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zoom RSS 梅田望夫『ウェブ時代 5つの定理』の書評1:ポジティブな金言と主体的な人生の可能性

<<   作成日時 : 2008/04/20 20:14   >>

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梅田望夫さんが精選した『ウェブ時代の金言』はビジネスの成功とポジティブな希望を志向する言葉の群れであり、一つ一つの言葉の中には『仕事(起業)のヒント』とは別に『生きる姿勢』への問いかけが含まれています。『ウェブ時代 5つの定理』では、理想的な未来のビジョンや先進的な思考過程を言語化するビジョナリーの金言が、5つのカテゴリーに分けて収録されています。興味を惹かれた定理の言葉から読み進めていく内に、絶え間なく変化する現代社会(情報化社会)を生きる勇気や未来の世界への知的好奇心が高まってくるような感じを味わうことになります。ビジョナリーの金言と自分の持つ基本的世界観を重ね合わせることで『明るい未来のイメージ』を増強することができ、本書に登場する一流の人物たちの持つ圧倒的なエネルギーの源流に接近することができるでしょう。

自分の決断や未来の可能性を肯定的に信じる心の重要性は誰でも意識することがあるものですが、『自己の信念の方向性』『繰り返される内言(内的な言語活動)』によって規定される部分があります。たかが言葉、されど言葉であり、自分で自分に語りかけるネガティブな言説は自己の決断への自信を揺るがせ、未来の悲観的な予測に従った行動へと人を無意識的に駆り立てることさえあります。『ウェブ時代 5つの定理』は、哲学者でもなく文学者でもないITビジネス(ベンチャー事業)の最先端を生きるシリコンバレーの経済人・技術者の金言を集めた珍しい書籍であり、それゆえに『哲学的な真理の洞察』とは違った角度から『経済的・技術的な未来の創出』についてインスパイアする内容になっています。こういうとベンチャービジネス(ファンド)の一攫千金や先端的ビジネスの成功哲学のイメージを思い浮かべる人もいるかもしれませんが、本書を貫く精神は『人生を主体的に生き抜く自由』であり、経済的成功というのはその為の必要条件の一つと考えられています。

ビジネスの結果としての金銭そのものを目的とすれば、最終的に消費文明社会(記号としての商品)に自我が呑み込まれてしまい『やりたい仕事・没頭できる対象・創造的なチャレンジ精神』を見失いやすくなってしまいます。本書で繰り返し語られる倫理性(理想的ビジョン)と経済性の融合としてのシリコンバレー精神とは、『未来(自己)の可能性への終わりなき挑戦』であり、その精神を自分の実現したい目標や技術的な関心を抜きにして単なる金儲けの話として語ることはできません。お金は確かに大切なものでありあればあったで行動(活動)の選択範囲が広がりますが、反対に『主体的にやりたいこと・熱狂的にのめり込める対象』が何もなければ、幾ら有り余るほどの財力があってもそれを有効に活用することは出来ないかもしれません。本書に登場する経営者・投資家が実現した『他者へのポジティブな影響力(世界を変えるような画期的な仕事)』はお金だけでは到底発揮できないものであり、お金に発展的な可能性を付加するチャレンジ精神や画期的なアイデア(未来像)、それを現実化する事業展開のノウハウが必要になってきます。

『第1定理 アントレプレナーシップ』では、ハイリスク・ハイリターンの起業を可能とするシリコンバレー独自の風土に基づいた金言が多いのですが、失敗を恐れない果敢なチャレンジ精神のみが世界を変えるような大きな変革を生み出すというのは、経済活動に限らず歴史的真理の一面を突いたものでしょう。最先端のテクノロジーとクールなデザインの可能性を徹底的に追求することで、コンピュータ(Mac)やデジタルプレイヤー(iPod)、ケータイ(iPhone)の分野に革命を起こし続けているAppleのスティーブ・ジョブズの以下の言葉は、『世界を変えるビジネス』というビジョナリーの巨視的な観点を象徴的に示唆しています。



シリコンバレーの存在理由は「世界を変える」こと。「世界を良い方向へ変える」ことだ。
そしてそれをやり遂げれば、経済的にも信じられないほどの成功を手にできる。
── スティーブ・ジョブズ

Silicon Valley is all about changing the world. It's all about changing the world for the better, and if you do that, you can be incredibly successful economically.

