情報革命がもたらした“紙の新聞”の需要減少と“情報コンテンツ”のビジネスの困難:2

収穫物を貯蔵できるようにした『農業革命』は、偶然の要素に頼る部分が大きい狩猟の才能や採集の努力の価値を大幅に下落させました。機械を用いた大量生産と大規模な資本を投下するプロジェクトが可能な『産業革命(資本主義と連動した産業革命)』は、単純な肉体労働(マニュファクチュア)の需要と評価を引き下げ、専門的な頭脳労働(熟練労働)の需要を高めました。産業革命では、工場で規格化された製品や情報コンテンツ(音楽・映像)の市場は拡大し、社会全体に画一的な情報を発信できるマスメディア(新聞・ラジオ・テレビ)の権威は高まりました。しかし、個人に情報発信可能なメディア(ウェブサイト)と高度な複製技術を与える『情報革命』によって、単純な頭脳労働の需要と評価は下がり、社会世論を動かしていたマスメディアの権威も緩やかに低下しています。

世界中から情報のアップロードとダウンロードが可能なウェブ(インターネット)の登場によって、『複製可能なデジタル情報の著作権』を万全に保護することが不可能になり、『メディアに保存された情報(音楽・映像)の売買』というビジネスモデルの根幹が揺さぶられているという状況があります。個人に属するメディアであるPCと携帯電話の普及が原動力となった情報革命は、あらゆるデジタル情報が入手可能なウェブ環境を準備し、『複製可能な情報コンテンツ』の市場価値の下落という大きなインパクトをもたらしました。技術的に複製と公開が容易である以上は、過去の時代と比較して『情報コンテンツの著作権が生み出す収益力』が相対的に低下したと見なすことができるでしょうし、Creative Commonsのように情報化社会に適応する新たな著作権概念を打ちたてようとするムーブメントも起きています。ウェブ上の音楽配信の利益や口コミによる評判をアーティスト(制作会社・著作権団体)が完全に無視することが難しくなっており、『情報コンテンツの無償の共有』『情報コンテンツの有償の販売』のバランスを考えたマーケティングが必要になっているようにも感じます。

一般ユーザが生成するコンテンツに満ち溢れたウェブは、『マスメディアに分配されていた時間』を間違いなく奪い取っていきますが、『一次情報・公式情報・正式な報道としてのプライオリティ』がマスメディアからウェブに移っていくことは今後も有り得ないと思います。ウェブの発展と人気によって、『新聞を読む時間(人数)・テレビを視聴する時間(人数)』は減るでしょうし、『マスメディアの市場規模・営業利益』は縮小するかもしれませんが、『一次情報・公式情報を大衆に一律的・画一的に伝えるというマスメディアの役割』は今後も残り続けるはずです。実際にウェブ上のブログ記事を見ても、『マスメディアの一次情報に対する分析と解釈』が大半を占めており、マスメディアそのものが完全に不要であるという論陣を張っているような人は極めて少数派で、マスメディア不要論の意見に賛同する人もあまりいないでしょう。マスメディアの意見や主張があまり信用できないという人にとっても、『いつ・誰が・何処で・何をしたというファクトレベルの報道の必要性』は認識していると考えられます。ウェブ上の記事はマスメディアへの対抗言説を多く生み出しましたが、ファクトレベルでマスメディアの報道を全面的に否定するような調査結果や再検証はあまり見られません。

大手新聞社のニュースは、ウェブで毎日配信されており各新聞社の社説やニュースに対するブログの記事も読むことができるので、『各種メディアに割ける時間』を考えても、新聞をゆっくり読む時間がなくなってきている現状があります。特に、日常的にブログを書いたり書籍を読んだりしている人の場合には、『新聞を読むよりも、ブログを書きたい(本を読みたい)』という人が多いでしょうし、一日の限られた時間の中での『行動の優先順位』が大きく変わってきています。新聞の発行数が減ってきているのは、『ウェブ世代の若者の活字離れ』が原因だという意見もありますが、今の若者が過去の若者と比較して活字そのものを読まなくなっているかといえば恐らくそうではないでしょうし、単純に『読む文字の分量』だけを考えると、(無数のテキストにアクセス可能な)ウェブ世代のほうがそれ以前の世代よりも多くの文字を読んでいる可能性があります。

無論、『読み書きする文章の質』にまで踏み込んだ調査を実施することは難しく、『短文メールや消費・娯楽の情報ばかりで、中身のある文章を読んでいない』という反論も有り得るでしょうが。その一方で、かなり高度な内容のブログが毎日数百~数千PVを集めていることなどを考えると、『読み応えのある文章の需要』が無くなっているわけではないですし、『文章を書く行為に費やす時間』に関しては、ウェブ(ブログなどのCGM)が登場してからのほうがその時間が長くなっていることは確実でしょう。ウェブの無かった時代には、『不特定多数に読んでもらえる文章』を書ける環境自体がないので、わざわざ自分の思考のプロセスや本の書評、政治経済に対する論評、毎日の日記などを文章化する人は殆どいませんでした。

