていく必要はないわけですが、自分が感じている感情や気分が『病理的・非適応的・過剰』であり、苦痛やつらさが激しくて日常生活に支障がでていれば変えていく必要があるでしょう。どういった出来事や状況によって生じた感情(気分)かにもよりますが、一定期間が経過した後にその苦痛な感情が和らいできて、以前のように明るい気分や喜び・興味の感情が持てるのであれば特別な心配は要らないということになります。

うつ病の診断基準では『2週間以上にわたって過度の気分の落ち込みと憂鬱感が和らぐことなく続く(2週間以上気分が晴れる時が全く無い)』という項目が重視されます。しかし、『死別・離婚・別離・いじめ(ハラスメント)・社会的職業的な挫折』などのつらい経験をした時には、2週間以上にわたって気分の落ち込みや悲哀感、自己否定感、不安感が続くことは少なくないので、苦痛な感情状態が続く中でも『楽しみ・喜び・興味関心・明るさ』を少しでも感じられる方向へと認知を変容させることが自己回復のポイントになります。

『適応的で自然な感情・気分』『非適応的で病的な感情・気分』との一般的な区別は、『その感情(気分)の強度と持続期間』及び『その感情が自分と他人に与える影響(結果)』にあると言えます。

何かミスや失敗をした時に、自分の責任を感じて落ち込みそのミスを挽回しようとするのは『自然な感情』ですが、そのミスや失敗をしたことで自分を過度に否定して罪悪感を感じたり何もかもダメになってしまったと絶望するのは『病的な感情』に近くなってしまいます。

配偶者・恋人などの大切な相手と別れた時に、がっくりと落ち込んで情緒が不安定になるのは『自然な感情』ですが、恋人がいなければ生きている意味がないと感じ、自殺を考えたり長い期間にわたって仕事・学業が困難な状況になれば『病的な感情』に近いと言えるでしょう。極めて長期的にネガティブな感情から立ち直ることができず、現在の自分の人生や仕事、人間関係に興味・意欲を持つことさえ出来なくなるというのであれば、『非適応的で病的な感情・気分』に分類されてきます。

不快で苦痛な感情(気分)の強度が極めて強く、その持続期間が数週間以上にもわたって続き、その感情(気分)を持ち続けているために日常生活や仕事・人間関係に大きな支障(不都合)がでているのであれば、『非適応的で病的な感情・気分』になってきます。そういった感情・気分の問題があるのであれば、認知療法・支持療法をはじめとするカウンセリングによって改善したほうが本人や周囲にとっても良いのですが、自分の認知と感情・気分のつながりを知ることができれば、『セルフヘルプ(自己援助)』によって自分の精神状態が安定しやすくなります。










■関連URI
“生きる意味”を積極的に生み出す『合理的な信念』と“生きる資格の障壁”を生み出す『不合理な信念』

『怒りの感情』の発生原因を考慮した認知療法的な対処法:カタルシスとアンガー・マネージメント

J.バビンスキーの“無意識的な観念”の作用と認知療法の“認知の歪み”の変容:抑圧による病理形成

A.エリスのABCDE理論のモデルと“不快な気分・苦痛な感情”を改善する合理的信念の効果・特徴

■書籍紹介

論理療法の理論と実際
誠信書房
國分 康孝

ユーザレビュー:
すばらしいです。さす ...
自分に自信のない方へ ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る






うつと不安の認知療法練習帳
創元社
デニス グリーンバーガー

ユーザレビュー:
わかりやすい うつや ...
疑問は残るところです ...
読破するのは大変。調 ...

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 7

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのトラックバック