ファジーな好意的評価によってユーザをつなぐ“はてなスター”と“安心・気楽”を求めてSNS化するブログ

アメリカに子会社を設立したはてなが、日本語圏だけでなく英語圏へのサービス普及も目指す新ウェブサービス『はてなスター』『はてなメッセージ』を発表した。

ブログ向けのウェブサービスである『はてなスター』と『はてなメッセージ』がはてなダイアリーに実装されて話題となっているが、無条件にはてなダイアリーの見出し部分に表示される『はてなスター』については批判的な意見も多く寄せられている。批判のポイントの多くは、はてなスターというウェブサービスの提供そのものではなく、『はてなスターの表示の有無』をユーザが選択できないところに向けられているようだ。

実際にはてなダイアリー(はてなのブログ)を見てもらうと分かるように、ブログの見出し部分に黄色の“☆”マークが表示されるようになっていて、はてなダイアリーにログインしている人であれば“☆”をクリックしてそのブログの記事を評価することが出来る。『はてなスター』という評価システムの仕組みは、基本的には昔からある「ウェブ拍手」や「へぇボタン」と一緒なのだが、『はてなスター』の場合にはウェブ拍手やへぇボタンと比べると「匿名性」が弱くなっている。

つまり、はてなダイアリーにはユーザ固有のID(サブIDを複数個設定できる)があるので、誰が自分のブログ記事に☆マークをつけてくれたのかが分かるようになっているのである。はてな社の立場からすれば、はてなIDを持つユーザしか“☆”マークをクリックできないので、『はてなスターの人気』が高まればユーザの囲い込みや増加に役立つかもしれない(現状では、どれくらいの人がはてなスターを肯定的に評価しているのかは分からないし、はてなブックマークにある関連記事では“ユーザに非表示の選択権”がないという批判が多いけれど)。

はてなスターを表示したくない理由としては、ページの表示速度が遅くなるとか一人で何個でも“☆”マークがつけられるので評価基準として余り意味がないとか色々あるみたいだが、“☆”の数という相対評価や人間関係(コミュニティ)に惑わされずにマイペースでブログを更新したいという人も多いようだ。自分が“☆”マークの数に意味を見出していないのであれば、記事に表示されていても無視すればいいだけではないかという意見もあるが、強制的に相対評価の対象や枠組みに組み入れられることへの防衛的な不快感や記事作成への影響というものはやはりあるだろう。しかし、ブログデザインのCSSを書き直すことで『はてなスターを視覚的に消す対処』は可能なようで、はてなスターを技術的に表示させないようにすることはできる。

ウェブリブログにも一応ランキングという相対評価の仕組みはあるのだが、ウェブリブログではブログそのものにランキング順位を表示する仕掛けがなく、ランキングページにブログから直接飛ぶことは出来ない。ウェブリブログは、他のブログサービスと比較すると、ブログそのものに相対評価の仕組みを組み込むことにはあまり熱心ではない印象がある。その意味では、良くも悪くも周囲を気にせずに淡々と自分の書きたい内容を書くことには向いているブログだと思う。コミュニティ的なコミュニケーションや人間関係の構築を楽しみたい人には、ブログ関連サービスとして『サークル』『フレンドリスト』『ウェブリSNS』が準備されているが、基本的にはブログと分離して利用することが可能である。

私が他のブログサービスと比較してみて『ウェブリブログの機能』で良いなと思えるのは、『個別記事のアクセス数』が確認可能なところであり、ブログの編集画面では各記事のアクセス数を簡単に確認することができる。1日のアクセス数が確認可能なブログサービスや簡単なアクセス解析をしてくれるブログサービスはあるが、特定のパーマリンクに今までどれくらいのアクセスがあったのかをダイレクトに表示してくれるサービスは余りないように思う。『個別記事のアクセス数』は他者による直接的な相対評価というのとは違うけれど、何年も前の記事(心理学や政治・歴史の一般知識系統の記事)にアクセスが続いていたり、新しい記事でもすぐにアクセスが途絶えたりといった傾向の違いを実感できるので、見ていて記事作成(テーマ選択)の参考になる部分はある。

ブログは元々『自分の意見・メモ・情報』を淡々と記録していく用途で使う人が多かったと思うが、mixiやgree, MySpaceなどのSNSの人気が高まり始めた頃から『コミュニティ内部のコミュニケーション』を主要な目的として使う人も増えてきたようだ。

