サブプライムローン問題から続くアメリカの金融不安と『円高ドル安・株安・物価上昇』の同時進行

日本の政治がポスト福井俊彦の日銀総裁人事を巡る政局で混乱している中、世界経済が大きな変化を見せ、アメリカドルの暴落、日本円の急騰が続いている。17日の外国為替相場で遂に円(対ドル)が100円を大幅に割り込み、12年7カ月ぶりとなる1ドル=95円台の円高・ドル安水準となった。日本とアメリカでの相乗的な景気悪化が起こり、世界の投機筋からドルが叩き売りされ、日本株式市場もアメリカ株式市場も大幅下落の全面安をマークしているが、アメリカのサブプライムローンの不良債権問題から発した世界経済の悪化に立ち直りの兆しがなかなか見えない。

去年末頃の経済アナリストの予測では、2008年の春には景気が大底を打つのではないかと言われていたが、最近になって、FRBの支援指示で米大手銀行JPモルガン・チェースが米大手証券ベア・スターンズを買収するなどアメリカの金融市場は混迷から抜け出せず、投資家がドルを買い戻すようなアメリカ経済の信用回復が思うように進んでいない。アメリカの信用不安が波及した世界同時株安は以前として続いており、中国・インドなどのアジア関連株は下落し、エマージング(新興国)市場も概ね景気が大幅に減速している。

北京オリンピック開催を控える中国では、チベットで多数の市民(チベット人)が蜂起する暴動が勃発しており、中国の武力鎮圧による人権弾圧に対して、世界各国から厳しい人道的非難の声が起きている。世界からの投資マネーの流入で急成長が続いていた中国市場だが、ここに来て『輸出食糧の安全性の軽視(農薬混入問題による食の安全管理体制への疑念)』『チベットにおける深刻な人権弾圧問題(チベットの軍事占領から現在に至るまでの人権・民族問題)』がカントリーリスクとなっており、中国市場の先行きにも不透明感が広がっている。

現状では、投資家がドルを積極的に買う好材料が見えないので、円とユーロに為替市場のマネーが流入する動きはまだ暫く続きそうな感じがする。この円高ドル安による日本経済への影響は輸出関連企業にマイナスに働くが、最近は、『現地生産(製造拠点の分散)・為替調整(先物的な為替予約)・連結決算』などの要因によって円高ドル安による輸出企業の業績への悪影響は限定的という見方もある。

個人に対する円高のプラス要因としては『ドル流通圏への海外旅行のコスト減』くらいなもので、対ユーロでは円高ではないため『輸入品の値下げ』などの恩恵は極めて限定的である。また、石油・資源(貴金属)・食糧をはじめとする物価高が続いているため、円高によって生活実感や消費意欲が改善するという見込みもなく、消費動向指数などから考えると地方経済や中小企業の景気も冷え込みが続きそうだ。

以下の記事では、1円の円高でSONY(ソニー)に年間60億円の影響が出るとしているものの、各企業の回答にはそれほど深刻な危機感は見られず、業績悪化の影響はあるもののそれぞれの為替差損のリスクヘッジによって損失をある程度コントロールできると考えているようだ。


円急騰、影響を日本のIT各社に聞く

ソニーは「今日の動きについて特にコメントすることはないが、為替予約が済んでいるため今期の業績へのインパクトはなく、当期純利益への影響も軽微だ。来期以降の業績見通しはまだ出していない。1つ言えることは、円相場の1円の変動がソニーの業績に与える影響は年間で60億円であること」とした。

NECは「輸出入額が均衡しているため、基本的には通期の決算に影響しない。為替が不安定になってきた80年代後半から90年代初頭、輸出入を均衡させて為替リスクをヘッジする体制にするよう心がけてきた。ただし、これは連結での話だ。単体で見ると、半導体事業を手掛け、輸出が多いNECエレクトロニクスなどには影響が及ぶ可能性がある」と話した。

富士通は「損益に大きな影響はない。輸出と輸入の比率が均衡するようにビジネスの構造を変えてきたからだ。サービス提供も現地化しているものが多く、輸出が少ない。為替のリスクがあまりない。今回の円高に対して現状特に対策を打つことは考えていない」という。


アメリカの為替・株式市場の急落は、アメリカの『富の源泉』であった先端的な金融技術にサブプライムローンのような『アドホック(その場凌ぎ)なトリック』が仕組まれていたことが一番の理由であり、それをCDO(債務担保証券)化して世界各国にばら撒いたため、アメリカ一国に留まらない世界規模の信用収縮(金融市場の混乱)が起こったといえる。アメリカ経済が本格的な景気後退(リセッション)にはまり込むという予測が強まれば更にドルが売られて円高になるリスクがあるが、この金融危機に対して連邦準備理事会(FRB)が講じる金融政策は公定歩合を段階的に引き下げるという小出しの政策で、思い切った公的資金の投入にはまだ消極的であるようだ。

円高ドル安がどのレベルにまで進むのかは分からないが、もう少しで円高が上げ止まると予測するのであれば、今を外貨預金の好機と読むこともできるので、個人の投資マネーは外貨建ての金融商品に流れている。株式市場も債券市場も安くなっているので、長期的に見れば今投資しておけばある程度の利回りを得られるのではないかと思うが、アメリカ経済の回復にどれくらいの時間がかかるのか、日本の政権交代や政策転換が日本市場にどのようなインパクトを与えるのかによって条件は変わってくるだろう。

日本内外の投資マネーを呼び込むような財政再建と同時並行的に進む構造改革を、国民生活へのダメージを出来るだけ少なくして成し遂げられるか否かが一つのポイントになる。本質的な問題としては、短期的な為替や株価の浮き沈みに惑わされ過ぎずに、日本企業の国際競争力や企業統治を長期的スパンで高めていけるかどうか、そういった成長力と戦略性のある企業を個人が見極めて投資できるかどうかというのが重要なのではないかと思う。

海外からの輸入に依存する日本国内のエネルギーや食糧が不足しないように『輸入元の確実な確保』と『価格安定のための交渉の努力』も重要だが、日本の食糧自給率を上げるために現在の農業政策の延長戦上で農業振興をやることは比較優位の観点から得策ではないだろう。もし、自給率上昇による日本の食糧安全保障を整備したいのであれば、企業が農業生産を行うような大規模農業を認めなければ根本的な解決にならないと思うが、その場合には農業分野での大幅な規制緩和が必要となり、個人農家の保護を中心にしてきた現在の農業政策路線との衝突が生まれるのではないだろうか。

日本経済は輸出・輸入双方の観点からアメリカ経済・中国経済と相互依存的な関係があるが、日本の株式市場の値動きはかなりの部分を外国人投資家(外国の機関投資家)の投資行動に依存しているので、日本人の投資行動を活性化させるような市場の好材料や投資について学ぶ機会も必要になってくる。福田首相の支持率と存在感が低下していて福田政権の末期が近づいているような印象もあるが、政治の停滞と経済の混乱が相互作用しているような現状はやはり好ましくない。次期政権には、日本経済の混乱を抜け出して、企業の成長力と国民の生活の安心を高められるような経済政策・行財政改革のリーダーシップを期待することが出来るだろうか。






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