──Steve Jobs



世界や経済の大局に一石を投じるスティーブ・ジョブズのような大きな仕事をする機会はなかなか無さそうですが、『世界をより良く変える小さな仕事』であれば大多数の人たちがそれを行っているのではないかと思います。旧来の経済社会(産業構造)の中で極めて無力だった個をエンパワメントしたIT革命は、巨大な政治・経済機構に従属しない『個の表現活動の場』を大きく拡大しましたが、IT革命とインターネットがもたらしたツールの数々を、どう自分の人生(仕事)の中に取り込んでいくかが問われていると言えます。

『第2定理 チーム力』では、大きなビジネスを展開する上で一人では何も出来ない『個』が、どうやってシナジー効果を発揮できるチーム(人間関係)を形成していけば良いのかにスポットを当てています。カリスマ的経営者が思い描く事業計画やビジネスモデル、製品・技術のアイデアを現実化していくためには『優秀で意欲的な個』の集積としてのチームが必要不可欠であり、相互に刺激し合う知的で野心的な仕事環境が『個の能力・適性の限界点』を更に引き上げていくことになります。あらゆる専門分野に精通して人格的にも魅力(カリスマ・リーダーシップ)のある全能の人物は存在せず、個の所有する時間資源には1日24時間の制限がありますから、一定以上のビジネスを円滑に運営していこうとすれば、自分の長所と相手の長所を相補的に拡張していけるような『チームの編成』が必然的に求められることになります。

『問題は、スタートアップをやりたいと思っている人々の数が、スタートアップできる機会の数よりもはるかに多いことだ』というロジャー・マクナミーの言葉を引きながら、梅田氏は優秀な個が相互作用する少数精鋭のチームプレイの重要性を語っていますが、シリコンバレーではその事業の遂行に最適な経営者・技術者・各部署の実務担当者・専門家の人材を集めやすい『流動的な労働市場』があるという強みがあります。『好きな人と働かなければならない』というロジャー・マクナミーのシンプルな言葉もインパクトがありますが、好きな人というのは尊敬できる人というニュアンスに近いものであり、その人と一緒に働くことで『労働意欲・作業効率・知的興奮』が引き上げられるような仲間のことを意味しています。『チーム力』とは、ビジネスの目標や未来のビジョンを達成するために相互にポジティブ・フィードバックをもたらす力のことであり、未来の不安や現在の不満を紛らわすために人間がただ集まる『群れる力』とは明らかに異なるものです。

企業の価値はさまざまな要素から構成され、時価総額という市場評価の指標で示されることもありますが、企業価値の根本的源泉は金銭や設備だけでは代替できない『優秀な個としての人材』にあります。企業の持続的成長やイノベーティブな製品・サービスの開発は『Aクラスの人材』を絶えず雇用し続けることでしか実現できず、『自分の優越欲求・ポジションを守るための保身的な採用』を人事担当者がするようになればどんなに優れた企業も斜陽へと近づくでしょう。シリコンバレーの格言として提起される『Aクラスの人は、Aクラスの人と一緒に仕事をしたがる。Bクラスの人はCクラスの人を採用したがる』はそのことを端的に示しており、『個人的な優越感・安心感』を満たすために自分の思い通りになりそうなイエスマンの部下ばかりを雇用し始めた時に、チームの成長が停滞するリスクが高まります。

年功序列・職位階層といった『政治的原理』はチームの成長や人材の相互尊重の雰囲気を抑制する働きがあり、今現在の企業秩序を永続させようとする自然法則への無理な抵抗としての側面を持ちます。世界最大のECサイト(ネット書店)であるAmazonのCEOジェフ・ベゾスの以下の言葉は、ファクト・ベースの合理的な意志決定の大切さと政治的原理の束縛の無効性を主張するものです。事実(ファクト)やデータ(数値)を曲げてまで、間違ったものを正しいとするような権威主義(権限・威圧に対する萎縮)は政治の世界における害悪であることはもちろんのこと、経済の世界においてもチーム力や企業の成長、職場のエネルギッシュな雰囲気を阻害する要因になり得ます。



ファクト・ベースの意思決定がいちばんだ。その素晴らしいところは階層構造をくつがえしてしまうことだ。ファクト・ベースの意思決定であれば、いちばん若い下っ端の人間が、いちばん上の者を議論で打ち負かしてしまうことができる。
── ジェフ・ベゾス

These are the best kinds of decisions! They're fact-based decisions. The great thing about fact-based decisions is that they overrule the hierarchy. The most junior person in the company can win an argument with the most senior person with a fact-based decision.
──Jeff Bezos









■関連URI
キャリアデザインと主観的選好を巡る大企業志向とベンチャー志向の価値認識の差異

梅田望夫『ウェブ時代をゆく ―いかに働き、いかに学ぶか』の書評1:経済圏と知的情報網としてのウェブ

梅田望夫『ウェブ時代をゆく ―いかに働き、いかに学ぶか』の書評2:好きを貫く事と知的に生きる事

■書籍紹介
ウェブ時代 5つの定理 この言葉が未来を切り開く!
ウェブ時代 5つの定理―この言葉が未来を切り開く!