その意味では、『書きたい内容(主張したい意見)』があるからブログを更新し続けているという人以上に、『話したい相手(反応してくれる相手)』がいるからブログを更新し続けているという人のほうが、現在では多数派なのではないかと思う。個人メディアとしてスタートしたブログのトラックバック文化(言及記事の通知システム)がスパムの蔓延で廃れていき、ブログはSNSのようなソーシャルメディア化の方向へと段階的にシフトしていっている印象がある。つまり、『言及内容そのもの』よりも『言及する相手との関係性』のほうに重点を置くユーザが増えたということである。

はてなスターのような他者の評価や好意的な人物を“可視化”する技術の需要は高いだろうし、mixiを筆頭とするSNS(ソーシャルネットワーキング・サービス)の基本コンセプトはそういった『分かりやすい他者とのつながりの指標』によって支えられている。自分が何月何日の何時何分に相手のページを訪れたかが分かる『SNSの足跡ログ・ログイン時間の表示』は、相手に自分の行動が伝わってしまうので煩わしいという意見もあるが、これも『分かりやすい他者とのつながりの指標』として一般的には結構需要があるのではないだろうか。

中にはコメントを書かずに足跡を残すだけで『相手のページを見に行ったという痕跡』を残せるので便利という人もいるだろうし、SNSのユーザにはお互いの存在をそれとなく認知していれば満足できるというライトユーザも少なくない。そう考えると、直接的に長いコメントやメッセージを書かなくても、自分が相手に興味や関心を失っていないということを示せるSNSの足跡ログやマイミク機能はなかなか着眼点が良かったと言える。はてなスターも、基本的には『分かりやすい他者とのつながりの指標』として利用されるだろうし、最終的には、『進化した足跡ログ』みたいな形で、コミュニティ的なつながりを感じているユーザが『確かに記事を読ませてもらいましたよ』という意味を込めてクリックするようなものになるのではないだろうか。

『はてなスター』開発の基本理念は、『はてなダイアリーを書いているユーザに、否定的コメントで不愉快な思いをさせない』であり、『相手の良いところを見つけるコミュニケーションの拡大』であるようだ。ニュース記事を読むとはてな社から『はてなスターでは基本的に他人をほめることしかできません』というコメントが寄せられているように、はてなスターでは☆マークをつけるかつけないかの選択しか出来ず、自分が☆マークをつけてあげた相手からしかコメントを受け付けない設定になっているようだ(下部に、ITmediaのニュース記事のリンクを示しています)。

自分の記事を肯定的に読んで評価してくれた相手に対して、批判や反論といった対立的なコメントを書くことの心理的抵抗は相当に大きいので、『好意の返報性』をネットワーキングしていくはてなスターの仕組みでは、気づいてみたら『相互尊重的なコミュニティ(同意や共感を前提とするコミュニティ)』に自然に組み込まれているということもあるだろう。お互いを否定したり批判したりしない『安心(油断)できる人間関係』を好む人の数が、そうでない人よりも圧倒的に多いと予測される根拠としては、mixiのようなSNSのマイミクシステムを気に入っている人が多いことでも分かる。

自分と相手の意見の相違点を明確化して、どちらの意見がより正当で説得力があるのかを競う『議論や討論(ディベート)のようなコミュニケーション』は確かに楽しい面(役立つ面)もあるのだが、お互いの意見を否定しようと構えているような『対立的なコミュニケーション』は心理的・時間的コストが非常に大きいという問題がある。楽しむためだけにウェブに参加している人にとっては、どちらの意見が正しいかとか誰の情報が間違っているとか、日記の内容が倫理的に問題があるのではないかとかそういうことは重要な問題ではないと予測されるので、『どんな話題やどんな意見を出しても否定されない仲間(冗談やネタとして受け流してくれる相手)』とコミュニティを形成したいという内向きのベクトルが働くだろう。

価値観や趣味嗜好の同質性が高いコミュニティにはしばしば、『議論禁止・長文の反論禁止』という利用規約が掲げられているが、これも正誤や善悪にこだわるユーザ(なあなあの関係に我慢できないユーザ)がコミュニティの平和な雰囲気を壊すことを嫌っている感情の現れである。このこと自体に良いとか悪いとか価値判断を下すことはできず、ただ単に『ウェブに参加する目的・動機の違い』としか言いようがなく、反論や異論を気にせずに仲間内だけで楽しみたいという人は自然にクローズドなコミュニティのやり取りへと収束していくだろう。

そこでは、『異質な属性・価値観を持つ他者の存在(居心地の良さ以上に物事の是非善悪などにこだわる他者)』が初めから求められていないのだから、敢えて不特定多数が途中参加する可能性のあるオープンなスペースでやるだけのインセンティブがないのである。

