“破局的・悲観的な認知”による精神症状の形成と認知療法に基づく“機能的な認知”の獲得

アーロン・ベックが開発した認知療法(cognitive therapy)では、うつ病(気分障害)の気分の落ち込みや意欲の低下の原因を『非機能的な認知(認知の歪み)』に求めて、この非機能的な認知を現実的に反駁することで『適応的な認知』を獲得しようとします。

社会不安障害(対人恐怖症)やパニック障害、強迫性障害などでも、精神症状に『非機能的な認知(認知の歪み)』が何らかの形で関係していることが多いのですが、『不安感・パニック発作・強迫観念』といった精神症状は、ネガティブに“最悪の結果”を予測する『破局的な認知』によって発生しやすくなります。

『電車やバスに乗ったら再びパニック発作が起きるのではないか・大勢の人がいる場所で動悸や息苦しさの症状が起こるのではないか』というパニック障害の“予期不安”
も、『パニック発作が起こったら死んでしまうかもしれない・大勢の人の前で自分の行動を制御できずに恥ずかしい思いをするだろう』という“破局的な認知”の影響を受けています。

パニック障害では、『呼吸の乱れ・心臓のドキドキ・発汗量の増加』などちょっとした身体感覚の異常に注意を傾けやすくなるのですが、その身体的な違和感に『破局的な認知』を働かせることで予期不安が強まったりパニック症状が誘発されたりすることがあります。バーロウ(Barlow)の『誤った警報理論』やクラーク(Clark)の『認知理論』では、身体感覚の違和感を『パニック発作を告げるアラーム(事実と異なる破局的なアラーム)』と受け取ってしまうことで、パニック発作が慢性化しやすくなることが強調されています。

破局的な認知というのは、現実的な根拠や具体的な証拠が無いにも関わらず、“最悪の結果・一番嫌なケース”を予測する物事の捉え方であり、必要以上に不安感(緊張感)を強めたり行動意欲を低下させたりする影響があるのです。パニック発作では特に、『身体的な死の恐怖・精神的な発狂の恐怖・社会的な恥辱の恐怖』という3つの破局的な認知が見られやすいという特徴があります。パニック障害では、破局的な認知の歪みに気づいて修正していくことや実際に不安を感じる場面に段階的に直面していく行動療法によって、『予期不安・パニック発作』の苦痛な症状を抑制しやすくなります。

パニック発作は生命を失うような致命的な発作ではないという正しい知識の確認を行ったり、動悸やめまい、呼吸困難で苦しい思いをしても今まで発狂したことは無かったという客観的な事実について話し合ったりすることで、破局的な認知を適応的なものに修正する証拠を集めていくことができます。人前でパニック発作に襲われることは恥ずかしいという認知についても、『もし自分が体調の悪そうな人を見たらどのように感じますか?混乱している人を批判的に捉えて見下すようなことがありますか?』という立場を置き換えた質問によって、過剰な羞恥心や自己批判を和らげていきます。

社会不安障害(対人恐怖症)の不安症状にも、『他人に話しかけたら冷淡に拒絶されるのではないか・人前で話すと緊張で何も話せなくなって恥をかくのではないか』という破局的な認知が関係しています。この社会不安障害の破局的な認知も、過去の幾つかの失敗体験に基づいていることがあるとしても、『他人から必ず否定や批判をされる・他人は自分のことを快く思っていない』という認知(考え方)は、客観的で現実的な根拠に支えられているわけではありません。社会不安障害(対人恐怖症)では『恥辱感・自尊心の傷つき・自信の低下』にまつわる破局的な認知が見られやすいのですが、その認知の主観的な根拠になっているのは『ネガティブな読心術(相手の内面・感情の恣意的な推測)』に過ぎないことが多いのです。

『ネガティブな読心術』をするようになった原点には、『愛情不足・虐待(育児放棄)・孤立・いじめ(所属集団からの排除)』など他者への不信感・警戒心を植え付けるトラウマ体験が関係していることも少なくないのですが、カウンセリングやロールプレイングでも良いので、自分に対して支持的で共感的な相手と『コミュニケーションしてみる経験(自分の言葉や情感を受け容れてもらえる経験)』がトラウマの苦痛や悪影響の緩和にも役立ちます。

現実社会では確かに全面的に安心して信頼できる相手ばかりではないのですが、『ネガティブな読心術』で一方的に相手の内面(気持ち)を推測してしまうと、あらゆる他者が自分を嫌っているように見えてしまい、良い出会いやコミュニケーションの機会を喪失するという対人関係面での不利益が大きくなります。

対人的なトラウマ体験や感情的な疎外体験によって、『他人に傷つけられて惨めな思いをするくらいだったら、初めから他人と一切関わらないほうが良い』という非機能的な認知が強まりやすくなりますが、社会的場面(対人状況)を回避して不安を和らげる行動パターンを身に付けると、社会不安障害の症状の改善はかなり困難になってきます。

『自分に対する否定的な反応』を想像してずっと他人と関わらなければ、対人不安やストレスを一時的に低下させることができるかもしれませんが、社会生活や職業活動に起こってくる支障を解決することが難しくなるわけです。しかし、『ネガティブな読心術』に囚われずに、対人不安を押し切って少しずつ他者に話しかけていくことで、破局的な認知を修正できるだけの『現実的・経験的な根拠』が少しずつ集まってきます。










■関連URI
『認知・気分・行動・環境・生理』の相互作用を前提とする認知療法

認知療法による非合理的思考や悲観的な思い込みの改善:ネガティブな自己アイデンティティの問題

J.バビンスキーの“無意識的な観念”の作用と認知療法の“認知の歪み”の変容:抑圧による病理形成

認知行動療法で前向きに生きるモチベーションを高める要素:“セルフ・エフィカシー”と“原因帰属”

■書籍紹介

〈増補改訂 第2版〉いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法
星和書店
デビッド・D.バーンズ

ユーザレビュー:
命の本もう10年も前 ...
本質的なものまでは覆 ...
憂鬱に悩まされている ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのトラックバック