先進国での少子化問題・人口減少と世界全体における人口増加問題:社会保障制度と相互扶助の道徳

『晩婚化‐少子化の問題』というのは、漸進的な『人口減少問題』として認識されがちであるが、正確には人口が減ることが問題であるというよりも、世代別人口(人口ピラミッド)の人口比が偏ることが問題となっている。日本の少子高齢化問題については、その進行を非常に心配して急いで少子化対策を強化すべきという主流派の意見がある一方で、少子化そのものを人口増加を抑制するある種の自然の摂理と見て余り問題視しない意見もある。

世界人口は約68億人で開発途上国を中心にして増加を続けているが、先進国の多くは、移民を受け容れている国や出産育児を『高負担・高福祉』で支えている福祉国家を除いて人口減少に転じている。世界全体では人口増加のほうが問題になっているが、社会保障・教育制度・社会インフラが一定以上に整備された先進国では人口減少が問題になっている。しかし、世界全体で人口が増え続けていることや地球環境の保護を理由に、日本をはじめとする先進国で人口が持続的に減っても良いとまでは言えないし、今生きている現役世代にとっては、経済力の衰退や社会保障の給付削減というリスクにつながる面がある。

先進国における人口減少の問題は、経済規模の縮小や社会保障制度の持続困難といった『人工的(財政的)に維持されている生活・医療・福祉の質の低下』ということに帰結する。これは、先進国に産まれてきた個人の大半が、自分ひとり(あるいは家族単位)の労働力と財の蓄積だけでは、老後まで安心して人生をまっとうできないということを意味する。『一人の人間』が『一人の人間』を死ぬまで支えられるのであれば、社会保障制度は原理的に必要がないのだが、長寿化により現役を引退してから後の人生が長くなっているので、現役時代の蓄積・貯金だけで老後の生活・医療・介護を自分自身で賄える人というのは殆どいない。

近代化した国では血縁・地域社会によるセーフティネットも脆弱になっているので、必然的に『複数の現役世代』『一人の高齢者』を支える賦課方式によって社会保障制度が運営されることになる。しかし、逆説的に制度的な社会保障・福祉支援が充実すると、『大勢の子どもによる直接的な扶養・介護』が不要になるという側面もあり、手厚い福祉と少子化というのは結びつきやすいとも言われる。

近代化が進展して社会福祉が整備された先進国では、『親は子どもの面倒を見なければならない・老後にも子どもに金銭的な迷惑を掛けないほうが良い』という道徳規範が強くなるが、近代化していない途上国では老後保障となる公的年金制度などが充実していないので、『子どもは親の面倒を見なければならない・親の老後の生活を支援するのは当然の責務である』という伝統的な道徳規範のほうが依然として優勢で強制力を持っている。

現実問題として、先進国では過去の蓄積と公的年金がある高齢者のほうが、若年層よりも経済的に豊かであることが多く、途上国ではその日暮らしの現金収入を家族全員で稼いでいることが多いので、高齢者になった祖父・父親の世代には自力で老後の生活を営むだけの蓄積も年金も無い。社会保障制度が充実しておらず平均所得も低い途上国では、自分の子どもや孫が皆無であれば、老後の生活を営むことが現実的に不可能なので、必然的にできるだけ多くの子どもを作るインセンティブが大きくなる。

また、先進国では子どものマンパワーを増やすだけでは『高額医療を受ける権利・公的医療保険』まではカバーできないので、医療保険を含む社会保障制度が強く要請されることになる。病院・医師・医薬品をはじめする医療インフラが絶対的に不足している途上国では、医療保険を使って『医療を受ける権利』が自明の権利としてまでは保障されていないので、老後の致命的疾患に対しては家族コミュニティが看護して最期まで看取るということになる。アメリカなど公的医療保険が整備されていない市場重視の先進国も確かにあるが、ヨーロッパにある大半の先進国では、『医療を受ける権利』が公的医療保険によって補完されているので財政負担に占める医療コストが大きくならざるを得ない。

先進国の少子化問題は、『子どもを自立させるまでの扶養・教育コストの増大』『自分が老後の生活を安心して送るための福祉コストの増大』という二重のコスト増に基づく将来不安によって促進する。しかし、近代的な経済社会では『子どもを多く持つこと』が親に直接的・物理的なインセンティブをもたらさないので、『自分が子どもが欲しい,子どもが好きだという情熱・意欲』といった心理的(本能的)な動機づけが強くないと子どもを多く持つということは考えにくい。また、現代社会では教育コストをまったく掛けずに大勢の子どもを育てても、そこから親孝行の見返りを期待するということが道徳的にも現実的にも難しくなっている。

時に、少子化対策の議論において、子どもを産み育てていない年金受給者は“フリーライダー”ではないかという批判があるが、子ども一人当たりの財政的な社会貢献度は非常に大きなバラツキがあるので、単純に子どもの数の多さのみで『社会保障制度に対する寄与度』を推測することはできないし、子どもは社会保障の負担者であると同時に未来の受給者でもある。国土の大きさと食糧・エネルギー資源が有限である以上、生存可能な人口増加量には必然的に限界があり、一人の社会保障を三人以上の現役世代が支えるという世代間負担(賦課方式)では制度の永続性は担保されない。

日本の人口減少は経済成長や社会保障の障壁となる問題ではあるが、かといって1億5千万人、2億人へと向かっていくような急速な人口増加よりかは『将来の負担・不安』は結果として小さくなるのではないかと思う。現実的な日本の人口問題の最適解に近いのは、『世代間人口比率のアンバランス』を縮小するようなソフトランディングな人口減であり、現在の女性特殊出生率(1.30前後)は低すぎるとしても、ある世代だけに偏って人口が大きくなるというのは、『増大した世代』を支える時期の社会保障負担にとって大きなリスクとなる可能性がある。

次はトマス・ロバート・マルサスの『人口論』を元にして、もう少し人口動態と経済成長(必要な資源の生産力の限界)について考えてみたいと思います。






■関連URI
河野稠果『人口学への招待 少子・高齢化はどこまで解明されたか』の書評2:人口モメンタムの加速度

職業相談からキャリアカウンセリング(キャリアガイダンス)への移行:キャリア概念とは何か?

桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』の書評2:結婚と労働の規範性の相対化と現代の自由社会を生き抜く覚悟

恋愛関係と結婚(婚姻)の違い・『性愛の自由化』と『男女交際の活性化』がもたらす結婚のモラトリアム

■書籍紹介

人口から読む日本の歴史 (講談社学術文庫 (1430))
講談社
鬼頭 宏

ユーザレビュー:
日本の人口変動には4 ...
日本列島の8千年の人 ...
人口の研究は歴史学の ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ





子育て世帯の社会保障 (社会保障研究シリーズ)
東京大学出版会

ユーザレビュー:

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 38

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた
面白い 面白い
ナイス ナイス
ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!)
かわいい かわいい かわいい かわいい かわいい かわいい かわいい かわいい

この記事へのトラックバック