第45回衆院総選挙の感想:民主党が308議席獲得で鳩山政権が誕生、自民・公明は大幅に議席減らす

30日に投開票が行われた衆院選の結果は、戦後最多の議席数“308”を獲得した民主党の圧倒的勝利となり、自民党・公明党は歴史的惨敗を喫することになった。選挙前の『マニフェスト合戦・政権選択』から民主党に吹くメディアと世論の追い風は非常に強かったので、自公連立政権の劣勢は明らかだったものの、ここまで極端な大差が付いたのは意外だった。新聞各紙は選挙前の世論調査で民主の300議席超えを予測していたのが、実際に308議席まで単独政党で獲得してしまうと、議会運営が民主党のフリーハンドになり過ぎる嫌いはやはりあるだろう。

それにしても今回の民主党の勢力の急拡大は異常なものであり、比例代表の名簿に掲載している候補者の不足が起こり、3議席を自民・公明に譲るような事態まで起こっている。308議席を獲得した民主党の議席の大幅な増加(+193)に対して、自民党は119議席(-181)、公明党は21議席(-10)と大きく議席を減らして野党へと転落することになったが、自民の持つ保守・農村・自営の地盤、公明の持つ創価学会の地盤が今回の衆院選では組織票として有効に機能しなかったようだ。

2005年の『郵政民営化』を争点とした衆院選では自民党が大勝して、自民(300)・公明(31)で衆議院の3分の2以上の議席を獲得して、法案を確実に通過させる強い政権勢力を築いていたが、今回の『政権選択・政権交代』に焦点が合わせられた衆院選では民主党と自民党の立場が完全に入れ替わることになった。

野党だった民主・社民・国民・共産・日本などの勢力は“340”にまで拡大し、与党だった自民・公明の勢力は“140”にまで縮小した。実際に民主党が連立政権を組むとしているのは、『民主(308)・社民(7)・国民新党(3)・新党日本(1=田中康夫)』なので“計319議席”ということになるが、これでも実質的に衆院議員の“3分の2(320)”を擁することになり、参院で法案が否決されても自公政権と同じく『衆院の再可決』で押し切ることが可能な大勢力となっている。

政権交代の期待の高まりや郵政選挙への不満の高まりによって、自民支持層の一部が民主党に鞍替えしたことも影響している。また、元々は庶民よりの福祉政策をアピールすることの多かった公明党も、『自公政権の福祉政策,景気・雇用対策』への不満によって、創価学会員の固定票を十分に投票につなげられなかったのかもしれない。公明党は小選挙区で全敗しており、太田昭宏代表、北側一雄幹事長、冬柴鉄三前幹事長といった閣僚経験者でも小選挙区で議席を得ることは出来なかった。

自民党も首相・閣僚を経験しているような古株の大物議員が相次いで落選しており、海部俊樹元首相、与謝野馨財務相、伊吹文明元幹事長、笹川尭総務会長、山崎拓元幹事長、中川昭一前財務相、久間章生前防衛相、中山太郎元外相、島村宜伸元農水相らが小選挙区で落選している。伊吹氏や与謝野氏、小池百合子氏などは比例代表で復活当選しているようだが、今回の衆院選では高齢の閣僚経験者たちが多く落選していることから、政党の対立を超えた世代交替を推進したという副次的効果も指摘できるように思う。

特に民主党の候補者では、20代~30代の若さで『地盤・看板・カバン』と無関係に当選した議員も多く、議員の平均年齢をかなり引き下げているようだが、こういった新人の若手議員が能力を伸張させながら『働ける場』を多く準備することができるかが民主党執行部に問われる。

浮動的な世論の流れに乗って1回だけ当選する『新人議員』を生み出すことは易しいが、複数回の当選を繰り返して政党の将来を担うだけの政治力・判断力がある『中堅以上の政治家』を多く育成していくことは困難である。民主党が真の『責任政党』として持続的に国民の信認を得ていくためには、『新人議員の得意分野を持つ中堅議員への育成』が欠かせないし、民主党がマニフェストに掲げる『政治主導・脱官僚政治』を実現するためには、『実効力・交渉力・専門知識・人的ネットワーク』のある議員をできるだけ多く育成していかなければならない。

『政権交代の風』を最大限に活用しようとした小沢一郎代表代行の思惑を受けた『小沢チルドレン』に過ぎないという見方もあるが、民主党には若い議員の才能や力量を伸ばすような『新人議員の教育・訓練』にも責任を持って当たって欲しいと思う。ただ議会における議員の数を増やすためだけに、何らかのアピールポイントや長所を持った若手候補者を漫然と集めたということになると、『小泉チルドレン』の没落の二の轍を踏むことになるだろう。

小泉純一郎元首相が主導した“郵政選挙”で大量に当選した『小泉チルドレン』は、その多くが今回の総選挙で姿を消すことになったが、小泉チルドレンの議員たちは小泉純一郎のカリスマ的指導力とは別の『自分独自の議員としての必要性・有能性』を十分に築き上げることができなかった。そこに今回の選挙における小泉チルドレンたちの敗退の要因があるし、麻生太郎首相をはじめとする『ポスト小泉』の自民党の総裁たちも、小泉元首相のように『国民の政治に対するニーズ・不満点』を的確に探り当てることが出来なかった。

