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zoom RSS “社会保障番号(SSN)”が持つ有用性と問題点:社会保障の負担・給付の合理化とパターナリズム

<<   作成日時 : 2009/09/14 07:32   >>

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国民の社会保障や納税に関わる『個人情報』を一元的に管理しようとする『国民総背番号制の構想』は幾度も挫折を強いられてきたが、ここ数年は『社会保障番号(SSN:ソーシャル・セキュリティ・ナンバー)』を導入しようという議論が強まっている。公的年金と健康保険に関わる情報を統合した『社会保障カード(SSC:Social Security Card)』の実験的導入が2011年にも始まるとされているが、現在のところ、国民にユニークな『社会保障番号』を割り当てるというところまでは決定されていない。

2011年以降に社会保障カードを導入していくことは既定路線に近いが、それらの情報をユニークな社会保障番号で一元化するか否かについては、『行政のデータベースや情報管理の安全性・個人情報にかかるプライバシー権・人生を包摂する管理社会を拒否する古典的自由主義(消極的自由)』などの観点から議論がある。

行政による個人情報の一元的管理の“利便性・実益性”“問題点・抵抗感”を踏まえながら、社会保障番号(国民総番号制)の利点と不安がどういった点にあるのかを考えてみたい。

先日の読売社説では、社会保障番号導入の必要性を以下のように語っている。


社会保障番号 超党派で協議し導入を急げ(9月12日付・読売社説)

中でも着手すべきは、社会保障番号の導入だ。国民の所得を正確に把握し、社会保障の負担と給付を明確にできる。民主党は政権公約(マニフェスト)で「税と社会保障制度共通の番号制度を導入する」とはっきり掲げた。

その理由を、同党政策集は「真に支援の必要な人を政府が的確に把握し、その人に合った必要な支援を適時・適切に提供すると同時に、不要あるいは過度な社会保障の給付を回避するために不可欠」と説明している。実に明快だ。

民主、社民、国民新の3党が連立政権合意に盛り込んだ「所得比例年金」の創設も、所得を確実に把握できる番号制度の導入が前提である。社民党は「公平番号」という呼称まで提案している。


社会保障カードの導入の前に、日本では市町村の住民基本台帳ネットワークの個人情報と紐づけられた『住民基本台帳カード(住基カード)』というものが2003年8月に発行されているが、この住基カードはほとんど普及していない。行政主導の住民基本台帳カードが普及していない最大の理由は、『発行申請して所持する必要性・メリット』が乏しいからであり、大半の国民は運転免許証か健康保険証によって身分証明を出来るからである。

住基カードの持つ機能は『公的な身分証明・転出入手続きの簡素化・特定の行政サービスとの連携』に留まるものであり、住基カードが無ければ日常生活に困るという性質のものではないが、運転免許証や社会保険がない人にとっては公的な身分証明書として利用しやすいというメリットもある。

自販機でタバコを購入するための“taspo(タスポ)”というICカードも余り普及していないが、行政機関や各種法人などに『個人情報・購買や提示などの行動履歴・肖像(自分の顔写真)』を管理されることに対する一定の抵抗感というものも考えられる。

“必要不可欠”でなければこの種の身分証明を含むICカードを持ちたくないという人はいるが、社会保障カードは大多数の人が必要と考える『社会保険全般(公的年金・健康保険・介護保険)の情報』を収納しているので、このカードが発行されれば原則として『カードを持たないという選択』をすることはできない。そのため、社会保障カードに社会保障番号を割り当てるということは、個人が持つか持たないかを選択できる住基カードやtaspoとは大きくその性格が異なる。

2011年に導入予定の社会保障カードには『年金手帳・健康保険証(レセプトの受診記録)・介護保険証の情報』が統合される予定だが、すべての個人情報を一元化して紐づける『社会保障番号(SSN:Social Security Number)』の導入は現段階ではしないということになっている。

しかし、個人に割り当てられる社会保障番号(SSN)に期待される機能としては、『社会保障の基礎情報・所得の補足(正確な徴税)・身分証明』などがあり、これらの情報を一元化することで行政の事務処理コストを削減して、公平な社会保障の給付を実現できるとされている。社会保障番号は一般的に『納税者番号』としての機能も果たすので、一般国民にとっては『社会保障・健康保険(医療履歴)に関わる情報』『所得−徴税に関わる情報』を国家(行政機構)に一元的に委任することになる。

