問題解決志向のカウンセリングと現実・欲求の否認のリスク2:今までと違うやり方や考え方の探索

身体疾患でも『早期発見・早期治療』が医学的対処の原則であるように、心理的問題でも『その状況を放置し続ければより状況(体調)が悪くなる』ことが予測される時には、『早期の気づき・早期のケアと行動』が大切になってくると言える。虫歯の治療が痛くて怖いからといって、歯科医の治療を受けなければ、虫歯は放置して自然治癒することはないので、数ヵ月後、数年後にはより虫歯のレベルが進行してより痛い治療を受けなければならなかったり、最悪のケースでは歯そのものを失ってしまう危険もある。

各種の心理的問題や対人関係の悩み、社会適応の困難にも類似した問題を指摘できるケースがあり、『受け容れたくない現実・認めたくない過去の記憶・悪い予感がする人間関係の変化』を抑圧(否認)することによって、最も避けたいと思っていた最悪の結果に直面するリスクが出てくる。

典型的な問題としては、トラウマによる不適応感(フラッシュバック)を無視しているうちにますます社会生活を送ることが苦痛になってきたり、夫婦生活・恋愛関係のすれ違い(無理解)が増えているのにそれを否認しているうちに別れることになったり、会社の仕事で耐えられないストレス・不満があるのにそれを抑圧することで精神疾患を発症したりといったことが考えられる。

苦痛なことや嫌なことから逃げていても、それなりに上手く逃げおおせられる種類の問題も確かにあるが、逃げていると余計に厄介な心理的問題や現実生活上の好ましくない変化(損失)を蒙るような問題もある。その見極めがある程度適切にできるかできないかによって、問題状況の深刻さや心理的な苦痛の大きさには違いがでてくる。

人間は『何となくこのままでは悪い方向に向かうのではないか・この辺で真剣に問題に向き合って対処しないとちょっと大変なことになるぞ』という危険の察知・予測能力を持っているものだが、無意識的な『抑圧・否認・合理化(もっともらしい理由探し)』などの防衛機制によってその危険の察知・予測を自ら押さえ込んでしまう弱さを誰もが持っている。

配偶者(恋人)の態度に何となく冷たくそっけない反応やいつもと違う様子があったとしても、率直にその冷たさや無関心さを指摘することによって、その悲観的な予測が現実に変わるのではないかという恐れを抱く。会社の経営が上手くいかなくなりつつある時にも、その経営の悪化を直視したり言葉にすることによって、そのネガティブな予測が現実になってしまう不安に駆られてしまう。

そういった現実状況から目を背ける抑圧・否認が長引くと、『自分の信念・プライド』とも癒着してしまって、自分の気持ちや考えを認めたい気持ちもあるのに認められないという苦痛な葛藤に陥り、精神状態が相当に不安定になってしまうこともあるだろう。つまり、自分が一度下した状況判断や相手にした発言にこだわり、自分のプライドを傷つけないために引くに引けない泥沼状態に陥って、最終的に望まない結果を得てしまうということである。

問題解決志向のカウンセリングでは、できるだけ早い段階で自分のためになる現実認識を高めて、一定の苦痛や恐怖を経験しながらも『今・ここの地点から選択できる最善の認知・行動』につなげていくことが課題になる。ブリーフセラピー(短期療法)では自分や現実をより良い方向に変えていくために様々な質問方法が開発されているが、その中でも最もクリティカルな質問の一つは『あなたが今、現実をそのように認識することは、問題(悩み)の解決につながりそうですか?』『その現実認識に基づいて、カウンセリングの目的を達成するためにどんな行動ができそうですか?』というものである。

人間は『自分の現実認識』に基づいて、これからの行動や判断を選択することになるので、その人がどういった現実認識を持っているのかということは、問題や悩みの解決に向かえるかどうかということにも深く関係してくる。より自分の希望や目的に見合った現実認識(自己認識を含め)を、『気づき・自己洞察・質問技法』によって導き出していくことが、カウンセリングのプロセスではとても重要になってくる。

ブリーフセラピー(短期療法)における現実認識とは、問題解決(悩みの緩和)につながる『変化の前提・きっかけ』でもある。支持的技法に分類されるカール・ロジャーズのクライエント中心療法では『ありのままの自分』を自己受容することに力点を置いていて、『自分をより良い方向に変える』という発想はそれほど強くない。

クライエント中心療法の基礎理論として『自己理論』というものがあり、人間は生来的に成長・健康・回復へと向かう『実現傾向』を持っているとされるので、カウンセラーが共感的な理解と無条件の肯定的受容を示すことでその実現傾向が開発されると考えるからである。

クライエント中心療法(来談者中心療法)は傷ついた心理や自信を失ったクライアントを支持的にケアするという効果に優れているが、ブリーフセラピーでは『クライアントの問題・悩みの解決』をどのような質問や方法で支援していくかというプラグマティックな視点を重視することになる。クライエント中心療法が示唆する『あなたは今のままでも十分な価値と能力がありますよ』というのは、あらゆるカウンセリングのセッションの前提として欠かすことのできない人間観であるが、ブリーフセラピーでは『人格的価値』とは別に『認知・行動の有効性(実利性)』を問いかけていく。

問題解決志向のカウンセリングの代表としてブリーフセラピーを取り上げているが、問題解決志向の行動変容のセオリーとして“do difference(今までと違ったやり方をしてみよう)"ということがある。ありのままの自分を自己受容して自分で自分を大切にできるようになった後には、『今までと同じ考え方・行動パターンのままでもクライアントの問題・悩みが解決するか?』という自己変容(認知行動の変容)の必要性が問われることになる。

ブリーフセラピーの行動変容のセオリーはシンプルであり、『今までと同じ認知・行動パターンで、自分が望んでいる結果や関係を手に入れられるかどうか』という基準に基づいている。今までと同じやり方で望んでいる結果(関係・利益)を手に入れられそうにないのであれば、“do difference(今までと違ったやり方をしてみよう)"の方向に自分を変えたほうが問題・悩みの改善につながりやすいということである。

人間は『習慣の動物』としての側面を持つので、基本的には『今までの認知・行動パターン』を変えたくないという保守傾向を示しやすいが、『今までの認知・行動パターン』を取り続けることによって“得られるもの”と“失うもの”を比較衡量する話し合いを進めていく。『新しい認知・行動パターン』に短期間で自分を変化させることは難しいが、自分が求めている結果や目標をイメージしながら、その目標(結果)に到達するための『具体的なステップ』をやりやすい課題から確認していくことが大切になってくる。










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