“言語的表現(意味内容)が優位のウェブ世界”と“社会的属性(役割規範)が優位のリアル世界”

過去の記事では、現実社会とウェブ世界におけるコミュニケーションの特性について考えてみましたが、リアルとウェブでは人を惹きつける『価値(value)・魅力(charm)』が認証されやすい対象に大きな違いがあります。

ウェブでコンテンツを作成するユーザ(大衆)が爆発的に増大した背景には、『書かれているテキスト(話している内容)』『ウェブ内部の人間関係(&検索エンジン)』のみによって情報価値が判断される(アクセス数が増減する)という、現実社会にはないウェブの言語優位の匿名性が大きく関与しています。現実社会では、『無名者の発言・発想・意見・情報』が殊更に注目されることはないわけで、言い換えれば、『言語的メッセージの価値判断』よりも『社会的属性による役割規範』によって社会システムの秩序は維持されているわけです。

ウェブでは『書いている個人の現実の属性・容姿・業績』には余り価値はありませんが、反対に、リアルでは『話している無名の個人の発言内容そのもの』にそれほど大きな注目や価値が集まることはありません。これがウェブとリアルの最大の違いとなっていて、例えば(有力な政治家ではない)無名の個人が街頭でいきなり憲法改正問題の演説を始めても、恐らく誰も聴く人はいませんが、ウェブであればある程度内容のある憲法改正の言説であれば(あるいは、政治ブログとしての知名度・読者数を高めていれば)、真剣に読んでくれる読者が何人かは現れる可能性があります。

ウェブ内部では『無名の人の政治的主張』『衆議院議員の政治家の政治的主張』の内容をある程度フラットな視点で読むことができ、政治家の書いているブログ以上に読み応えのある高レベルな政治系ブログを書いている無名のブロガーもいますが、『政治事象に対する言語的メッセージ(説得力)の優位性』があるからといって、現実社会で衆議院議員になれるかといったらまず絶対になれないでしょう。反対に、リアルで力のある衆議院議員であるからといって、読み応えのある政治記事を書く無名ブロガーよりも、ウェブで多くのアクセス数を集めることができるか、政治的な議論で優位に立つことができるかといったら分からない部分があります。

何故なら、ウェブ世界は『しがらみのない言語中心の世界』ですが、リアル世界は『社会的役割(属性)と人脈(利害)のネットワークの世界』だからであり、ウェブとリアルでは『他人の注意や支持を惹きつける要素』が基本的に異なっているからです。“基本的に”と断ったのは、ウェブ上でもリアル社会の知名度や人気度はある程度有効であり、流行しているアイドルや芸能人、識者がブログを書くなどすれば、一般の匿名ブロガーが及ばないほどに膨大なアクセスを集めるからです。しかし、リアル世界で人を動かせるという意味で有効性の高い『権力・財力・権威(名声)・外見的な美』がウェブでは通用しにくいということから、ウェブ世界ではリアルの対人関係の秩序を支える『役割規範(社会的アイデンティティ)』が無効化しやすいというメリット・デメリットを包括する特殊性があります。

リアル世界では、社会学者アーヴィング・ゴフマンが定義した『パフォーマティブ(役割演技的)な自己』を逸脱して自由な発言をすることは通常できず、『社会的コンテクスト(役割・文化依存的な文脈)』に従った言動を半ば自動的にしてしまいます。そのため、ウェブ世界のような『多種多様な人間関係の組み合わせ』が生まれる可能性は殆どなく、『“~としての私”という役割意識』によって制限された範囲の発言と行動しか出来なくなる人が大半だと思います。そういった制限性は、一般的に社会常識や礼節と言われる『秩序の基盤にあるエートス(道徳的行動様式)』とも重複していますので、社会的アイデンティティを確立する過程で多かれ少なかれ全ての人が、そういった役割規範のシステムに組み込まれることになります。

『“~としての私”という役割意識(職業アイデンティティ)』は、リアル世界では相当に強固に作用する「自己規定」であり、「常識的な個人のエートス」のあり方を暗黙知的に支えているものです。実際的な利害が絡んでくるリアル世界では、コミュニティ形成に当たっても『所属企業・経済階層・職業区分・知的水準・利害関係』などによって『社会属性の均質性の高いコミュニティ』が形成されることが多くなります。

一方、『他者と交際するための物的コストや世間体』が不要なウェブのコミュニティは『趣味・嗜好・価値観・興味関心・知的水準』によって形成されるので、『リアルであれば交流する機会がまずない相手』と長くコミュニケーションすることも稀ではありません。容姿や年齢といった属性も捨象されやすいので、現実社会における人間関係の組み合わせよりも、圧倒的にバラエティに富んだ組み合わせが自然発生的に生じる余地があるわけです。

『社会的に不利な属性(差別や偏見を受けやすいマイノリティ属性)』『あまり褒められたものではない生活態度』を取っている人でも、自己の立ち位置に縛られずに自由な発言やコミュニティへの参加ができるというのも匿名のウェブの大きな魅力ですから、『ウェブの言論の自由』というのは、社会的なマジョリティ(多数者)よりもマイノリティ(少数者)に大きなメリットをもたらした部分があります。つまり、現在のウェブの果たしている『フラット性による社会的弱者のガス抜き』や『現実のしがらみを離れた気分転換のコミュニケーション』、『現実では知り合えない他者との出会いの場』という機能をウェブがどう維持(包摂)していけるのかというのも今後の大きな課題になるでしょう。






■関連URL
現実社会とウェブ世界におけるコミュニケーションの特性と差異:ウェブ・リテラシー教育の必要性

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『弱さを強さに変える触媒』としてのヴァルネラビリティ(脆弱性):知の再編成と自律的ネットワーク化

ウェブとリアルの人間関係・コミュニティを区別したいユーザの需要と匿名性が支える日記的コンテンツの問題

■書籍紹介
ウェブ社会の思想―〈遍在する私〉をどう生きるか

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