不安な心理と身体の不調の簡易なチェックシート

前回の記事で、『“正常圏内の不安”と“病理水準の不安”』について概略を述べましたが、『不安の性質・強度・持続性』の観点から不安の病理水準を測定する心理アセスメント(不安評価尺度)には以下のようなものがあります。

身体の遺伝要因・体質気質類型・生理学的障害などの生物学的基盤があり、その基盤に精神的ストレスが過度にかかることによって全ての精神障害や心理的問題(深い苦悩・悲哀・抑うつ・怒り)が発生してくるというのが『素因・ストレスモデル』ですが、不安を中核とする精神障害も基本的に素因・ストレスモデルによって理解することができます。

自分で自分の不安症状の強度や特性を評価する心理アセスメントとして、最も簡易なものに英国の精神医学者ツングが開発したSAS(Selfrating Anxiety Scale)があります。SASは、20項目の質問に答えるだけの簡単な質問紙であり、信頼性と妥当性も高いので不安感に悩んでいる人が自分の現在の心理状態を自己評価するのに役立ちます。


ツングのSAS

最近一週間のあなたの状態にもっともよく当て嵌まる選択肢を選んでください。

■選択肢
1.全くない。
2.時々ある。
3.頻繁にある。
4.ほとんどいつもある。

■質問項目

1.特別の理由がないのに、漠然とした恐れや萎縮がある。

2.寒くもないのに、自然に手足が振るえたり、揺れたりします。

3.頭痛、首の痛み、背中の痛みなどがあります。

4.なんでもないことを深く悩み、些細な出来事にも神経過敏になっています。

5.全てがうまくいっていて、悪い予感などはありません。※

6.身体が虚弱な感じがあり、毎日、強い疲労感があります。

7.突然、めまいに襲われます。

8.心臓がドキドキとする動悸に悩まされます。

9.顔がほてったり、緊張する場面でもないのに赤面したりします。

10.楽に呼吸をすることができ、息苦しい感じなどはありません。※

11.ちょっとした変化に取り乱し、うろたえてしまいます。

12.トイレが近くなっていて、落ち着いていられません。

13.手や足の指にしびれがあったり、熱感や冷えがあります。

14.胃痛が起きたり、消化不良で胃もたれします。

15.寝つきがよくて、熟睡できます。※

16.悪夢にうなされます。

17.自分の意識がバラバラになって、どうかなってしまいそうです。

18.失神してしまいそうな意識が遠のく感覚があります。

19.手や背中などに大量に汗をかくことがあります。

20.落ち着いた気分で、ゆったりくつろぐことができます。※

※印のついた質問項目は、逆転項目ですので、1~4点の点数を反対にしてつけてください。
得点の総計によって、以下のような統計学的特徴を示します。

不安障害:男41.61±8.69, 女42.31±6.81
うつ病:男42.33±7.12, 女43.85±7.84
正常者:男31.35±6.46, 女32.69±5.81

この数値はあくまで統計学的な傾向であり確率に過ぎませんが、とりあえず40点までの範囲ならそれほど重篤な不安である心配をしなくて良いと思います。30点以下なら極めて正常な範囲の不安感であり、多くの人が多かれ少なかれ経験する範疇の不安です。

個々の事例に直接当たらないと一概には言えませんが、50点以上になると、かなり日常生活を普段通りに送ることが困難になり、職業活動や家事育児にも問題が起こってくるのではないかと思います。

60~70点といった非常に高い得点の場合には、自律神経症状の強い不安障害やうつ病などに罹っている可能性がありますが、それでも日常生活に特段の支障はないというケース(その場合にも、アレキシシミアなどによる心身症悪化のリスクを内在していますが)もありますから、得点が高い不安が全て病理性を持つとは断言できない部分があります。

このアセスメントであまり重視されていないポイントとして基本的生理欲求がありますが、不安障害やうつ病の場合には『食欲・性欲・睡眠欲といった基本的欲求』『他者とのコミュニケーション欲求』が低下して、活発性や行動力の低い状態が慢性化している場合がほとんどです。


SASよりもやや厳密性が高く、質問項目の密度が高いものにテイラーの考案したMAS(Manifest Anxiety Scale)というものがあります。
MASでは、表面的に観察される不安症状や自律神経の乱れによる身体症状だけでなく、病的な不安感を高めやすい性格傾向なども識別できるように工夫されています。


