性格心理学の類型論(タイプ論):C.G.ユング、クレッチマー、シェルドン、シュプランガーの仮説理論

その人を特徴づける持続的で一貫性のある行動・感情・認知・人間関係のパターンで幾つかのタイプ(性格類型)に分類した仮説が『類型論(タイプ論)』ですが、類型論による性格心理学の起源は、古代ギリシアの時代に遡ります。医聖ヒポクラテス(B.C.468~377)が考案した四大体液説(血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁)と古代ローマの医学者ガレノス(A.D.131-199)が提示した体液理論(体液病理学:humoral pathology)に類型論の原初形態があると言われます。

ヒポクラテスの四大体液説は、エンペドクレスの4大元素説(地・水・火・風と乾・湿・冷・熱の相関)を基盤に置いており、血液は「熱と風」、粘液は「冷と水」、黄胆汁は「乾と火」、黒胆汁は「湿と地」の特性を持つとしています。それらの体液のバランスが取れていれば健康を維持できるが、バランスを崩すと内因性の病気を発症しやすくなるという想像的な病理学ですが、2世紀の医師ガレノスは四大体液のバランスによって『多血質・粘液質・胆汁質・憂鬱質(黒胆汁質)』という4つの気質類型(四大気質)を分類できると考えました。


ガレノスの体液理論に基づく四大気質論

多血質……日常生活の動作が美しく洗練されていて、外観的なスタイルにも秀でた人が多い。テンポの良い話し方をして、社交的で快活なコミュニケーションをするので良好な人間関係を築きやすい。美的センスや知的能力(理解力・記憶力・弁論術)に恵まれているが、一つの物事に集中して熟慮することが苦手で飽きっぽい部分がある。他人への共感性や自分の感情表現に優れており、他人の期待や要求に応えるために努力することを厭わないことが多い。

粘液質……血色が良く若々しい外貌をしており、慌しい(あわただしい)ところがなく落ち着いた振る舞いをする。良く言えば、重厚感のある雰囲気を漂わせ威厳のある態度を取っているといえるが、悪く言うと、機敏さ(鋭敏さ)に欠けていて鈍重でのんびりし過ぎている印象がある。感情が安定しており喜怒哀楽の変化が少なく、何かが原因で急に怒ったり泣いたりするようなことが殆どない。冷静沈着で深い思考力を持っているが、実際的な行動に移すまでに時間がかかり優柔不断な面がある。しかし、いったん最後まで物事をやり通すと決断すれば、強い集中力と持続力を発揮する。善良で温厚な性格と悪徳で冷淡な性格が同居していて、アンビバレンツ(両価的)な特徴を指摘することができる。

胆汁質……筋肉が発達していて行動に瞬発力があるが、一つ一つの動作に丁寧な気配りや慎重な配慮が乏しい。実際的な行動力と決断力に優れており、集団内において強いリーダーシップを発揮することが多い。熱しやすく冷めやすい性格で感情の変化は激しいが、他人の信頼や期待を裏切らない性格で執念深さのような陰湿な面がない。

憂鬱質(黒胆汁質)……体格はがっしりとしているが血色が悪く、物事をやり遂げる覇気が感じられない。憂鬱感と失望感を抱えてふさぎ込んでおり、非社交的で人間関係は少ない。意欲や関心が著しく減退しているが、時に個性的な創造性や深い思索力を発揮する。現在の臨床心理学(精神医学)でいえば、H.テレンバッハの「メランコリー親和型性格」や下田光造の「執着気質」などのうつ病の病前性格と重複する特徴を多く持っている。

代表的な性格心理学の類型論(タイプ論)には、『ユングのタイプ論(類型論)・クレッチマーの体型性格論・シェルドンの発生的類型論・シュプランガーの価値類型論』などがあります。限定的な臨床経験や行動観察を元にして構築される『タイプ論(類型論)』には科学的な客観性や個性記述の厳密性はありませんが、人間の性格(人格)の本質論を展開して、典型的な性格像(性格パターン)のエッセンスを抽出するという意義があります。

