S.フロイトの精神分析の基本原則とC.ロジャーズのクライアント中心療法の共感的態度:2

精神分析療法を実施する分析家とクライアント中心療法を行うカウンセラーとの基本的態度(基本原則)の違いを原則論的にまとめると以下のようになります。現在のカウンセリングでは、カウチ(寝椅子)で横になったクライエントが次々に自由連想を続けるような精神分析や、助言や情報提供を全く行わないクライエント中心療法は減っているので、折衷的な態度を取るカウンセラーが増えていると思われますが、『共感性・中立性・真実性・丁寧な傾聴・肯定的な態度』などの基本的要素は程度の差はあれ、およそ全ての技法に共通する側面を持っています。


精神分析家の基本原則

禁欲原則……一般的なカウンセリングのように安易な共感や迅速な承認を与えないことで、クライエントの現実原則に従った自我機能を強化するという原則。精神分析場面では、過去の重要な記憶と結びついた『転移的な感情』や『退行的な欲求』が現れ、それを簡単に満たすことは、クライエントの依存性や消極性を強める疾病利得(二次的疾病利得)を与えることにつながると考えた。

分析者の匿名性……分析者はクライエントの『鏡』であり、クライエントが過去のあらゆる情景や感情を投影する可変性のある対象である。その為、分析者はクライエントから『固定的なイメージや一面的な評価』を抱かれないほうが良く、プライベートな情報や私的な経験談などを出来るだけクライエントに伝えないようにするという匿名性の原則。

分析者の匿名性は中立性とも深く関係しており、『自分は子どもと一緒に生活していて幸せです』とか『自分は今年結婚する予定で、ヨーロッパに新婚旅行に行きます』といった家庭的価値観に対する言及なども中立性を阻害する可能性があり、自分の幸福な体験や不幸な体験、生活上の履歴などをカウンセラー(分析者)が自己開示することには十分に慎重でなければならない。情緒不安定で他者の気分や感情の影響を受けやすいクライエントや、他者の成功(幸せ)への嫉妬・羨望などの劣等感を伴う自己認知(自己愛)が高まっているケースでは、特に、カウンセラー本人の生活状況や異性関係、過去の体験などについての自己開示を抑制することが必要となる。

分析者の中立性……分析家はクライエントに特定の価値観や信念を押し付けるべきではなく、『クライエントの主体性や自立性』に配慮した分析と解釈を実施すべきであるという原則。その為に、分析家は社会的・政治的・経済的・倫理的な価値判断に対して柔軟で中立的な態度を持つことが求められ、『Aが正しく、Bが間違っている』というような確定的な言動を取らないことが推奨される。



クライアント中心療法(来談者中心療法)の基本的態度については、かなり昔の記事でまとめましたが、もう一度整理すると以下のようになります。


クライアント中心療法(来談者中心療法)の基本的態度

真実性(純粋性)……カウンセラーが、専門家アイデンティティの役割意識に拘束され過ぎずに、ありのままの対等な一人の人間としてクライエントと率直な対話を行うことです。“真実性”や“純粋性”とは非対称的な権威性や上下関係を排除した『本当の気持ちや考え』でクライエントと向き合うことを意味しています。


自己一致……自己一致とは、『自分がどのような人間であるのかという自己概念(自己イメージ)』と『自分の現実社会での経験(思考・感情・態度・行動)』が一致していることです。自己概念(自己イメージ)は『他者の評価・反応・意見』などに大きく影響されますが、自己の経験は『自分自身がどう感じてどう考え、どう行動したか』によって規定される直接的な経験のことです。

自己一致とは自律的な『自己の経験』と他律的な『自己概念』との間に、矛盾がない状態を意味します。カウンセラーは、自分自身の内的心理への深い洞察と適切な自己分析を続けることで、『個人的な未解決の問題』の悪影響を抑制し、自己一致の状態をいつも準備しておく必要があります。


徹底的傾聴……クライアントが話している内容を、途中で突然遮ったり、自分の意見や考えを差し挟んだりせずに、徹底的に内容を吟味しながら聴取する原則です。クライエント中心療法では、『クライエント自身の言葉』で問題状況や感情変化、認知内容を語ってもらうことに改善的意義があると考えます。

共感的理解……クライエントが認知している主観的世界の枠組み(スキーマ)に入り込んで、クライエントの立場から感情や思考、苦悩を理解しようとする態度です。自分自身の立場(世界認識の枠組み)から客観的にクライエントの不安や恐怖、怒り、悲哀を理解するのではなくて、共感的にクライエントの立場に立って想像力とイメージを働かせることが重要です。自分の個人的な価値観や判断、偏見をクライエントに対して押し付けずに、クライエントに自己肯定感を感じてもらえるような共感的な理解に努力します。

無条件の肯定的尊重・無条件の積極的受容……クライエントが自分の話したい問題や感情、テーマを自由に安心して話すことが出来る面接場面の雰囲気を準備することで、クライエント中心療法の目的の一つである『自己一致の促進』が進展していきます。カウンセラーは、クライエントのありのままの率直な感情や経験を無条件に温かく受容して、自分と合わない価値観に対しても反論や批判を加えずに尊重する態度を示します。

クライエントの基本思想や人生観が反社会的なものや非倫理的なものであっても、その思考や価値観を共感的に受容することで、『クライエントの真の問題や感情』にダイレクトに接近して自己開示を促進することが出来ます。カウンセリングが懲戒や指導の場ではないので、世間一般の価値観や倫理的な善悪観に基づいて、クライエントを批判的・否定的に取り扱うことがあってはならないという原則です。

無条件の肯定的尊重と受容によって、クライエントが内面に鬱積させている激しい感情や苦しい思いを自己開示させることができ、クライエントの改善へと向かう実現傾向を開花させることで『自滅的・他害的な行動パターン』から離脱することが出来ると考えます。クライエント中心療法では基本的に、『クライエントの感情表現・人生全般の価値判断・社会常識への態度』などについて、常識的な価値観や倫理的な善悪観の視点から批判(反駁)することはないのです。


最後に、カール・ロジャーズのカウンセリングの大きな目標である『実現傾向の発達・促進』について言及するとすれば、ロジャーズは生物学的な全体性を備えた『有機体(organization)』としての価値判断のプロセスに自己実現のトリガーがあると考えていたようで、矛盾や葛藤なく成長し続ける『有機体としての乳幼児』に実現傾向の雛形(イデア)を見ていました。

面白いことに、C.ロジャーズの有機体としての価値判断の原理というのは、S.フロイトの快楽を求めて不快を避けるという(乳幼児の行動原理を説明する)『快楽原則(pleasure discipline)』とパラレルであり、それらを突き詰めていくと実際の利益がある行動を選択する『功利性(utility)』に、ある種の率直(純粋)な健康性が宿るということになります。


■関連URL
S.フロイトの精神分析の基本原則とC.ロジャーズのクライアント中心療法の共感的態度:1

認知療法・精神分析・クライアント中心療法の異同と特性

『現在の問題の解決』を志向する解決構築アプローチと『過去の問題の分析』を志向する精神分析療法

■書籍紹介
セラピストとクライエント―フロイト、ロジャーズ、ギル、コフートの統合

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