社会保障番号は『福祉国家(負担と給付を完全に把握する社会保障制度)』を実現する上で、非常に利便性と有用性の高いシステムであるが、すべての社会保険に関わる個人情報を一元管理することには『プライバシー情報の漏洩・違法な閲覧や情報改竄(公務員の倫理観)・ナンバーの不正利用(なりすましによる犯罪)』などのセキュリティ上の不安点が出てくる。社会保障カードにユニークな社会保障番号を登録するのであれば、万全のセキュリティ対策が必要となるが、そこに『生体認証機能』などを盛り込むとセキュリティレベルは高まるが、一方で個人が強く管理されているという感覚を与える可能性もある。

社会保障番号(納税者番号)には、非会社員・公務員の個人(自営業者・自由業者)の所得を把握しやすくなるメリットもあるとされるが、金融機関の預金通帳と納税者番号を直接的に紐づけるようなシステムになると、『個人の所有権(金銭管理)』『国家の徴税権』との距離が余りに近くなり過ぎてしまうように思う。

不正な脱税行為や過小申告は然るべき法的ペナルティが加えられるべきだが、税務署・行政機関が(脱税行為を疑うに足る客観的な根拠なく)いつでも個人の金融情報を裁量で確認できるというところまで行くと、さすがに個人の管理の行き過ぎでありプライバシー権の侵害の問題が出てくる。個人の所得を確実に補足するために『納税者番号』は有効ではあるが、実質的には毎年の納税額をレコードする納税者番号だけがあっても、現状の申告納税と変わらないのではないかという疑問もある。

そのため、納税者番号と徴税率の向上を直接的に結び付けている政治家・識者などは、『税務署の金融機関(個人の預金通帳)への情報開示権限』を常時働かせられるようにするのではないかとも推測されるのである。脱税をしていなければいつでも預金通帳の残高などの情報を見られても構わないという人もいるかもしれないが、特別に不正行為をしていない人でも、(税務調査などとは無関係に)随時的に自分の通帳の情報を閲覧されても構わないと考えている人はやはり少ないだろう。合法的な目的の外にある個人の金融情報閲覧の可能性も含めて、プライバシーやセキュリティ、公務員の倫理観の問題は依然として残るからである。

『社会保障番号』による個人情報の一元的管理は、繁華街・住宅街・街路に設置される24時間稼動の『監視カメラ』と同じく、パターナリスティック(後見主義的)な管理社会への適応性という視点を強く内在している。社会保障番号も監視カメラも、『悪いことをしていなければ安心・安全のために常時管理されても構わない』という秩序志向の人にとっては何の抵抗もない社会の安全装置に過ぎないが、『一定のリスクがあっても個人の自由権(自律性)やプライバシーの領域を最大限に確保したい』という自由志向の人にとっては抵抗が大きな社会の管理装置として解釈されることになる。

揺りかごから墓場まで『個人単位の負担に対する給付』を保障するような福祉国家を志向するのであれば、社会保障番号の導入は不可避であるし、民主党の掲げる社会保障政策が『直接的な個人給付(子ども手当てなど)』であることから社会保障番号を取り入れる動機づけは十分に高いと言える。個人の経済的・医療的な履歴情報を一元的にトレースできる『システマティックな管理社会』が整備されていくことで、『個人の生存・生活の最低保障』を確保しやすくなるメリットは大きく、パターナリスティックな社会保障・防犯装置の重要性が増していくにつれて、社会保障番号の導入は不可避になってくる。

国民個人の人生全体を、社会保障番号(ユニークID)と結び付けられた情報管理システムで包み込むような『管理社会・セキュリティ国家』は、厚生的な近代国家が持つ『生権力(国民の生存と健康を保障するシステムで管理する非威圧的権力)』が行き着くおよそ必然な社会形態であるように思う。現代の国家と個人は、民族・宗教といったナショナルな要素を超えて、社会保障の負担・給付といったエコノミックな要素によって密接不可分に結びつき、国家の個人生活(家計・労働)に対する強い情報管理の多くは国民保護の目的で正当化されていく。

人生に固有の番号で管理されることへの心情的な抵抗感や消極的自由主義(管理的干渉の拒絶)よりも、番号で管理されることによる実際的な社会保障のメリットのほうが上回る可能性のほうが高いとすれば、導入時期の時間差はあるとしても社会保障番号(国民固有のID)が導入される流れには抗いにくいのではないだろうか。










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