島田荘司『UFO大通り/傘を折る女』の書評:“二つの中篇小説”を“一つのトリック(謎解き)”でつなぐ

島田荘司の御手洗潔シリーズの作品ですが、表題の『UFO大通り』ではガソリンスタンドの元店員の変死と宇宙人とUFOを家の近所で見たという老女小平ラクさんの証言が計算された物語のプロットの中で上手く結び付けられていきます。奇妙な状況で亡くなっていたガソリンスタンドの元店員・小寺隆の死亡の謎は合理的に納得できるものになっていますが、小寺の婚約者・柴田明美が銀色に輝く顔になって死亡した状況の説明はやや牽強付会のような感じも受けます。

ガソリンスタンド(GS)のチーフを務める造田信義は、陰湿で暴力的な性格から部下に恐れられ嫌われていましたが、造田のパワハラが原因でGSを辞めた元社員の小寺隆からコンビニの駐車場で襲われます。造田は小寺隆に限らず部下を威圧と暴力で統制しており、小寺を婚約者の前で侮辱したり殴りつけたりするなど恨みを買うだけの十分な理由がありました。

暴走族あがりの小寺はコンビニの駐車場で造田を鉄パイプで襲い、複数箇所の骨折の重傷を負わせましたが、元々小寺は腕力にそれほど自信のあるタイプではなく、格闘技をかじっていて体格が良く面子にこだわる造田からの報復を恐れている感じがありました。警察が証拠不十分で小寺隆の逮捕を見送りつつあった状況で、小寺隆が非常に奇妙な格好と状況で死亡します。

小寺殺害の嫌疑は、小寺に暴行を受けて復讐の機会を伺っていたとされる造田に向けられるのですが、小寺が死亡していた時の姿はフルフェイスのヘルメットをバイザーを閉めてかぶり、白いシーツを身体中にぐるぐる巻きにしてマフラーと手袋までしているという異様な格好でした。更に、天上からは何かのまじないなのか何なのか、無数のガムテープの紐が貼り付けられて垂れ下がっていました。第一発見者は、婚約者の柴田明美でした。

発見された小寺の部屋も内側からかんぬき錠が掛けられており窓にも目張りがされていて、外から何ものかが侵入した形跡はなく、死因についても急性の心停止という以上のことは不明でした。物事を即断したがる短気な担当の刑事は、小寺に怨恨のある造田を重要参考人として目をつけていましたが、物証がないだけでなく死亡している状況や部屋の様子からは、造田がどのようにして小寺を殺害することができたのかの具体的な推論は全くできませんでした。

しかし、刑事は独断的な推測を展開して、造田の意趣返しによる自宅襲撃を恐れていた小寺が、フルフェイスのヘルメットをかぶり戸締りを厳重にして守りを固めていたのだろうと考えます。殺人以外にも病死・事故の可能性を疑いましたが、小寺は特別な持病を持っておらず解剖所見でも臓器・血管などに損傷や病変は見当たらないのでした。その後、婚約者の柴田明美も顔と上半身が銀色に染められた異常な状態で死亡しているのが発見されることになります。

そんな時に、小寺の家の近くに住む小平ラクという婆さんがボケてしまって、家の近くの通りで宇宙人やUFOを見たとか宇宙人が光線銃で戦争をしていたとかいう話を周囲にしているという話が警察や御手洗に伝わってきます。小平ラクという老女はテレビに出てまで宇宙人・UFOの目撃談を熱心に話したため、ラクさんの住む極楽寺町の通りは『UFO大通り』というニックネームがつけられるようになります。

ラクさんが認知症を発症したと思い込んだ息子は、老人介護ホームに入れようとしていましたが、ラクさんの話を聞いた御手洗潔は『宇宙人やUFOの目撃談』は病気による幻覚や単なる嘘ではなく『実際に起こった出来事(現実が歪曲された解釈の一つ)』であると判断します。『宇宙人・UFOの目撃談の謎』と『小寺隆の完全防備の格好での変死』が結びつくことで事件は解明されますが、『柴田明美の顔・上半身が銀色に染まった謎』というのも保健所の住民相談所を媒介して小寺の死亡と同時に明らかにされていきます。

『UFO大通り』と一緒に収載されている中篇の『傘を折る女』のほうも、『UFO大通り』と同一のトリックというか死因が使われているのですが、冒頭の謎の呈示の仕方は『傘を折る女』のほうが優れていて話題への引き込み方が巧みです。深夜ラジオの『みんなの広場』というコーナーでは、リスナーが最近経験したもっとも変わった出来事を募集しているのですが、そのコーナーに電話をした男性が『雨の中でずぶ濡れになりながら傘を車に轢かせる女性』についての話をします。

寒い雨の夜に半袖の白のワンピースを着た女性が、何回も道路に新品らしき傘を置いて、傘が折れるまで車に傘を轢かせていた(傘が折れるとずぶ濡れになったまま元来た道を引き返していった)という不思議な話でしたが、この話をラジオで聞いた助手の石川が御手洗に伝えることで事件は急速に進展していきます。犬好きで女性不信の傾向がある御手洗潔は『女性は損得勘定で行動する』という偏見を過去の作品で述べ、プライベートで女性との関係に深入りしないような配慮をしていますが、『傘を折る女』のイントロでは『知的レヴェルの高い受け身人種は得になるほうを選択する』という話をしています。

御手洗は偶然に雨の中で傘を車に轢かせてずぶ濡れになる女性もいなければ、好き好んでずぶ濡れになる女性もいるはずがないので、『傘を意図的に折る行為』には何らかの利益があると考えます。そして、石川に言い聞かせるような合理的推論の中で安楽椅子探偵よろしく、『傘を折る女性』が関係していたであろう事件の大まかなアウトラインを浮き彫りにしていくのですが……この作品の下敷きになっているのは、2000年5月に17歳の少年が引き起こした『西鉄バスジャック事件(佐賀バスジャック事件)』だと考えられます。そのため、『傘を折る女性・高層マンションに移動した女性の謎の解明』とは別に、少年事件の加害者に対する量刑水準やマスメディアの報道姿勢、被害者のやり場のない報復感情などの社会的テーマを内包したミステリーとなっています。






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■書籍紹介

UFO大通り (講談社ノベルス)
講談社
島田 荘司

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