乳幼児の精神発達と言語獲得のプロセス2:『人間の顔』に対する認知と社会的微笑

新生児は産まれながらに大人や外界の刺激に対して微笑む『生理的微笑』のシステムを持っているが、生後2ヶ月以上くらいになってくると大人の表情を意識して微笑む『社会的微笑』をするようになる。つまり、生後2ヶ月以降の乳児は、『人間の顔』『人間の顔ではないもの』を弁別して認識するようになり、人間の顔や表情に対して選択的に微笑むようになるが、一般的に生後6~8週目以降になると『音声の聴覚刺激(母親の声)』よりも『顔の視覚刺激(母親の顔)』に対する反応が良くなっていく。

正確に言うと、生後2ヶ月以前の赤ちゃんは、個人差はあるが『母親の顔』『それ以外の人の顔』を正確に弁別できるわけではなく、基本的には『人間の顔』『人間の顔ではないもの』を弁別しているだけなので、母親の顔ではなく他の人の顔でも社会的微笑は十分に起こり得るのである。

乳児の心身発達過程では、生後2ヶ月頃までは『聴覚刺激(音声)に対する感受性』が高まり、その後に『視覚刺激(人間の顔)に対する感受性』が高まっていく傾向があり、次第に周囲の視覚的な探索行動の頻度も増していく。周囲の状況や人間の存在を視覚的探索によって認識できるようになると、『音声の発生源としての顔(表情)』が情緒的コミュニケーションの重要な要素となっていくが、『母親(中心的養育者)の顔』『他の人の顔』を区別できるようになるには生後4ヶ月程度の発達期間を必要とする。産まれて間もない新生児期でも、母親のミルク(母乳)や体臭に対する嗅覚機能は相当に鋭く、『母親に関連する嗅覚刺激』を『それ以外の嗅覚刺激』から区別して母親のほうの匂いを選好する動きが見られる。

厳密には、生後2ヶ月未満の新生児も『視覚刺激』の全てを無視しているわけではないのだが、新生児が『実際の人の顔』に明確に反応することは稀であり、『目の前で動く図式的な顔』の知覚に関してのみ『コンスペック(conspec)』と呼ばれる本能的な追視反応を見せることがある。ジョンソンとモートンが発見したコンスペックには意思や欲求などの精神機能は介在しておらず、『目・鼻・口の位置関係が分かる図式(パターン)』に対して機械的・反射的な反応を返しているだけと考えられる。生後2ヶ月以降に発達してくる『実際の人の顔』を好んで追視する知覚機構はコンスペックに対して『コンラーン(conlern)』と呼ばれるが、コンラーンは大脳皮質を介在する高次脳機能の一種と考えられていて、コンラーンは母親の顔の弁別や愛着形成と深い関係を持っている。

子供(赤ちゃん)との双方向的な人間関係の形成が始まるのはおよそ生後2ヶ月頃からであり、それは、赤ちゃんの外部情報の入力モジュールが『聴覚』から『聴覚+視覚』へと大きくシフトし始める時期に呼応している。父親と母親は赤ちゃんがこの発達段階になると、赤ちゃんに対する『語りかけ』と『微笑みかけ』の有効性や面白さ、赤ちゃんの反応の可愛らしさをより強く実感することが出来るようになるが、生後4ヶ月くらいにならないと『親の顔』を『他の顔』から識別することは出来ない。生後2ヶ月では、赤ちゃんへの言語的・非言語的アプローチが、一方的なものではなく双方向的なものになり、自分の語りかけや笑顔に対して赤ちゃんが明確な反応(愛らしい反応)を返してくれやすくなる。

生後3ヶ月頃になると、赤ちゃんは人間の顔へ選択的に注意を向けるようになり、親が語りかけると赤ちゃんが何か意味不明な赤ちゃん言葉(喃語)を返してくれる頻度が高くなる。更にもう少し時間が経ってくると、赤ちゃんは『自分の言葉や動き』に対する『親の反応や応答』を楽しみにして待つようになってくるし、反応や応答が返ってこないと泣いたり落ち着かない様子を見せたりする。この時期の育児で最も大切なのは、赤ちゃんの微笑みや語りかけに対して親が笑顔や声かけで楽しく応答して上げること、赤ちゃんの表情や喃語(赤ちゃんの言葉)に応えてスキンシップをしながら遊んで上げることである。乳児期の相互的なコミュニケーションは、大人になってからの人間関係の基礎とも共通する部分があり、相手への好意や信頼を表現するために『笑顔で楽しそうに話す』というのがポイントである。

赤ちゃんが不快に感じて嫌う大人の反応は、無表情で何の反応も返さないことであり、泣いたり声を出したりしても大人の行動パターンが変化しないことである。乳児期の赤ちゃんが泣いているのに、我慢をさせる躾のために無愛想な態度を取ったり、甘やかさないためになかなか赤ちゃんの要求に応えないというのは発達的観点から無意味であるだけでなく有害な作用のほうが大きい。子供の相互的なコミュニケーション能力や情緒的な感情表現の発達を促進するためには、『子供からのアプローチ(微笑・泣き・発声・排泄)』に対して、遅くなり過ぎない程度のタイミングで『母親・父親の好意的な反応(笑顔・声かけ・赤ちゃんの模倣)』を返して上げると良い。母親(父親)との相互的な関わり合いを通して、子供の愛着が形成されていき基本的信頼感(安心感)に根ざした情緒発達が進んでいくと考えられる。

赤ちゃんは『世界に産まれてきたことを歓迎される体験』を通して、父親や母親への愛着を形成していき、他者に対する基本的信頼感や自己の重要感を強化しながら外部環境への適応力を高めていくことになる。赤ちゃんの対人認知をはじめとする認知機構の発達は『生後2ヶ月以前の感覚運動的な顔の図式への反射(コンスペック)→生後2ヶ月以後の意識的な顔の選択的認知(コンラーン)』へと発達していくが、顔の輪郭や髪型などを参考にせずに、目・鼻・口などの要素で個人を識別する対人認知は生後4ヶ月くらいにならないと難しい。

人間は『物質』にも『顔』にも注意や関心を向けるが、乳児に『人間の顔の図式に対する反射』が生得的に組み込まれているように、人間は『同種であるヒトの顔』に対して特別に選好的な認知(注意)と関心を向けるのである。子どもの言語獲得の発達プロセスについて詳しく言及できませんでしたが、また乳幼児期の精神発達(言語発達)に関係するテーマについても少しずつ補足していこうと思います。


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