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zoom RSS “時間資源”と“表現欲求”によって実現するウェブ時代の知的生活:知的消費と知的生産の循環

<<   作成日時 : 2008/05/12 15:09   >>

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前回の記事では、ウェブが知の共有と創造的思考の可能性を高めたという話をしました。ウェブ時代は果てしなく広がり続ける『デジタル情報の大海』に溺れやすい時代だとも言われますが、各ジャンルで知的生産を続ける人にとっては『書籍情報の大海』よりはやや泳ぎやすい時代になった側面もあるのではないでしょうか。書籍(本)の場合は末尾に『索引(インデックス)』のような検索の手がかりはあっても、『複数の書籍にまたがる検索機能』はありませんから、数百冊以上の本の内容の中から自分の求める情報・記述をピンポイントで探し出そうとすればかなりの時間投資が必要になります。

数千冊、数万冊の本に取り囲まれているような本格的な研究者や評論家のレベルになると、その膨大な書籍の大海の中から『今求めている情報・記述』を短時間で探し出すことはかなり難しくなってきますし、直接的な知的生産に取り掛かる前の情報収集の段階で精神的にも疲労しやすくなると思います。無くなったモノを探すにしても情報を探すにしても『見つからない時のストレス』は大きいですし、結局、長い時間探し続けても目的のモノ・情報にたどり着かないという時間資源の浪費という問題もあります。Googleのような精度の高い検索エンジンの登場によって、自分で『自分の必要な情報のリスト・重要キーワード・読書記録のストック』さえ準備することができれば、後は『どの本の何ページにどんな情報が書いてあったのか?この人はこの問題についてどのような記述をしていたのか?』を細かく記憶しておく必要性は小さくなりました。

そもそも経験が古いものほど大雑把な記憶しか残っていませんから、長期的スパンになればなるほど『外部記憶装置としてのウェブ・HDD』のほうが利用効率が高くなっていきます。知的生活の充実においては利用効率だけがすべてではなく、『量』よりも『質』のほうが大切であるという意見も理解できるのですが、『利用効率の高さ』はイコール『時間資源の多さ』につながるという点に注意が必要です。



『グーグルに淘汰されない知的生産術』

これからの知的生産は、組織ではなく時間の勝負になるのではないでしょうか。僕は「在野の時代」が来ると思っているんです。大学などの組織に属していなくても、時間が自由に使える状態にあれば、それはとても大きなアドバンテージになる。早期にリタイアした人や、結婚して仕事を辞めた主婦などに、高度な知的能力を備えた人が少なくありません。事務処理や会議に忙殺されて知的生産の時間がとれない大学教授よりも、時間を自由に使える在野の人が輝く時代が訪れるのではないでしょうか。

(中略)

何事についても、僕が考えるときの軸はまず時間なんですね。いわば「唯時間論」。知的生産の工夫についても、全部時間を切り口に説明できます。自分の自由にできる時間をいかにたくさん生み出すか。そればかり考えている。



この引用部分が直接的に示しているのですが、経済生活が『金銭』を媒介として進められるのに対して、知的生活は学問の起源が余暇(スコラ)にあるように『時間』を媒介にしてしか実現できないものです。各ジャンルの基礎知識と文書作成の学習を一通り終えると、書籍やウェブ、新聞を読むといった『知的消費(インプット)』から知的生活はスタートしますが、知的消費に投資した時間の数倍の時間をかけて『知的生産(アウトプット)』のプロセスは進められていきます。自分の仕事や生活、所用でギリギリまで時間資源を削り取られてしまうと、知的消費の段階で十分なインプットができなくなる可能性が高くなり、知的生産の価値を高めるための『潜在的な知のストック』の厚みが薄くなってしまうという問題が出てきます。

もちろん、単純に多くの本(書籍)を読めば読むほど知的生活が充実するというわけではないですが、本を読んだりニュース(社会問題の論考・資料)を読んだりする頻度が極端に減って『思索の原資』となる知的刺激を受けなくなると、やはり大多数の人は物事を言語的・論理的に粘り強く考えて文章化するという作業から離れてしまいます。また、何らかの価値(需要・応用性)がある情報をアウトプットする『知的生活』だけが人生を豊かにする価値ではありませんが、知的なライフスタイルに魅力を感じている人でそれがなかなか実現できずに悶々としているというのであれば、まずは『情報をインプットする時間(書籍やニュースを読む時間)+一つの物事について考える時間』を作り出すことをおすすめします。ただひたすらに読みたい本を読んで知的興奮を楽しむという『知的消費』だけを満喫したいのであれば、『情報・感動をインプットする時間』を作り出すだけで良いのですが、いったん消費した情報・知識・感動を『知的生産』につなげていくためには『一つのテーマ・物事について考える時間』が必ず必要になります。

