永田寿康・元民主党衆院議員が北九州市で自殺というニュースを受けて

北九州市八幡西区里中の11階建てマンションで民主党に所属していた永田寿康・元衆議院議員(39)が自殺したというニュースをウェブにアクセスして初めて知った。自分が住む地域の近くで起こったということも衝撃的であったが、ニュースを読んで感じたことを記録しておきたい。永田寿康氏については昨年11月末に福岡県宗像市の病院を抜け出して自殺未遂を起こしたというニュースを少し見たくらいしか近況を知らなかったが、長期入院していたことからも議員辞職後は随分と厳しい精神状態に追い込まれていたことが推測される。

今回の報道の枕詞にも、『(ライブドア事件に関係する)偽メール問題で議員辞職した』という言葉が定型的に使われているように、民主党の永田氏と言えばどうしても、ライブドア元社長の堀江貴文氏と自民党幹部との間の不正献金疑惑を暴こうとして勇み足をした『偽メール問題(堀江メール問題)』と結びついてしまう部分があった。2006年2月の偽メール問題では、永田氏が入手したメールの真偽を十分に確認することなく、衆院選に出馬したライブドアの堀江元社長が自民党幹部・武部勤氏の次男にコンサルティング料として3,000万円を振り込んだと糾弾した。

しかし後になって、民主党は新たな証拠を提示することができず、このメールが事実誤認であったことを永田氏本人も認めるところとなった。民主党・前原誠司代表を含む執行部が退陣に追い込まれ永田氏本人も議員辞職したが、この騒動の時点でも永田氏の精神状態が不安定になっているという旨のアナウンスが民主党側から何度か為されていた。永田氏はそれ以前にも失言・事実誤認によって複数回の懲罰動議を受けていたが、民主党議員の中では捨て身でアグレッシブな質疑応答を行う過激な論客としてのイメージが強かった。

自分独自のカラーを打ち出しながら強気で討論に挑んでいく姿勢によって、『政界での存在感(個人としての認知度)』を強めていこうとする永田氏の方略はそれなりに功を奏した面もあった。しかし、問題事象の事実確認や批判の有効性の検討が不十分なままに、『拙速な攻撃・追及』に逸ってしまったことで自分で自分の足をすくってしまったのは残念なことである。

Wikipediaなどを参照すると、議員辞職後の私生活面の心痛や不運というものも永田氏のメンタル・ヘルスに悪影響を与えたと思われるが、学歴・職業キャリア・親族など(政界以外でも)再起を果たすに十分なバックグラウンドを持ちながらも『再生の機会(新たな活動分野)』『希望の方向性』を見出すきっかけを上手く掴めなかったように感じられた。公私両面の苦しい状況が積み重なる中で、自己承認(存在意義)としてのプライドと現在の生活状況との危ういバランスが崩れて精神機能の失調を起こしてしまったのかもしれない。政界・世論からさまざまな苦言や批判があったとはいえ、生命を投げ打たなければ補えないという問題ではなかったように思いますが永田氏のご冥福をお祈りします。

政治家・資産家・経営者・エリート階層といった人たちは社会一般では『強者』と見なされるが、地位・名誉・財産・自尊心など失うものが多いという意味では逆説的に『弱者』としての相貌も持っており、大きな挫折や困窮に遭遇した時にそれまでの健啖・豪放ぶりからすると意外なほどの脆弱性を見せることは少なくない。社会的な体面や信任に泥を塗られること(塗られたと思うこと)のダメージというのは、一般的には社会的影響力の強い大物になればなるほどに大きいが、『自分がこうありたいとする自己イメージ(社会的アイデンティティ)とのズレ』にどこまで耐えられるのかというメンタルな耐性には個人差がある。

どんな立場の人間にとっても『今持てるもの』を失った時にゼロからやり直すというのは並大抵なことではないが、それまでの知名度が高かったり成功の度合いが大きかったりすると、どうしても一般の人以上に『世間・周囲からの視線(評価)』を意識してしまい自信喪失や精神的な抑制が起こりやすくなる部分がある。特別な地位や知名度が無くても、過去の経験から作り上げられた『自尊心・自己イメージの檻』を破ることは容易ではないことがあるし、伝統的なコミュニティ(近隣関係)が衰退して世間体を気にしなくなったとされる現代社会でも『世間(他人さま)に顔向けできない・世間に大きな迷惑をかけてしまった』という社会的承認からの逸脱の問題は残っている。

今まで必死に積み上げてきたものやそれまで信じてきたものが瓦解したと感じれば、誰もが深刻な精神的危機に陥り生きる意義を見失いやすくなるが、そういった絶望的な苦境にはまり込んだ時には、社会的な評価・承認といった『外向性の価値基準』と主観的な評価・自己承認といった『内向性の価値基準』をいま一度落ち着いて見直してみる必要があるのだろう。

自分の生きる支えになるものの選択肢を複数備えておくか、新たな支えや方向性を見出せるような『精神の柔軟性・可変性』を持てれば良いのだが、精神的・社会的に追い込まれて希死念慮が強まった時の『視野狭窄・感情の硬直化』というものを一人で抜け出すことはやはり容易ではない。

希死念慮の生起というものを一律に語ることはできないが、経済面・健康面で生きるための基本的条件が整っているのに抑うつ的になって死にたいと思う時には、『自分で自分の現状が許せないと思う自尊心に根ざした自己批判・生き甲斐の喪失』の要因が大きく作用することが多い。そして、このネガティブな自己イメージや自尊感情へのこだわりは、周囲の献身的な支援や医学的な対処があってもなかなか解消することが難しく、最終的には自分が自分の社会的アイデンティティの再構成に対してどのように向き合っていくかが問われることになる。

永田氏の報道とは離れたが一般的な希死念慮への認知的対処として、『自分で自分を許すこと(自分の失敗や短所ばかりを自己批判しないこと)』『過去と現在を切り離して今の時点からできることに注意を向け換えること(自己イメージを柔軟に持てるようにすること)』がとても重要になってくる。





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■書籍紹介

ヒルズ黙示録 検証・ライブドア (朝日文庫)
朝日新聞出版
大鹿 靖明

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