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タイトル (本文) ブログ名/日時
梅田望夫『ウェブ時代 5つの定理』の書評2:若者を応援する大人の流儀とインターネット
『第3定理 技術者の眼』では、物事の仕組みを観念的(思想的)にではなく具体的(技術的)に分析して理解する技術者の根本的態度について書かれており、『モノ(商品)・サービスの生産過程』における理系技術者の精力的な働きぶりを感じることが出来ます。文系と理系とを簡単に区別することは出来ませんが、技術者というカテゴリーで理系の人材を見ればそこに共通する特性として『形のあるモノづくり・実際に動くウェブサービスづくり』への熱狂的なコミットを見出すことができます。それとは対照的に文系のビジネスマンというの... ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2008/04/22 08:44
好きを貫くよりも、好きなものに取り憑かれる生き方
梅田望夫さんのブログ経由で「カウンセリングルーム:Es Discovery」さんのところより、梅田望夫『ウェブ時代 5つの定理』の書評1:ポジティブな金言と主体的な人生の可能性関連の記事を読んでいて、「好きなことを貫く主体的な生き方」が気になったので雑感を書く。  そ ...続きを見る
マボロシプロダクト
2008/04/27 01:23
『ウェブ時代5つの定理』について
書評1:ポジティブな金言と主体的な人生の可能性 書評2:若者を応援する大人の流儀とインターネット 梅田さんが執筆した書籍『ウェブ時代5つの定理』に対するEs Discoveryさんの書評を上記にリンクしました。 梅田さんご本人も良い書評としてリンクしていましたが、私も上 ...続きを見る
多くの人を幸せにするシステムをつくるため...
2008/04/28 00:46
齋藤孝・梅田望夫『私塾のすすめ――ここから創造が生まれる』の書評2:ウェブの流儀と教育者の情熱
齋藤孝が『祝祭共有のコミュニティありきの教育』であるのに対して、梅田望夫のほうは『やる気のある個人ありきの教育』であるのが両者のパーソナリティの特徴を顕著に表していて非常に興味深く感じました。齋藤が好きで堪らないという『授業というスタイルの関係性』とは、学びの場に参加している人全員が『自分の上達・成長』を体験して、生徒が『お互いの上達の感動(その上達が必ずしも相対的に素晴らしい上達である必要はない)』を祝祭の時間(空気)の中で笑って共有するということです。究極的には、授業というスタイルの“... ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2008/06/25 11:51
Google Ad Plannerのサイト解析機能,Android搭載のグーグル携帯HT-03A
Googleが、広告主が『広告を出稿しようとするウェブサイト』のアクセスデータを解析できる“Google Ad Planner”というサービスを日本でも使えるようにしたみたいです。アメリカでは2008年6月頃から使えたサービスですが、広告出稿先の候補となるウェブサイトのURLを入力するだけで、そのサイトのPV(ページビュー)やUU(ユニークユーザー数)などを知ることができるというなかなか面白いサービスです。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2009/05/26 19:20
“ウェブの大衆化・リアル化”でハイカルチャーな理想社会・知的生産性のベクトルから逸れたウェブ
中川淳一郎さんの『ウェブはバカと暇人のもの』という著作を巡る幾つかの記事を読みましたが、小飼弾さんの『梅田望夫と中川淳一郎の共通点 - 書評 - ウェブはバカと暇人のもの』という記事を読むと、ウェブの凄さを『ウェブが誰のものでもないこと』に求めています。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2009/07/04 05:33
T・バトラー=ボードン『世界の成功哲学 50の名著』の書評2:潜在能力と富の獲得に関する本
前回の記事で書いていた『世界の成功哲学 50の名著 エッセンスを解く』の書評の続きで、『潜在能力を発揮する』のテーマから3冊ピックアップして簡単な概略と感想を書いています。『富と財産を築く』のテーマは4冊の書名を挙げましたが、ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』やロバート・キヨサキの『金持ち父さん貧乏父さん』などは自己啓発書とビジネス書の定番タイトルでロングセラーとなっています。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2010/04/12 11:48
梅田望夫・飯吉透『ウェブで学ぶ オープンエデュケーションと知の革命』の書評1:ウェブの教育環境
ウェブが普及し始めてから10年以上の歳月が経ち、ウェブ上には膨大な数の知識と情報が溢れていて、Googleのような検索エンジンとfacebook,mixiのようなソーシャルウェブによって効率的な情報のフィルタリングが行われるようになっている。本書はそういったウェブの進化の中でも、特に『オンラインの教育活動の進化』をテーマにした本であり、MIT(マサチューセッツ工科大学)のオープンコースウェアなどを参照しながら、世界の一流の講義や知識の教授に誰もがオープンにアクセスできるようになった教育革命... ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2011/06/04 03:19
佐々木俊尚『キュレーションの時代』の書評2:他者の眼差しに制御された戦後日本の“記号消費・階層意識”
『第二章 背伸び記号消費の終焉』というジャン・ボードリヤールの著作をイメージさせるような表題がつけられた章では、映画業界と音楽業界が斜陽化してきた背景を『バブル景気の期待・マス消費の幻想』と絡めて詳述しています。インターネットの登場によって『コンテンツの希少性(コンテンツに対する飢餓感)』が格段に縮減されたために、マスメディアがとにかく宣伝してブームを作れば売れるという時代は終焉に近づいています。 ...続きを見る
カウンセリングルーム:Es Discov...
2011/06/20 00:09

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