数多くの特性(形容詞の分類による特性)を取り扱って性格を分類する『特性因子論』のほうが、性格分類が限られている『類型論(タイプ論)』よりも個性記述の厳密性(性格検査の再現性)において優れています。しかし、『類型論(タイプ論)』のほうが個人の性格傾向の全体像を直感的につかみやすいので、カウンセリング(心理臨床)や実際の人間関係へ応用しやすいというメリットがあります。つまり、個人の性格行動パターンを典型的なタイプ(類型)に分類することで、個人の刺激に対する反応や人間関係における行動を予測しやすくなるのです。

ユングのタイプ論と認知傾向(価値認識)に関係する記事として“『ユングの類型的な性格理論』の思考形態と『価値判断のスキーマの複層化』の心理的効果”を書いていますので、興味のある方は読んでみてください。機会を見つけて、精神病理学と古典的な気質論の相関についても書きたいと思います。


カール・グスタフ・ユング(C.G.Jung, 1875-1961)のタイプ論(類型論)

外向型(extroversion)……リビドー(性的欲動)のベクトルが精力的に自己の外部に向かい、外部の事象(商品・金銭・地位)や他人の評価を価値判断(行動選択)の基準にするタイプ。自分の興味や関心の多くは、外部の状況変化(社会的活動)や他人の相対的評価に向けられている。

内向型(introversion)……リビドー(性的欲動)のベクトルが防衛的に自己の内部に向かい、内面的な信念や自己の感情を価値判断(行動選択)の基準にするタイプ。自分の興味や関心の多くは、自己の内面心理(主観的な絶対評価)や趣味的活動(好きな事柄)に向けられている。

C.G.ユングは、『外向型・内向型』の心理的向性(ベクトル)と『思考・感情・感覚・直感』といった基本的精神機能を組み合わせることで、8種類のタイプを仮定した。


エルンスト・クレッチマー(Ernst Kretschmer, 1888-1964)の体型性格論(気質類型論)

分裂気質・分裂病質(細長型)……クレッチマーは統合失調症の病前性格として考えた。神経質な性格。一般的特徴として「非社交的・孤立・内向的(自閉的)・生真面目・奇妙な変わり者」を示し、付帯的特徴として「神経質・小心者・過度のシャイネス・興奮性」や「鈍感さ・傷つきやすさ・従順さ」を示す。

循環気質・躁鬱病質(肥満型)……クレッチマーは双極性障害(躁鬱病)の病前性格として考えた。一般的特徴として「社交的・親切・温和・善良」を示し、付帯的特徴として「活発性・陽気・ユーモア性・熱中性」や「陰気・憂鬱・非活動性・気分の落ち込み・気の弱さ」を示す。

粘着気質・てんかん質(闘士型)……クレッチマーはてんかんの病前性格として考えた。一般的特徴として「融通が効かない頑固さ・几帳面・秩序志向性・執着性」を示し、付帯的特徴として「婉曲的なまわりくどさ・丁寧過ぎる態度・慇懃無礼・話し方や行動のテンポの遅さ」や「易怒性(怒りやすさ)・激情性・興奮のしやすさ」を示す。


W.H.シェルドン(W.H.Sheldon, 1899-1977)の発生的類型論

内胚葉型(内臓緊張型・誠実性)……消化器官の発達が良く、クレッチマーの肥満型(循環気質)に相当する。姿勢と動作がゆったりしていて鈍重である。肉体的な享楽と儀式的な行動を好み、外向的で人当たりが良い。

中胚葉型(身体緊張型・大胆性)……筋肉・骨格の発達が良く、クレッチマーの闘士型(粘着気質)に相当する。姿勢と動作がきりっとしていて機敏である。リスクのある冒険的な行動を好み、チャンスを掴み取るために攻撃性を見せることもある。

外胚葉型(頭脳緊張型・過敏性)……中枢神経系の発達が良く、クレッチマーの細長型(分裂気質)に相当する。姿勢と動作がぎこちなくて固い。社会的活動に対して消極的で感情表現に乏しく、対人恐怖症(社会不安障害)の傾向が見られることもある。


エドゥアルト・シュプランガー(E.Spranger, 1882-1963)の価値類型論

シュプランガーは文化的な生活領域における価値志向性(生活主題)によって6つの性格類型を定義した。価値志向性とは、人生や社会の中で何を目指すべき理想とするか、何に強い魅力や高い価値を感じるかということである。

