『ネトゲ廃人・インターネット依存症』の心理的要因とバーチャル・コミュニケーションのはまり込みやすさ

ネットゲームの依存性の強さについてよく話題になっていますが、インターネットが普及する以前から『ゲーム依存症・ゲーム中毒』という状態はあったものの、ゲームにはまり込んでやめられなくなる依存性のレベルでは、ネットゲーム(オンラインゲーム)のほうが圧倒的に高いと言えます。

ITmediaの記事で、ネットゲームにはまり込み過ぎて現実の社会生活や人間関係が破綻した事例が挙げられていたので、『ネトゲ廃人』の依存性の形成や心理的要因について少し考えてみようと思います。


増える「ネトゲ廃人」 退学、退社、離婚──それでも「やめられない」

いわゆる「ネトゲ廃人」になり、昼夜逆転の生活を続けた揚げ句、退学や退社、離婚に至る人もいる。最近は小学生の参加が増え、金銭や時間を管理できなくなることに懸念の声が上がっている。

インターネットを介して多くの人が一つのゲームに参加する「オンラインゲーム」(ネットゲーム)に長時間のめり込み、健全な生活が送れなくなる人が増えている。「ネトゲ廃人」。ネット上ではこんなショッキングな名前で呼ばれ、昼夜逆転の生活を続けた揚げ句、退学や退社、離婚に至る人もいる。最近は小学生の参加が増え、金銭や時間を管理できなくなることに懸念の声が上がっている。


ゲームにはRPGやシミュレーション、アクション、パズルなど色々なジャンルがありますが、『仮想性(物語性)・刺激性・報酬性・技巧性・無時間性』などが依存性を形成する要因になっていると考えられます。以下は、オンラインゲームではない一般的なゲームにも共通する『依存性・嗜癖性』と親和性を持つ強化因子です。

仮想性・物語性……RPGに代表されるゲームでは、現実世界の条件・制約と無関係な『仮想の世界』で物語的な冒険や人間ドラマを楽しく経験することができる。

刺激性……美しくて魅力のある『CG(コンピュータ・グラフィックス)の視覚刺激』を得たり、シューティングやアクションでは『敵を倒したり攻撃を回避したりする感覚刺激』を楽しむことができる。自分のボタン操作に対する『仮想世界・キャラクターの即時的な反応』が快の刺激となる。

報酬性……プレイすればするほど、RPGのストーリーが進行して新しい課題が与えられるなど『報酬性(正の強化)』に対する遅延・欠如が少ない。プレイして上手くなればなるほど、高い得点を得られたり対戦相手に勝てたり、レアなアイテムを手に入れられたりする報酬性もある。

技巧性……ゲーマーと呼ばれるようなレベルになると、対戦ゲームやコンプリート(ゲーム内世界の完全攻略)において、一般のゲーム愛好者よりも高い技巧性(熟練)を獲得する。その達成感や優越感が『正の強化(行動を繰り返させる刺激)』となる。

無時間性……インターネットにも共通するがゲーム世界を流れる時間には、基本的に区切りがない。一つのゲームをクリアしても、『次のゲーム』に取り掛かれば終わりがなく、最近のオンラインゲームではクリアという概念さえなくなっているものが殆どである。


上の部分で、昔からあるタイプのオフラインのゲームよりもインターネットにつなげてプレイするネットゲーム(オンラインゲーム)のほうが、一般にやめられなくなる依存性が強いという話をしましたが、その要因は『仮想性と現実性の想像的融合』『無時間性の強化』にあると考えて良いと思います。

仮想性と現実性の想像的融合というと表現が固いですが、簡単に言えば、『ゲームの向こう側に生きている他人がいること』をリアルに想像してゲームをするということであり、『対人コミュニケーションの要素』がゲームに深く入り込んでいるということですね。

インターネットも依存性が強化されやすいメディアですが、インターネットに耽溺してやめられない心理にも『ディスプレイの向こう側に生きている他人がいること』『ネット空間の無時間性(アクセスできない時間も無ければ人が全くいないという状態も無い)』が関係しています。昔ながらの一人でテレビ画面に向かって黙々とプレイするゲームも、確かに一定の依存性があるのですが、そこには『他者との出会い(関係性)・他者とのコミュニケーション(チャット)』が絡んでこないため、ある意味では自分がやめようと思えばすぐにやめやすいという部分がありました。

