解決志向ブリーフ・セラピーにおける“心的リソース・前向きな可能性・例外の発見”を引き出す質問法

ブリーフ・セラピーの特徴について書きましたが、ブリーフ・セラピーの効果を生み出す作用機序は『悪循環の切断』『ユーティリティ(自己の活用性)』にあります。システム論に基づく悪循環というのは、苦痛な心理状態や不適応な状況にはまり込む『繰り返される性格行動パターン+対人関係の様式』のことであり、悪循環の問題は『自己と他者の相変わらずの反応』が定型的に繰り返されることで維持されています。

交流分析のエゴグラム(性格テスト)を用いると、自己と他者のコミュニケーションの形態・効果が理解しやすくなりますが、悪循環にはまり込みやすい典型的なコミュニケーション・パターンとして『CPによる命令・非難とACによる萎縮・不安』『NPによる保護・共感とFCによる責任の放棄・逸脱』などの組み合わせが想定されます。

子どもの不登校の問題でも、厳しく学校に行くように指導して叱責する『CP(批判的な親)』からの発言が、話を聴いてくれない親に対する不信感や過度の反発を招く『AC(適応的な子ども)の低下』を生み出して、甘やかさずに厳しく叱責する行動と学校に行かない(行けない)行動との定型的な悪循環が形成されることがあります。反対に、子どもに愛情深く接して共感的な対応を心がける『NP(保護的な親)』の自我状態が、自立心が乏しい依存的で逃避的な『AC(適応的な子ども)』の反応を固定化することもあり、悪循環を解消していくためには『今までの決まりきった反応とは少し違った反応』をしてみるというのが一つの方法になります。

単純に、今までのコミュニケーション・パターンと180度違う『極端な発言・行動』をすれば良いというわけではなく、『悪循環のシステム』に気づいた後に、『相手の自我機能が耐えられる範囲の変化』から始めて、少しずつ『変化の幅(解決志向でできることの範囲)』を広げていくというのが基本です。不適応を生み出しやすい自分と相手のお決まりのコミュニケーション・パターンには大きく分けて、『支配・批判‐従属・萎縮』『保護・寛容‐依存・逃避』の2つがあり、『相手に対する干渉(働きかけ)の強度・頻度』によって様々な反応のパターンに分化していきます。

厳格な規範意識を持っていて、相手に対して批判的・指示的な態度を取り過ぎる人は、少し柔らかい対応で共感的な言動ができるように意識していき、寛容な共感意識を持っていて、相手に対して過保護・甘やかしの態度を取り過ぎる人は、少し厳しめの対応をして指導的な言動ができるように工夫をすると、『悪循環のパターン』に変化の兆しが見えてくることがあります。

システム論(円環的因果論)に基づくブリーフ・セラピーや家族療法の特徴の一つは、個人間の相互作用を重視するので、誰か一人だけが悪いという『悪者探し・原因の決め付け』を慎重に排除するということであり、カウンセリングの話題の焦点も『悪者探し・問題探し・自分の短所や欠点』から段階的に遠ざかっていく傾向があります。一般的なカウンセリングでは、『クライアントの悩み・問題・悪い要因』に話題の焦点を合わせて『原因の探求・苦悩への丁寧な傾聴』が行われやすいのですが、ブリーフ・セラピーでは解決志向ということもあって『クライアントの例外的な利点・長所・楽しい時間』に話題の焦点を合わせて『解決法の発見・構築』をバックアップしていこうとします。

ユーティリティを向上させて悪循環を断ち切り、主訴としての問題を解決するということには、『問題が綺麗に無くなるというレベル』『問題に振り回されなくなるというレベル』の二つがあります。人間の人生や環境の変化には何らかの『悩み・問題・不安・不快』が絶えないというのは一面の真理であり、『一つの問題』が根本的に解決されたとしても、また新たな問題が立ち上がってくることは少なくないと思います。

その為、ブリーフ・セラピーでは『問題によって無闇に振り回されない・問題にその都度対処することができるというレベル』『解決法の発見・構築』と考えられる傾向があります。今までの人生や対人関係における『例外の発見(例外的な楽しみや長所への意識的な気づき)』と合わせて、『応用可能な適応的認知‐柔軟に活用できるリソースの発見』がとても重要になってきます。

いろいろなケースに応用可能な適応的認知を引き出したり、いろいろな問題状況に対応できるような柔軟なリソースを発見したりするために、ブリーフ・セラピーでは『クライアントのリソース(利点・能力・楽しみ)を引き出す質問』を積極的に考え出すことに力点が置かれています。