理論型……真理の探究に最大の価値を見出し、客観的なデータの収集や論理的な思考の展開を重視する。人間や感情に対する関心が弱く、他者に対する思いやりや共感に乏しい。集団生活が苦手であり実際的な生活や経済的な利害に関する興味も余りないので、社会適応は一般に良くない。

経済型……経済的な利益に最大の価値を置き、功利的な損得勘定で物事を判断しようとする。金銭や財産への欲求が強く、絶えず市場における商売や利害を意識しているので、利己主義的な行動が多くなる。他人の苦しみや悲しみに対する共感は弱く、一般に合理的で効率的な行動を好む。

審美型……美の探究に最高の価値を置き、美的な芸術(対象)を鑑賞したり美しい人間と交流することを楽しむ個人主義者である。繊細な感受性と豊かな感情を持ち、物事を美しいかそうでないかによって感情的に判断するので、経済的な損失や対人的な不利益を受けることも多い。理論型と同様に現実的な生活や経済的な損得への関心は殆どなく、芸術的な陶酔と身体的な快楽を求めることこそが人生の意義だと考えている。

権力型……政治的な権力の掌握に最大の価値を置き、世界を弱肉強食的な上下関係で眺めることを好む。権力型の人間は『支配・服従』や『優位・劣位』の二元論で社会を規定しているので、政治権力を持って他者を支配したり命令することに価値を見出す。権力型の人間は、アルフレッド・アドラーの『劣等性の補償』の機制を働かせると同時に『他者への優越欲求』が行動のモチベーションになっている。他者への共感性や美的センスの追求といったことには殆ど興味がなく、他者との相対的な優劣(主従)が明らかでない事柄に魅力を感じない。

宗教型……宗教的な崇高性に最大の価値を置き、世俗社会では経験することが不可能な神秘的な超越体験や清浄さを保った禁欲的な生活態度に惹かれる。金銭・性的快楽・物欲といった世俗的な価値観に左右されることがなく、禁欲・清浄・敬虔といった宗教的な価値観に従って正しく生きることに強い意義を感じる。道徳的な生活態度と敬虔な信仰生活によって、世俗的な快楽を超越した永遠普遍の幸福や安楽がいずれ得られると信じている。

社会型……社会的な貢献や仲間との連帯に最大の価値を置き、利己的欲求を抑えて他者への協力や帰属集団への奉仕をすることに喜びを感じる。社会型の人間の行動理念は『他者への愛』と『社会への奉仕』であり、家族や恋人を愛するように他人を愛することに意味を感じ、自分が所属する集団社会に役立つ貢献をすることに生き甲斐を見出す。理想的な共同体的人間が社会型であり、社会適応性に非常に優れている。他人や集団のための苦労や手間を惜しまないので、他人から好意や信頼の念を寄せられることが多い。しかし、他人と関係しない「プライベート(私的時間)」における趣味や娯楽を見出すことが苦手で、社会奉仕(他人への世話)を抜きにして自分個人が「何が好きなのか?何がしたいのか?」が分からなくなることがある。「自分が楽しい」ということよりも「周りの人が楽しい」ということが絶えず優先されるので、知らず知らずのうちに精神的ストレスを溜め込みやすい。

シュプランガーとは異なる観点から大衆社会を説明する価値類型論を展開した社会学者に、デイヴィッド・リースマン(David Riesman, 1909-2002)がいるが、リースマンは社会的性格類型として『伝統指向型(社会的な権威や伝統的な慣習に服従するタイプ)・内部指向型(親により内面化された規範に服従するタイプ)・他人指向型(平均的な大衆に同調するタイプ)』の3つを提起した。

現代の経済的な豊かさに満ちた大衆消費社会では「他人指向型」の人間が増えてくるとリースマンは指摘したが、他人指向型とは「大衆(多数派)への同調性」に特徴付けられる性格傾向である。他人指向型とは、「標準的な生活様式や平均的な性格傾向(状況への反応パターン)」から逸脱して恥をかくことを恐れるシャイな価値観であるが、現代の日本やアメリカでは、他人指向性をも超えた価値観の多様化(個人主義の進行)とコミュニティの細分化、経済階層の分節化が進んでいると思われる。


■関連URL
W.ヴントの実験心理学の要素主義的な科学性:『類型論』と『特性論』から成り立つ性格心理学

■書籍紹介
性格心理学への招待―自分を知り他者を理解するために

エゴグラム―ひと目でわかる性格の自己診断

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