インターネット依存症やネトゲ廃人といったレベルにまでなると、現実世界とバーチャル世界(ネトゲ世界)の比重・重要性が完全に逆転して、バーチャル世界のほうに『自分の時間と労力』の大半を注ぎ込むようになり、現実世界における最低限の通学や仕事、人間関係さえも手につかなくなってきます。

こういった現実世界とバーチャル世界の重みづけの『完全な逆転』がどうして起こってしまうのかと考えると、『バーチャル世界には何かを強制される義務や評価が無いので気楽』ということもありますが、それと合わせて『バーチャル世界の中にリアルと感じられる人間関係の魅力が持ち込まれている』ということも関係しているでしょう。

ネットゲームに極端にはまり込みやすい性格特性や心理状態を一義的に特定することはできませんが、基本的には『現実世界の諸活動・人間関係』から受け取る心理的報酬が小さいと感じている人や、現実社会や仕事・学校への適応が上手くいかなくなってフラストレーションが強まっている人がはまり込みやすいのではないかと思います。

現実的な生活や仕事、勉強が上手くいかずに『空虚感・無気力』が強まっていたり、リアルで親密な友人関係・家族関係を作れない時に『孤独感・疎外感』を感じていたりすると、ネットゲームに限らず仮想の物語世界やバーチャル・コミュニケーションへの依存性は高まりやすいでしょう。ネットゲームを含むウェブ・コミュニティで『匿名的な対人関係を築くコミュニケーションコスト』は、現実社会で『実名的な対人関係を築くコミュニケーションコスト』よりも格段に小さく、現実の人間関係と比べると関係を築くのも解消するのも容易であり、対人関係にまつわるストレスや不満も小さくなりやすいからです。

現実社会の集団は、会社にしても学校にしても地域社会にしても、『場(所属)と結びついた目的・利害を共有する集団』という特徴を持ち、そこには『好きな人・性格が合う人』もいれば『嫌いな人・性格が合わない人』もいます。しかし、『フラットな人間関係・同好の士の集まり』が容易に実現できるネトゲやインターネットでは、『好きな人・性格や話題が合う人』だけを集めてコミュニケーションしやすいことが依存性を強化します。

ネトゲのコミュニティ(パーティ)において『好きな人・自分と合う人』とだけコミュニケーションがしやすいことで、『承認・評価・共感・肯定』といった正のストローク(心理的報酬)を受け取りやすくなり、またすぐにプレイして知り合いに会いたい(話したい)という動機づけが促進されます。

特に、現実世界の対人コミュニケーションで、楽しく雑談する機会が減っていたり、承認欲求がほとんど満たされていなかったりすると、バーチャルなコミュニティや人間関係の居心地の良さが高まり、繰り返してプレイしたい依存性が強化されやすい状態になります。基本的に対人欲求や承認欲求には終わりがありませんから、現実的な仕事や学校などによって『終わりとなる区切り(今日はここまでのライン)』が引かれなければ、ネトゲのやり取りや会合にも終わりが見えにくいということになるのでしょう。

ネットゲーム(オンラインゲーム)の依存性は、ネトゲのプレイや他者とのコミュニケーション(出会い)に区切られた終わりがないという『無時間性』とも強く関係しています。ネットゲームの人間関係が、現実世界の対人関係以上にのめり込みやすい要因として、『現実的・物理的な時間の区切りが無い』というのはかなり大きいと思いますし、『知らない他人に気軽に話しかけやすい』という条件もコミュニケーション機会を増大させます。

一般的な現実の人間関係であれば、友人と楽しく遊んでいても日が暮れて遅い時間になったから『今日はそろそろ帰ろうか』ということになり、次の日に学校や仕事があれば必然的に一定の時間帯までにどんなに楽しくても『遊び・雑談』を切り上げなくてはいけません。身体的な疲労や眠気が強くなってきたりといった要因によっても『遊びの時間の終わり』の区切りをつけやすいということもありますし、お互いがある程度忙しく生活していれば『次に遊ぶ機会』についても曖昧になりやすい部分があります。ネトゲやインターネットでは、自分が意識して『今日はここまででおしまい』と決断してプレイ(アクセス)をやめなければ、そこにはおよそ『無限の他者(話す機会)と情報(興味の対象)』が365日24時間あるわけですから、終わりが無いということになります。