日記の公開範囲を設定できるクローズドなSNS(mixi)やブログ(Voxなど)を選好する人も、そういった『想定外の反論者(狭い世界の暗黙の了解が通用しない相手)』が途中参加しない安心できる場を求めているのだろうし、ウェブのコモディティティ化の流れに合わせて『閉鎖性と開放性のバランスが取れたコミュニケーションの場』の需要はますます高まっている。『既成の安心できるコミュニティ』に新規参入者が参加することを歓迎する人も少なくないだろうが、自分たちに対して否定的な意見の持ち主を敢えてコミュニティに参加させたいという人は少数派であり、出来れば今までのコミュニティの雰囲気に合わせてくれる人に参加して欲しいと思っているだろう。

一般社会における人間関係では、個別の何気ない意見や主張に対して客観的根拠や納得できる理由などを求める習慣が殆どないのだから、ウェブの参加人数が増大して現実社会に近づけば近づくほど『日記などに書いた内容に深くこだわらないライトユーザ』が増えてくることになる。10分か20分でその日にあった出来事と感想を簡単に短文で書いただけなのに、その日記(ブログ)に対していろいろな根拠を挙げた反論などを書き込まれれば、それに返答するのが面倒くさいという人もいるだろうし、そもそも議論や討論といったコミュニケーションの経験を殆ど持たない人たちも増えているのではないかと思う。

対立的コミュニケーションやポジショントークの経験を持たないだけでなく、根本的にそういったコミュニケーションの面白さや価値を実感できないので、今後もそういったコミュニケーションに適応するつもりはないという人も年代を問わずいるだろう。否定的(批判的)なコメントに意義を見出せないユーザ(時間的・感情的コストを払いたくないユーザ・対立命題をメタレベルから想定しているユーザ)であれば、きっと、『はてなスター』のような相互にかんたんに肯定的な評価を下しあえるシステムに魅力を感じると思われる。

ITmediaの記事では、『はてなスター』のサービスについて以下のように書いているが、オープンなウェブ空間に『部分的な閉鎖空間』を設けるという発想は面白いし、恐らくユーザ層の需要・嗜好の変化に合わせた新サービスなのだろう。オープンという前提を持つウェブ自体が、一般的な情報提供サイト(ニュースサイト)を除いて『属人的なコミュニティの細分化』のモードに入っているのであり、『安心できるクローズドなコミュニティ』というか『油断して言葉を紡げるオープンなスペース(ウェブの部分的な閉鎖空間)』への志向性が働いているのではないかと思う。


「Hatena」発 第1弾は「はてなスター」「はてなメッセージ」

「はてなスターでは基本的に他人をほめることしかできません」と同社は説明する。2003年1月に「はてなダイアリー」を始め、30万人のユーザーを集める大手サービスに育ったが、心ないコメントに傷ついたり、コメントスパムにうんざりするユーザーもいる。こうした中、「より閉鎖的な空間で安心してコミュニケーションできるSNSが人気を集めている」と同社は見る。

はてなスターは、「ブログサービスはまだまだ発展途上であり、より快適に利用できる仕組みへと進化させなければならない」と考える同社の回答の1 つ。「オープンな空間に文章を書くことの素晴らしさを体験しないままブログをやめてしまったり、閉鎖的な空間に閉じこもってしまうのではなく」、ブログの良さを簡単に感じられる仕組みと場の提供が「自らの使命」としている。

はてなスターでは、ブログにコメントを付けるには友だちになる必要がある。オープンなブログに「部分的な閉鎖空間」を設けることで、良質なコメントのやり取りができるようになると見ている。



『はてなスター』や『はてなメッセージ』は、恐らく、ネットイナゴ問題やはてなブックマークの批判コメントに対処するための、はてななりの技術的ソリューションの呈示ではないかと思いますが、スターのほうがブックマークよりも普及するようになると『記事のどういった点を評価したのか?記事を見て何を考えたのか?』の具体的なコメント内容は見えにくくなるかもしれません。

そういった相手に共感を表明するファジーな評価システムやユーザ同士のつながりの可視化によって、ネガティブなコミュニケーションの発生頻度を落とせるという予期せぬ利益(はてなのコミュニティ運営上の利益)もあるのかもしれませんが。はてなスターに類似の評価システム(ウェブ拍手やへぇボタンなど)はクリック型のランキングほど一般化しなかったと思いますが、はてなスターに十分に慣れた頃にどのくらいの割合でクリックするユーザがいるのかがポイントになるように思います。


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