メモ書き程度に簡単な本の書評を書いたり、一日の出来事や政治経済への雑感を書き付ける人はいたと思いますが、第三者から読まれることを想定して定期的にまとまった文章を書いているような人は、文筆を生業にしている人以外はまずいなかったといって良いと思います。SNSや掲示板のようなウェブ上のコミュニティもないので、『自分の現実社会での知り合い』以外に自分の書いた文章や自分の意見を伝える方法がなく、文章を書いたとしてもその大部分は誰の目にも触れずに死蔵されていることが大半だったでしょう。誰かに読まれる可能性があったり、定期的に読みに来てくれる読者が現れれば、『文章を書くモチベーション』をある程度維持しやすくなりますが、誰にも読まれないことが明らかなローカルの文章を、自分だけのために黙々と書き付ける作業というのはよほど内省的で記録欲求の強い人でないと続かないと思います。ウェブ上で文章をすらすらと書ける人でも、『読み手のいない紙のノート上』ではまるで鉛筆が進まないという人は多いと思いますし、特に、自分の生活(人生)と直接関係がない社会的な評論とか一般的な主張(解説)をする時には『聞いてくれる相手(読んでくれる読者)』がいるかいないかがモチベーションの高低に決定的な影響を与えます。

新聞を読む時間の減少という意味では、活字(テキスト)を読む時間や頻度は変わっていなくても、『新聞以外のメディアに割かれる時間』が増えれば必然的に新聞を読む時間が減ってしまいます。ウェブの急速な普及と検索エンジンの進歩によって『目にする活字(サイト・ブログ)の量』が劇的に増大し、マスメディアからの情報を一方的に受信する習慣が『自分で検索して読むという習慣(RSSフィードで読むという習慣)』に置き換えられてきています。注意すべきなのは、現在でもマスメディア由来の情報が読まれなくなったのではなく、『ウェブ上にあるマスメディアのニュースの参照(RSSリーダによるサマリーの確認)』などの効率的な行動に置き換えられていっているということです。ですから、『一日のニュースやちょっとした雑文を読みたいという需要』は依然としてあるはずですが、その需要を紙媒体によって満たす頻度が減ってきたということなのでしょう。とはいえ、『ちょっとした雑文・評論の分野』で読者を奪い合う競争率は非常に高くなっており、閲覧者の継続的なアテンション(アクセス数)を維持することが各メディアの大きな目標になっています。

『目にする活字(サイト・ブログ)や娯楽の量の増加』によってユーザの新聞に割く時間が減りましたが、更に『ブログやSNSなどCGI(ユーザ生成メディア)の増大』によって、情報の発信者となるユーザが増えました。ウェブ社会(情報化社会)以前の時代には、一般国民の大多数は『情報の受信者』でありメディアに与えられた情報を読むことだけに時間を費やすことができましたが、今では一般国民の少なくない人たちが『情報の発信者』としてウェブ内部でのコンテンツ作成に時間を費やしています。過去と比べると、『文章を読む時間』と『文章を書く時間』の比率が大きく変化してきており、ブログの更新やSNSでのコミュニケーション、サイトの作成、ウェブの閲覧行動などで一日に数時間を費やす人も少なくありません。

一般ユーザが視聴する『メディア(コンテンツ)の選択肢』が増えたことと、一般ユーザが『情報の発信者としての顔』を持ったことで、『紙の新聞を読む時間』が圧迫され削減されてきたということですが、新聞社はいずれにしても、ネット事業での収益拡大やビジネスモデルの構築に経営資源(資本・人材)を注力せざるを得ないでしょうね。新聞社の既存のビジネスモデルだけでは生き残りが困難になることは必至であり、戸別宅配の売上や新聞の広告収益の減少分を補うだけの『新規の収益モデル』をウェブで組み立てていけるのでしょうか。

各事件の詳細な内容や各ニュースの執筆子の個人的見解を知りたいというようなニーズがない限り、紙の日刊新聞を熟読することに価値を見出す人は今後も減り続けるでしょうが、ウェブで新聞記事のようなニュースを読みたいという人は増えてくるのではないかと思います。しかし、ウェブで新聞記事を読みたいとする層(アクセス)を、実際の利益に変えていくことは相当に難しいですので、飛躍的にアクセス数を増大させて何らかの付加価値を提供する有料サービスか高単価の広告収入に変えていくしかないでしょう。

ウェブ広告の利益率は戸別宅配や新聞広告の利益率よりもかなり低いですから、各新聞社が現在の企業規模を維持したままでウェブ事業に成功するというのは考え難いようにも思いますが、MSN(マイクロソフト)との提携を解消した毎日新聞は「毎日jp」という新サイトを10月1日からスタートさせ、朝日・読売・日経も「ANY」という新ウェブサービスを構想しているようです。私は新聞社ごとの思想傾向などにはあまり関心がないのですが、ウェブサイトのデザインやユーザビリティでは「MSN毎日インタラクティブ(毎日新聞)」が使いやすくて好きでした。

あと、毎日新聞だけは社説が1か月分掲載してあるのですが、他の新聞社では数日間掲載して社説を削除するパターンが多く、社説がまとめて読めるというのがMSN毎日インタラクティブの魅力の一つでした。社説を長期間掲載すると、社説を読みたくて紙の新聞を取る層が減るのではないかという懸念もあり、どれくらいの期間掲載するのかという経営判断は難しいと思いますが、そういったちょっとした掲載情報(掲載期間)の違いで、普段見に行くニュースサイトが変わるということもあります。

新聞社サイトのニュースや評論を読みたいという潜在的な需要やある程度のアクセスはあると思いますが、それをどうやって紙媒体に迫るような収益源にしていけるのかというのが最大の課題であり、その意味では新聞社に限らず、『アクセスを利益に変える仕組みづくり』がウェブサービス事業で一番重要になってきますね。新聞社のサイト間での差異や個性を明確に打ち出して、その新聞社サイトでないと読めない情報記事(アーカイブ)や快適なユーザビリティなどを提供することも大切だと思いますが、「横並びのニュース報道の情報(どの新聞サイトにアクセスしても読める情報)」にプラスする部分がないと突出してアクセスを集めることは難しいと思います。


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