認知行動療法で前向きに生きるモチベーションを高める要素:“セルフ・エフィカシー”と“原因帰属”

A.バンデューラのセルフ・エフィカシー(自己効力感)は、『肯定的・適応的な認知』を獲得して目標課題を達成することを目指す認知行動療法の作用機序にも関係している。セルフ・エフィカシー(自己効力感)とは目的を達成しようとする遂行可能性に対する確信であり、『自分は問題状況を解決できる・自分はストレス事態を乗り越えることができる』という内言によって支えられていて、『感情・気分・行動・生理のセルフ・コントロール(自己制御)』にも影響を与えている。

不安障害やうつ病、ストレス性障害など精神障害の発症は『素因-ストレスモデル』によって説明されるが、セルフ・エフィカシーの高さはストレス状況や危機的事態を自分の意志・行動によってある程度コントロールできるという認知を形成して『生理的・心理的なストレス反応』を抑制する。セルフ・エフィカシーの高さは『ストレス耐性の高さ(情緒の安定性)』『ストレス対処の実行』につながるだけでなく、実際にストレス状況に自分を曝露させてそれを克服しようとする積極的な動機づけを高めてくれる。

パニック障害や社会不安障害、適応障害、うつ病などの精神疾患では、特にセルフ・エフィカシーの著しい低下が『予期不安によるストレス状況の回避』を生み出しやすくなるが、ストレス状況を反射的に回避し続けると『ストレス状況と不快な精神症状の結びつき(レスポンデント条件づけ)』を解除することが更に難しくなる。問題内容やストレス状況を消極的に回避し続けている限りにおいて、『本質的な症状改善・問題解決』というのは達成しにくい。それは回避行動が習慣化すると『ストレス状況に対処できる・問題状況を打開できる』という成功経験を得ることができないので、『不安・抑うつ感のストレス状況に対する条件づけ』を消去できないからであり、『電車に乗れば不安発作が起きる・職場や学校のストレスに耐えられず体調が悪化する』という予期不安を反証する行動を実際に取ることができないからである。

症状や事態を改善するための『ストレス対処(ストレス・コーピング)』『対人スキル』の方法を知的に学習することはどんな人にとってもそれほど難しいことではないが、それらは実際に不安感や緊張感を感じる場面で使ってみない限りは改善効果を期待することができない。セルフ・エフィカシーは、ストレス対処や対人スキルの方法を実際に利用してみるための『自己に対する自信・物事に対する意欲・問題状況や心理状態に対する統制感』などとして具体的に理解することができる。

『問題解決(ストレス対処)のための実践行動』を遂行させる自己効力感を高める為のスタンダードな方法としては、『悲観的な認知の修正→スモールステップの目標→小さな目標の達成→成功や達成に対する肯定的なフィードバック』が考えられる。

1.『悲観的・否定的な認知』を『適応的・肯定的な認知』に置き換えて、気分・感情の状態を改善する=認知療法的な技法(思考記録表などワークシート作成)。

2.『簡単な課題』から『困難な課題』へとスモールステップで目標を設定する。必要に応じて『手本となる行動』のモデリングや緊張緩和のリラクセーションを行う=行動療法の系統的脱感作(不安階層表の作成)。

3.不安や緊張、ストレスを感じる『具体的な場面(問題状況)』に直面して、それに耐えられることを実感する=行動療法のエクスポージャー(曝露療法)。

4.目標を達成した成功経験に対して『賞賛・支持・承認』などの肯定的なフィードバックを与える=オペラント条件づけを応用したセルフ・エフィカシーと行動の頻度の強化。

セルフ・エフィカシーの観点を取り込んだ認知行動療法的な対処法がすべてのケースに奏功するわけではなく、精神運動抑制の強い重症うつ病やストレス状況に対する恐怖感・不安感が過度に強いPTSD、実践行動の動機づけが極端に欠けているケースなどでは『行動療法的な技法(エクスポージャーやフラッディングなど曝露療法)』は逆効果になる恐れもあるだろう。しかし、情動イメージ療法やモデリング(観察学習)などを取り入れた『認知的な技法』によってセルフ・エフィカシーを向上させることは、一般的な自尊感情や自信、自己肯定感(存在意義の実感)を強化することにつながるので、本人の心理状態や体調に負担の小さい方法によってセルフ・エフィカシーを向上させることは、あらゆるカウンセリング・心理療法に有効な作用をもたらすと推測される。

『目的とする遂行行動の成功』に対して正の強化(肯定・承認)を与えるというのが基本的な方法であるが、恐怖感の強さや症状の経過、疾患の種類によって『実際の遂行行動』が不可能であるケースでは、A.バンデューラの社会的学習理論を根拠とする『代理的経験+モデリング+自己肯定的な原因帰属』によってモチベーションやセルフ・エフィカシーの強化を図ることが出来るだろう。

精神症状を悪化させたり不適応状態を維持したりする認知的要因として『自分は努力をしても無駄である・自分にはどうせ達成することができない・問題に対処するだけの能力や資質が元々欠けている』といった学習性無力感があるので、心理臨床のみに関わらず学校教育や社員教育などの問題解決的な指導(モチベーションアップの指導)においても、セルフ・エフィカシーの強化によって『早期の諦め・中途の離脱・非合理的な自己否定』を抑制する認知的・行動的な変容の試みが大切になってくる。

上記した『自己肯定的な原因帰属』の方法を具体的に説明すると、自分が上手く成功した時の原因を『自分の努力・能力』にできるだけ帰属させ、自分が失敗して落ち込んだ時にはその原因を必要以上に『自分の努力・能力』に帰属させないということである。人生におけるすべての失敗や挫折を『自分以外の原因(偶然の不運・環境の要因・周囲の言動)』に帰属させれば問題状況がスムーズに解決できるわけではなく、責任転嫁によって現状維持の自己肯定に留まればその後の成長・発展を阻害するマイナス効果もあるが、『自己肯定的な原因帰属』の主要な目的はモチベーションや前向きな意欲を維持継続させるということにある。

『自分には能力や資質がないからどうせ失敗する・自分は努力をしても結果がでないから努力しない』という自己否定的な原因帰属をしてしまうと、『早期の諦め・中途の離脱・非合理的な自己否定』につながりやすくなり、環境不適応や無気力・自暴自棄の状態に自己を固定しやすいというデメリットが大きくなってしまう。『自己肯定的な原因帰属』というのは究極的には、自分の幸福追求や目標達成の努力を諦めないだけの『最低限のモチベーション・人生に対するやる気』を維持するために行うものであり、『努力の量的な増大』を目指しているというよりも『努力の質的な維持(適切な努力の方向性の考慮)』のほうに重点があるのである。

自分がいくら真剣に努力を続けても、自分に向いていないジャンルに対して思わしい成果が出ないというケースは数多くあるものだが、それでも人間は『すべての活動を諦める・あらゆる努力をやめてしまう』という選択をすることは現実的にそう簡単にはできない、人生をそれなりに楽しく生き抜いていく必要条件の一つとして『物事に対する動機づけ・前向きな意欲の維持』があると考えると、セルフ・エフィカシーの重要性がより良く実感できてくる。





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カウンセリングにおける対話の焦点づけと『自分にとっての意味の洞察』:認知・行動の変容と問題解決

■書籍紹介

自信をもてないあなたへ―自分でできる認知行動療法
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