読んだ本(書籍)やニュースの内容について考えたり、現実の自分の生活と情報・知識を照らし合わせることで、『自分にとっての問題意識(何が解決すべき問題なのか)・応用範囲(どんな事柄にその情報が利用可能なのか)・研究対象(何を更に突き詰めて学びたいのか)・価値判断(賛否や善悪の区別)』が明確化してきます。この段階にまで来ることができれば、実際にまとまった内容のある文章を書く『知的生産』まであと一歩となり、『問題意識と表現欲求に根ざした自分の思考過程(主張内容)』を自分の文章表現に落とし込んでいけばいいわけです。ウェブ時代には効率的に知的生産(思考過程・知的経験の文章化)を行うためのツールと環境は十分に揃っていますが、実際に知的生産(アウトプットによる知の共有可能性)の行動を起こすためには『時間資源(インプットと思考の時間)』『表現欲求(情報・思考の整理によるモチベーションアップ)』の二つが最低限必要になります。

ウェブ登場以前の時代には、相当に該博で見識の高い在野の知識人であっても、不特定多数の他者に自分の知見や考えを伝達する手段(個人メディア)を持っていませんでしたので、大半の人が『潜在的な知のストック』を抱えたままこの世を去ることになりました。個人の脳器官(主観的経験世界)に『読書経験(知識内容)・思考過程・現実体験のストック』を死蔵させたまま時間資源を使い尽くすということは、知的消費の極限で死を迎えるということですが、そこには『他者の知との共鳴(知識の共有・知的な共同作業)』が決定的に欠落しています。ブログやウェブサイトを通して知的生産(思考プロセスや主観的知性の文章化)をするということは、不特定多数の他者との『知の共有・共鳴の可能性』を開くことであると同時に、『個人の知やアイデアの死蔵(消滅)』を抑止することでもあると思うのです。

他人が読んで理解できる文章にしてウェブにアップロードしない限りは、『自分の知的生活&精神活動の成果(知性・感動)』は自分の内面に死蔵されたまま、他の誰にも影響を与えることなく静かに情報価値を摩滅させていきます。自分が大した価値がないと思い込んでいる情報や感想であってもそれをウェブにアップしておくことで、検索エンジンやリンクなどの経路を通ってその情報(感想)を誰かが知的に消費してくれる可能性が生まれてくるのです。どのようなレベルの知的生産行為であっても、そこにあなたのオリジナル・コンテンツ(あなた独自の表現方法)が含まれている限りは、あなたにしか作成できなかった価値が宿っているはずです。誰か一人でもそのコンテンツを知的に消費してくれる可能性がある限り、他の誰かではなく“あなた”がその情報・感想を書いたという価値は消えることがないですし、“ウェブの集合知”は多種多様な個性(観点)や表現(判断)が横溢することによってこそ既存媒体にはない有用性が醸成されてくるのです。

誰もウェブの空間に新たな知的生産を行わなくなれば、いくらそれまでに優秀な専門家が作成したコンテンツがウェブに蓄積されていても、“集合知としてのウェブ”の価値は死に体となるでしょう。私たちが特定の権威あるウェブサイトや専門家(知識人)の情報だけに固執せず、敢えてYahoo!やGoogleの検索エンジンにクエリを打ち込むのは、昨日の集合知とは違う今日の集合知の可能性(可変性)を信じているからであり、ウェブは『新たなる知的生産・今日更新される情報』が永遠に止まらないと予測されるからこそ既存媒体よりも読みたいという気持ちにさせられるのです。誰かが知的消費に利用したあなたの情報は、その人の情報検索にとって有益であったかもしれないし、『新たな知のフィードバックのきっかけ』として知的生産の循環(読んだ人が書きたくなる・知の消費者が知の生産者になるという循環)を支える要素になったかもしれません。他人の知的生産物(ウェブでも本でも)を消費して『知的生活の充実感』を得るという構造はおよそ普遍的なものです。そのことを踏まえると、あなたが自由な時間を確保してウェブで意欲的な知的生産を楽しむことは、ウェブ内部のアクセス可能なコンテンツ数の増大に寄与するだけでなく、『自己と他者の知的生活の継続可能性』をより大きく開いていくことにつながります。






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