カウンセリングではない日常的な会話でも『相手に対してどんな質問を投げかけるか?』が、『会話の方向性・話のスムーズな流れ』を規定して、『相手の感情・気分・印象の変化』に相当に大きな影響を与えます。会話の流れを断ち切ったり、相手の気分(感情)を悪くしたり、相手を貶めて自己の優越感(正当性)を満たすような意図があったりすると、カウンセリングでも日常会話でも『質問の有効性・質問による対話の促進効果』は乏しくなってしまいます。

友人知人との日常会話では、『問題解決を促進するという目標・気分(感情)の状態を改善させるという効果』が明確ではないので、相手を極端に不愉快にさせないのであれば、どんな質問・疑問の投げかけをしても問題はないわけですが、それでも『円滑な人間関係・他者との性格や価値観の相性』という面において『質問の内容・タイミング(相手への関心の持ち方)』というのは結構、重要な役割を果たしていると考えられます。解決志向のカウンセリングでは、相手のどんな些細な成功や行動についてでも気持ちよく褒めて肯定的な態度をオープンに示すという『compliment(賞賛)』にも重きが置かれていますが、無条件の肯定的尊重というC.R.ロジャーズの来談者中心療法と重なる部分があります。

ブリーフ・セラピー(短期療法)の問題解決の効果は『クライアントのリソース(利点・能力)を引き出す質問』『クライアントの自己分析に対する柔軟な視点(認知)の転換』によって生み出されますが、クライアントの性格的な長所や気分の明るさ、潜在的可能性を引き出すオーソドックスな質問形式には以下の5つがあります。

自己のリソースを発見するとは、肯定的なベクトルを持つ『問題状況の例外・自己認識の例外』を発見して、『更に活用できそうな利点・状況・楽しみ』を伸ばしていくということと同義です。


1.スターティング・クエスチョン(開始の質問)……カウンセリングの初期に行う、カウンセリングのポジティブな目標設定を明確化する質問。

『このカウンセリングでどんなテーマについて話し合っていきたいですか?そして、話し合いを通してどのような変化が少しでも生じれば良いと思いますか?』など。

2.スケーリング・クエスチョン(測定の質問)……クライアントの心理状態や気分のレベルを『1(最高に悪い)~10(最高に良い)』のような相対評価で確認する質問。

『最近の気分は1~10の数値で表すと、どれくらいになりますか?現在は3でかなり調子が悪いようですが、最悪な1の時と比較するとどんなところがマシですか?周囲の状況や人間関係にどんな変化が起こった時に、1だった気分が3や5に回復してきますか?』など。数値の設定は0~100点など任意で決めて良く、『数』以外にも『色・概念・キャラクター』など自由な基準を作ってスケーリング・クエスチョンを行うこともできる。

3.コーピング・クエスチョン(対処の質問)……クライアントに自分の心理状態(気分・感情)や問題状況を回復させる『有効な対処法』について主体的に考えさせる質問。

『過去の成功例・対処方法・明るい材料』に焦点を合わせて、『非常に苦しい時期が長く続いていたようですが、その時にはどのような方法や考え方で乗り越えてきたのですか?(生き延びてきたのですか?)』というような質問をする時には『サバイバル・クエスチョン(生存の質問)』と呼ばれることもある。サバイバル・クエスチョンには、過酷な状況や難しい問題を何とか自分で乗り切って、今まで生き延びてきたことへの共感と賞賛が含まれている。

『現在の気分が少しでも良くなるためにはどんなことが出来たら良いと思いますか?何をしている時に、自分の気分の悪さや問題状況が余り気にならなくなりますか?自分にとって最も有効な気分転換やストレス解消は何だと思いますか?今まで何をしている時(どんな状況にある時)が一番楽しいと感じていましたか?』など。

4.ミラクル・クエスチョン(奇跡の質問)……すべての悩みが解決するという『奇跡的な状況』を仮定することで、クライアントの問題の本質や現在でも実現できている良い部分(リソース)を明確化する質問。

『朝起きた時に奇跡が起こって今の悩みがすっかり解決していたとしたら、何が今までとは違っていると思いますか?今までの生活や状況がどのように変わっていれば、奇跡的な変化が起こったと確信できますか?奇跡によって何でも解決できるとしたら、どんな変化が起こることを望みますか?』など






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