(途中解散が無いと仮定して)4年後に今回当選した『小沢チルドレン』と呼ばれているような議員がどれくらい次の選挙で生き残れるかも、民主党の今後の政権運営を評価する一つの指標になると思う。今回の衆院選における『民主党の大勝』は、民主党のマニフェストや政治改革の理念が直接的に支持されたものではなく、鳩山由紀夫代表のリーダーシップや政治能力が評価されたわけでもないと思うが、『戦後の自民党中心の政権に対する不満・不信』が臨界に達したことでオルタナティブとしての民主党が支持されることになったのだろう。

1993年にも細川護煕元首相の『細川政権』で短期的な政権交代が実現したが、この時は小沢一郎が中心となって取りまとめたバラバラの政治理念や政策方針を持つ野党8党の連合政権であり、そもそも細川政権を支えた新生党・新党さきがけ・自由改革連合などは『自民党の内部対立』から分離独立してきた政党だった。

細川政権による政権交代は、正面勝負の選挙で勝ち取った政権交代とは程遠い不安定な政権基盤の上に成り立ったものであり、マニフェスト選択や二大政党制といった性格を持つものでもなかった。今回の衆院選では、民主党が単独で過半数を大きく上回る議席を獲得しており、戦後初めての『本格的な政権交代』と言っても良いと思うが、民主党が有権者に選択された理由は『自民党以外の政権であればどこでも良い』という消極的なものだったようにも感じる。

今までの『自公政権』のままでは、政治経済構造も国民生活も官の既得権の解体も良い方向に変化することが望みがたいということで、『国民の政権交代への気運』が高まったわけだが、民主党政権の誕生は政権交代の予行練習といった趣きもあり、実際に『約束したマニフェストの実施』『官僚政治の解体(政治主導の予算と法案の作成)』で躓けば民主党に対する国民の信認は短期で揺らぐ恐れが強い。

民主党の鳩山代表は、政権交代が実現した勝利の余韻を味わう暇もなく、『官僚政治の大きな枠組みの変革・マニフェストの実現(景気雇用対策と生活支援)・ゼロベースからの予算の組み替え・外交方針や安全保障政策の確立』に向けた本当の厳しい戦いにチャレンジしていかなければならない。選挙前には、民主党に政権担当能力や責任政党としての実力があるか否かが色々と疑問視されていたが、300議席超の『絶対安定多数』を有権者に託された民主党は、『マニフェストにある政策』や『政治主導の政治改革』ができない言い訳をすることが難しい立場に置かれることになった。

民主党が構想する『国家理念・経済政策・社会保障・国民生活・教育政策・安全保障・少子化対策』などのグランドデザインの詳細は未だにその全貌を把握することが難しいのだが、民主党に政権を任せてくれれば日本の政治・経済を改革して国民生活を再建すると言っていた民主党幹部の言葉がどこまで本当なのか、官僚の抵抗を抑えて政権運営の手腕を発揮することができるのかがここから問われることになるのだろう。

今回の選挙結果を見て懸念されることとしては、『民主党の政権運営能力・生活支援政策と財政のバランス』のこともあるが、自民党が大敗して議会での影響力を大きく落としたことにより『議席・実力が伯仲する二大政党制』がまたもや遠ざかってしまったということもある。国民各層の『民意・利害』が十分に反映された議会制民主主義が機能するためには、『議会における質問・議論の成り行き』によって法案の議決が左右されるような緊張感が求められるのではないだろうか。

自民党は今回の歴史的大敗の原因を謙虚に分析して、次の衆院選では民主党とは異なる『自民党独自の存在意義・政策ビジョン・思想的スタンス』を確立して対立軸を明確にする必要性に迫られている。民主党との対立軸としては、『政治的自由(個人の言動や表現の自由)』を強く保障するか、『経済的自由(規制緩和や減税路線)』を打ち出すか、『国家・民族・歴史などナショナルな国民アイデンティティ』を強調するかといったことが考えられる。

自民党が本来的に保守主義政党であることを考慮すると『小さな政府と財政再建・国民アイデンティティと教育・市場経済の自由度』といった要素が民主党との差異を浮き立たせられるものになるのではないかと思う。現状では、国民世論の支持は社会保障を充実させる福祉国家に傾いているようにも感じるが、国家財政の悪化や公共サービスのレベルに対しての重税感などが出てくれば、中長期的スパンでは『保守的な対立軸(自由主義経済・成長戦略の重視・社会保障の抑制・伝統文化や民族性の強調)』も一定の集票力を持つ可能性はあるだろう。

いつも与党が圧倒的多数を抱えていて、選挙で負けた野党が弱体になり過ぎるのでは、『議会の形式化・偏った民意の反映・マイノリティの言説の無視』といった問題が出てくる恐れがあるし、弱体化し過ぎた野党が二大政党制の一翼を担えず長期政権の腐敗・情報の囲い込みなどが起こりやすくなる。2005年の郵政選挙では『自民党』が大勝して、2009年の政権選択選挙では『民主党』が大勝したわけだが、その時々の社会の風潮や世論の空気、マスメディアの予測、景気の高低に『有権者の投票行動』が影響されやすいということは確かにある。

特に、世論を誘導する一定の力を有する『マスメディアの選挙前の予測・評論』には、より一層の公正性や客観性が求められるのだが、有権者が自分のスタンス(政治についての考え方・政策上の利害)と照らし合わせながら、各政党の『政策・改革の対立点』や『思想・理念の差異』を見極めて投票することが望ましい。民主党の政権がどのような政治のビジョンを呈示して、政策を実施していくのかを見守りたいと思うが、極端に一つの政党勢力や方向性に偏り過ぎないバランス感覚のある政党政治の成熟にも今後期待したい。










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