問題解決志向のカウンセリングと自他理解の重要性3:人の認知・行動は何によって変わるのか?

前回の記事の続きになるが、現実的な『自己理解』や状況認識を深めていくと同時に、『他者理解』を深めることが『新しい認知・行動パターン』の獲得を後押しすることも多い。カウンセリングにはクライアントの問題状況や性格傾向に適した情報提供を行うという『心理教育的な側面』もあるが、その心理教育的側面の中心にあるのが『自己理解と他者理解の促進』である。

アーロン・ベックの開発した認知療法(coginitive therapy)では、『自己・他者・世界に対する認知』という認知的三角形があり、この認知的三角形を『自己・他者・世界の肯定的認知』の形へと整えることでクライアントの心理状態(問題状況)が改善すると考える。問題解決志向のブリーフセラピーでも、『自己理解・他者理解・現実認識』という3つの肯定的変化につながる要素のバランスを取ることで、『新たな認知・行動パターン』の獲得が起こりやすくなってくる。

自分が認めたくない欲求や現実を認めて、そこから自分にできる『認知・行動パターンの変化』を実践していくという『現実認識の重要性』については前の記事で説明したので、ここでは問題解決志向のカウンセリングで焦点となる『自己理解』『他者理解』のポイントについて簡単にまとめてみたい。

『自己理解』とは自分自身の性格特性や価値観(信念体系)を知って、自分がなぜそういった認知(考え方)や行動のパターンを取っているのかのメカニズム(行動原則)を分かりやすい説明で理解するということである。『他者理解』とは自己理解と同じく、他人の性格特性や価値観を知って、他人がなぜそういった認知(考え方)や行動のパターンを取っているのかのメカニズムを理解するということになる。

自分と自分が関わる他者の『基本的な行動原則・判断基準(選好基準)』を適切に理解すれば、感情的な動揺や不安を経験することはあっても、対人関係や社会生活の問題に対して全く無力になって何の対応もできないという最悪の事態だけは避けることができるようになる。よく人間関係の悩みについての一般論として、『自分は変えられるが、他人を変えることはできない』と言われるが、自分の行動や努力の方向性によっては『他人を変えられる(他人を動かせる)可能性』がゼロというわけではない。

なぜなら、人間の心理や行動というのは『自分ひとりの気分・状況・判断(信念)』のみで独立的に決まるのではなく、自分を取り巻く人間関係や社会環境の中で『双方向的な影響』を絶えず受けているからである。確かに他人を自分の思いのままに自由にコントロールすることはおよそ不可能なことであるが、『自分の認知・行動パターンの変化』『他人の認知・行動パターンの変化』につながる影響を及ぼすことは往々にしてある。

行動主義心理学の条件づけ理論(レスポンデント条件づけ・オペラント条件づけ)では、人間の行動を生起・変化させる要因として『生理学的反射(無条件反射)・報酬(正の強化子)・罰(負の強化子)』を考えることができるが、現実の人間関係ではここに『情緒性・記憶(体験)の共有にまつわる刺激』も加えることができるだろう。強制的に他人の行動を生起・変化させられる要因として『恐怖・欠乏・大きな利益(強力な報酬)・孤独(極端な承認不全)』があるが、これらの要因は倫理的・人道的な観点からカウンセリングでは応用することが困難である。

しかし、この人間の行動原則の根本にある要因が指し示すのは、『人間は本当に欲しいものを手に入れるため・本当に嫌なもの(怖いもの)を避けるため・本当に譲れない価値観を守るため』であれば認知・行動パターンを変化させる可能性が高いということである。実際的な問題解決につながる自己理解や他者理解を深めるプロセスでは、『本当に欲しいもの・本当に嫌なもの・本当に大切な価値観』が何であるのかを明確化していく必要がでてくる。

他者の欲求や不安を充足(ケア)するような行動を自分が取るようになれば、他者の認知・行動パターンが良い方向に変わってくる可能性が高まるし、他者が自分の欲求や自尊心に配慮しない自己中心的な行動ばかりを取るようになれば、その人間関係の重要性を考え直すきっかけにもなる。自分や他人が本当に求めているものや避けたがっているものが何なのかという『自己理解・他者理解』を深めるためには、アブラハム・マズローの欲求階層説も参考になる。

人間心理の普遍的な欲求として、他者から自分の価値や尊厳を認められたいという『承認欲求』や孤独な状況を恐れて他人とふれあっていたいという『親和欲求』があるが、人間関係の中で『相手の認められたい要素・相手が孤独を感じている状況』を適切に認識することができれば、人間関係を改善するために取れる自分の行動も自ずから限られてくる。

『他者理解』を深めて人間関係(コミュニケーション)を円滑にしていくためのポイントとしては、『その相手が何を一番大切にしていて、何を一番嫌っているのかという価値観』や『その相手がどんなタイプの人間・考え方を好んで、どんなタイプの人間・考え方を嫌う傾向があるのかという対人認知』があり、それらを適切に理解することによって相手に対する効果的な行動・態度を選びやすくなってくる。

無理をしてまで相手や状況に合わせる必要はない(自分は自分の信念ややり方を貫くだけ)という考え方も有り得るが、人生の過程ではどうしてもなかなか馬の合わない相手とも関係を持たなければならない場面がでてくる。そういった人間関係の悩みに直面した時には、『自己理解・他者理解』を参考にしながら、問題点を解消しやすい『認知・行動パターンの変容(相手に承認されやすく拒絶されにくい行動)』が効果的になってくると思う。










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