物理的に他人に会って話したり遊んだりするというのは意外に、会うまでに服装や身だしなみの準備をしたり、食事や移動にお金がかかったりといった『コミュニケーションコスト』が多くかかりますが、ネトゲでは食事の美味しさや対面コミュニケーションの刺激は得られなくても、寝巻きのままで顔も洗わずにプレイしても良いというようなコミュニケーションコストの低さがあります。実際の人間関係では、24時間ぶっ続けで他人と外で会って話すというのは難しいですが、ネトゲではただタイピングとプレイのボタン操作が出来れば良いので、ぼんやりした意識状態やルーズな身なりでもコミュニケーションを継続することが可能です。

そういった無時間性とコミュニケーションコストの低さによって、意識を失うほど体力の限界までゲームをしてしまうような依存症の問題が生まれやすくなるわけですが、ネトゲの空間には『ネトゲ廃人』に近いコアなプレイヤーが一定数いると推測されますので、『ネトゲのプレイ時間に関する常識感覚・現実不適応の危機感』が麻痺しやすいというのもあると思います。

一緒に話したりプレイしている仲間の中で『今日は18時間連続でやっている・3日眠らずにやっている』というような普通に考えれば異常な話が当たり前のように飛び交っていたり、どんな時間帯にアクセスしても大勢の人がプレイしていたりすれば、『自分だけが特別にはまり込んでいるわけではないんだ・自分以上に長時間プレイしている人が幾らでもいるから俺なんてまだ甘い』というような相対的な安心感や依存状態の自己正当化が起こることがあります。

何をもって病的な依存症とするかという基準は難しいですが、学校生活・仕事に大幅な支障がでていて現実的な活動や人間関係から完全に退却し、社会的・経済的な不利益が大きくなっていれば『ネトゲ依存症』であると判断できます。ネトゲがしたくて何回か学校やバイトを休むというレベルであればともかく、ネトゲのために現実的な学校生活や仕事、人間関係を完全に放棄してしまってネトゲの仮想空間に閉じこもるということであれば、本人にとっての不利益や弊害は相当に大きくなります。

そういった病的な状態が長期間続けば、精神的な依存だけではなくて、睡眠不足・過労状態によって『身体的な健康』にも大きな危険が及んでくると思われますが、ネットゲームの仮想物語やコミュニケーションから受け取る『心理的報酬』が小さくなるか飽きてくるかしないとなかなか本人の意志ではやめることは難しいでしょう。

ネトゲ依存にどっぷり浸かり込んでしまう人にも、『ゲームそのものにはまる人』『バーチャルな人間関係に依存する人』とが分かれてくるのでしょうが、バーチャルな人間関係にはまっていて、毎日ゲームの中で会って話すことが日課(心理的報酬)となっているような人の場合には、特に今すぐに急激にやめるというのは心理的抵抗が強いかもしれません。

そういったバーチャルなコミュニティや人間関係への依存性の問題では、本人にとってそれが急に断ち切ることのできない関係性なのであれば、依存症であることを自覚してもらう為の話し合いを粘り強く行って、『段階的にゲーム時間を減らす』『ゲーム内の人間関係に一定の区切りをつける』といった対処法になってくると思います。

『依存症の自覚』という面においては、やりたいことだけをやってやりたくないことは一切しないという『快楽原則への退行』を永遠に続けることはできないということを自覚することが重要であり、心身の健康や社会適応を阻害するレベルの『ネトゲを主とした生活リズム』は少しずつ改善していったほうが良いでしょう。最近のオンラインゲームは、アバターやアイテムなどでお金をかなり使わせられるものも多いようなので、ネトゲ依存による金銭的負担や経済的問題というのも大きくなっていますし、小中学生などの年代であれば不登校やひきこもりになるリスクと合わせて、『金銭感覚の麻痺・ゲームで使う金銭目的の非行』などの問題も心配な部分としてあります。

自分の『持続的な生活設計・社会活動(仕事や勉強)』のために必要な最低限のやるべきことができていて、明日の活動に差しさわりの無い範囲で、ネトゲに熱中する(自分の心身の限界や適切な時間配分を管理できる)というのであれば構わないと思いますが……ネトゲに依存しやすい『孤独感・虚無感・無意味感・対人不安・現実感の消失』のような精神的な問題がある場合には、現実的な対人関係や外的環境を調整したり、『時間の過ごし方』について適応的な認知の獲得をフォローすることにも効果があると思います。






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■書籍紹介

ネトゲ廃人
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