“所与の人間関係の減少”を前提とした現代社会のエロス的(情緒的・家族的)な人間関係の構築

前回の記事の続きになりますが、自分にとって他者はどのような意味や価値を持っているのか、他者は自分に対してどのような影響を与えるものとして認識されているのかによっても、『人間関係やコミュニケーションのパターン』が規定されてきます。

いつも他人と一緒にいることを望んで積極的にコミュニケイトする“人好き(社交性)の極”といつも一人で過ごして他人と関わりたくないという“人嫌い(孤独志向)の極”とがありますが、『他者との人間関係』や『集団への帰属感覚(共同体性)』というのは、誰にとっても基本的にはアンビバレンツ(両価的)なものです。

その時々の気分や状況によって、他人と一緒にいたい時もあれば一人になって静かにしたい時もあるというのは普通ですが、人間関係全般には『安心感・親密感・承認や愛情(支持)といったプラスの要素』『煩わしさ・拘束感・強制性や否認(拒絶)といったマイナスの要素』とがあります。

対人関係を作れないことや集団組織に帰属できないことによる『孤立・孤独(無力感)の苦しみ』がある一方で、対人関係に振り回されたり(傷つけられたり)帰属する集団から規制を受けたりすることによる『干渉・制限(束縛感)の苦しみ』もあります。

歴史的な経済社会構造の変化やゲマインシャフト(伝統的共同体)の衰退によって、近代以降の人間関係からは『地縁血縁の所与性(初めから規定された人間関係)』が失われていき、その代わりに『人間関係や所属集団の選択性(自由度)』が高まりました。

近代社会における人間関係の質的な変化(人間関係と帰属の選択の自由)は、言い換えれば『自分の好きな相手・興味を持てる相手』だけを選んで付き合い、『自分の嫌いな相手・興味のない相手』とは付き合いたくないという人間の利便性や快適性の追求と相関していると言えます。

経済社会の生産力の増大や地域社会の衰退などによって、こういった人間関係の取捨選択が可能な環境条件が整ったと言えますが、それと同時に『他人に好かれて選ばれなければ親密な人間関係が作れないという問題(=対人関係・異性関係の市場化)』『安定した自己アイデンティティを形成する地域社会や所与の人間関係が失われる問題(=個人主義の孤立感)』が生まれました。

大都市への人口集中や地域間の人口移動の流動化によって、生まれた地域で死ぬまで生活する人が大幅に減り、幼少期~思春期の人間関係を大人になっても維持できる(維持したい)人も減ってきたことにより、『安定した人間関係の中で自己が規定される』という意味での自己アイデンティティの一貫性・統合性がやや弱まったと解釈することができます。

長い期間にわたって慣れ親しんだ人間関係(地縁血縁)の中で、自己の役割やスタンスが規定される経験が乏しくなったこと、企業生活で自己アイデンティティの大枠が規定されるようになったことで、現代社会における人間関係・異性関係・家族生活は、一般社会(共同体)から切り離された“プライベート性・自己責任性(自由選択性)”を強く持つようになっています。

その事には、『自分の人生・行動』に対して他者や家族、共同体から強い干渉をされにくく個人の自由が拡張するというメリットもありますが、自分から積極的に動いて人間関係を作ったり社会参加していかなければ、誰からも干渉されないので孤立しやすいというデメリットもあります。地縁・血縁や昔馴染みといった『所与の人間関係の枠組み』が揺らいでいて、晩婚化・未婚化によって『家族単位の共同性』も薄らぎ単身者が増えているので、自己アイデンティティを確立する要因としての『持続的な安定した人間関係(自己と他者との長期の相互的承認)』を築きにくい状況もあるでしょう。

幼少期からの対人関係の経験や自分の気質性格によって作られた『自分にとっての他者表象(他者のイメージ)』がポジティブで自己肯定的なものであれば、『持続的な安定した人間関係』を持ちやすくなります。反対に、『自分にとっての他者表象(他者のイメージ)』がネガティブで対立的なものであれば、『他者に自我を傷つけられたくないという防衛機制』が働きやすくなって、自己と他者との間に心理的な溝(理解し合うことが困難と感じる領域)が深まりやすくなります。

一方で、C.G.ユングが自身の分析心理学における普遍的無意識の元型(アーキタイプ)としてグレートマザーを指摘したように、『自分が相手から全面的に理解されること・無条件に自己を受容される経験』には自己が相手の深い愛情・好意に呑み込まれてしまうような原初的な不安(主体性の喪失に関する不安)を伴います。

親子関係(母子関係)であれば、盲目的な無条件の愛情表現は『溺愛・甘やかし・過保護の問題』となって現れてきますが、これは『無償の愛情の形式(反抗しがたい形式)』によって子の言動や態度をコントロールしようとする支配欲求であり、子の自立性や主体性を阻害するという副作用を伴います。

恋愛関係や夫婦関係においても『過度に重たい愛情表現・独占欲求』というのは、相手に対して『呑み込まれる不安(恐怖)』を感じさせるので、重たすぎる愛情や執着というのはかえって夫婦関係(恋愛関係)を破綻させるリスクにもなってきます。無償の愛情や強い好意というのは、一般的に相手の気持ちを考えてしまうことで批判・抵抗が難しくなるので、初めのうちは何となく受け容れやすいものなのですが、『支配欲求の転換としての愛情(好意)』を向けていると、相手は自分の主体性や自立性を脅かされる不安を感じやすくなってしまいます。

良好な人間関係を長く維持していくためには、相手の自由を束縛し過ぎずに『相手の人格性・主体性・独自性』に一定以上の敬意を払う必要がありますし、『お互いにとっての最適な距離感』を試行錯誤で作り上げていかなければいけない面もあります。

ゲマインシャフトが衰退した現代社会では、『パブリックな社会経済的関係性』『プライベートなエロス的関係性(情緒的関係性)』との境界線(公私の区別)が濃くなってきています。そして、エロス的関係性においては“相互的な欲求充足・人格の尊重”“相手の存在がかけがえがないという唯一性の認識”をどのように実現していくかが問われることになります。

問題解決志向のカウンセリングでは『今・ここの時点』に意識を集中するように求めますが、プライベートなエロス的関係性を充実させていくという目的を達成するためには、むしろ精神分析的な『過去の関係性の想起(こういう良いことがあったという確認)+未来の関係性への希望(こういう風になりたいという欲求)』を合わせることが大切で、二人の関係性を物語的に述懐し再構成していくことがポイントになると思います。

なぜならば、人間関係の意味や評価というのは『今・ここの刹那の時点』のみで決定されるわけではなくて、『過去の行為や意思疎通の積み重ね』や『未来の期待や希望のイメージ』といった連続的な時間軸によって、その人間関係(特定の他者)の意味や価値に対する主観的認識が規定されてくるからです。










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■書籍紹介

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