テイラーのMAS

以下の質問項目に、『はい・いいえ』で答えてください。

1.便秘や下痢で困ることはあまりありません。

2.時々、他人に言えないような悪いことを考えます。※

3.私はよく自信に欠けていると思います。

4.すぐに私は泣いてしまうほうです。

5.悩みや困ったことがあると、大量に汗をかきます。

6.私は他の人よりも神経質だとは思いません。

7.私はいつでも本当のことを言うとは限りません。※

8.小さな事で、慌てたりうろたえます。

9.時々、眠れなくなるほど興奮します。

10.平均以上の恥ずかしがりやではないと思います。

11.絶えず、空腹感があります。

12.心配で夜眠れません。

13.人前で赤面するのではないかと不安になる事があります。

14.私は小さなことにもすぐ興奮します。

15.待たされるとすぐにイライラします。

16.その日のうちにやるべきことを、すぐ延期します。※

17.物事を必要以上に難しく考えます。

18.私は権威者(偉い人)と知り合いになれば、自信を持てると思います。

19.私はほとんどの人よりも、物事に感じやすいほうです。

20.他の人よりも怖いもの知らずで勇気があるほうです。

21.じっと座っていられないくらい、気持ちが落ち着かないことがあります。

22.頭痛はめったに起こりません。

23.自分は役に立たない人間だと思ってしまいます。

24.恥ずかしさで赤面することはほとんどありません。

25.一つの仕事だけに集中することが出来ません。

26.月に何回か下痢をします。

27.手足はいつもほどよく温かいです。

28.急に嘔吐感をもよおします。

29.眠れが途切れがちで早朝に目覚めます。

30.私はいつでも幸福なのです。

31.時々、誰かを口汚く罵倒して辱めてやりたくなります。※

32.私は友人の全ての人を好きなわけではありません。※

33.時々、他人の噂話をします。※

34.危険や困難があれば、その行動をやめてしまいます。

35.お金や仕事のことでいつも悩んでいます。

36.私は自分に優しい人や安全な物でも怖く思ったりします。

37.人生には克服できないほど困難なことが余りに多すぎると思います。

38.私は毎日のように夢を見ます。

39.時々、自分の精神や身体がバラバラになるような不安が襲ってきて、自分が自分でないように感じたりします。

40.仕事や勉強をするときは、いつも緊張しています。

41.選挙のとき、どうでもいい人に投票することがよくあります。※

42.自分も、他の人のように普通の幸福が欲しいと思ったりします。

43.胃腸の具合がいつも悪いです。

44.疲れやすいほうだとは思いません。

45.何かにつけて、ひどく心配し迷い続けます。

46.涼しい気候にもかかわらず、じっとりと汗をかきます。

47.私はいつでも気を張り詰めて生活していて、くつろぐことなんてありません。

48.他人より緊張や赤面がないほうだと思います。

49.新聞を毎日隈なく読み込みます。※

50.普段は落ち着いていて、めったなことでは取り乱しません。

51.何か不幸なことが起こるのではないかと、いつも不安がつきまといます。

52.私は時々、友人にひどく腹をたてます。※

53.本当は何でもない普通のことなのに、過度の心配や不安を感じます。

54.家で食事するときは、非常に行儀が悪くなります。※

55.時々、自分は間違っていて良くないと思うことがあります。

56.自分の能力不足を痛感して、やる前から仕事や勉強を諦めることがあります。

57.ほとんどいつも人間関係や物事についてくよくよと悩み続けています。

58.下品な冗談や雑談が好きで、気晴らしになります。※

59.私は自信に満ち溢れています。

60.胸がドキドキしたり、息切れしたりします。

61.ゲームに対する勝利への執念が強いほうです。※

62.何日かに一度は悪夢でうなされます。

63.気分が悪いと、偏屈になります。※

64.何かしようとするとき、手が振るえることがあります。

65.突然、自分が何をしてよいか分からなくなり、パニックになります。


『はい』を1点、『いいえ』を0点とすると、下のような統計的偏差(標準偏差)を示します。※印は、無意味質問ですので、点数はつけません。

うつ病:男24.09±8.03, 女26.32±9.10
不安障害:男21.10±9.71, 女21.528.19
統合失調症:男15.03±8.60,女19.89±9.49
正常者:男11.39±7.53,女14.19±7.42


MASの得点は、うつ病、不安障害、統合失調症、正常者の順番で低くなっていきますので、不安症状を中核とする抑鬱状態を判定したり、正常な不安状態と区別される病的な不安症状を判断することができます。
しかし、うつ病の症状評価だけを目的とするのであれば、アーロン・ベックのベック抑うつ質問紙(BDI)のアセスメントを用いた方が的確でしょう。

MASはあくまで相対的な不安症状の強度と性質の評価尺度ですから、極端に点数が高くて、日常生活や職業生活に困難を感じ、耐え難い不安が苦痛となっている場合にカウンセリングや医学的治療が必要となってきます。


全般性不安障害(GAD)やパニック障害(PD)、身体表現性障害など不安症状を中核とする精神疾患の特徴を適切にまとめたものに、ハミルトン不安評価尺度というものもあります。

ハミルトン評価尺度は、合計得点数を余り考慮しない不安症状の概略と種別を示す評価尺度ですが、以下のような不安症状の種別について評価します。

各症状の選択肢は、
0:全くない,1:ほとんどない,2:どちらともいえない,3:少しある,4:ある
となります。

ハミルトン評価尺度
不安症状の種別不安症状の内容
不安気分将来に何か悪いことや不幸な出来事が起こるのではないかという心配。具体的な対象のない危惧・懸念、抑うつ気分につながるような憂慮。何かしなくては大変な結果を招いてしまうといった焦燥感
精神的緊張心身が張り詰めて緊張している。緊張のためリラックスできずくつろぐこともできないので、非常に疲れやすい。身体が震えたり、突然涙がこぼれたり、少しの刺激に驚愕したりしてしまう。
恐怖感特定の対象や事物に対する恐ろしいという感情。特定の人物や動物・暗闇・高所・孤独・閉所密室・広場社会・都会・人込みなどが怖いという感情。
認知傾向の悲観化・知的能力の変化集中力がなくなり、記憶力が低下していつも通りの学習効率を上げることができない。全ての物事を悪い方向へと受け取ってしまう認知の悲観化。
不眠入眠困難・途中覚醒・早朝覚醒・熟眠障害・夜驚・多夢・悪夢・覚醒時の睡眠不足感と倦怠感など
抑うつ気分興味関心や喜びの喪失。趣味に対する楽しみの欠如。日内変動や憂鬱な気分の継続。全ての物事に対する意欲の低下。
身体症状(筋骨格系)筋肉痛や筋肉の凝り、筋肉の攣縮などが起こってくる。歯軋りや不安定な音声を出す。痙攣発作や間代性けいれんを起こす。
身体症状(感覚知覚系)目のかすみや視力低下など視覚障害。耳鳴り、熱感と冷感、倦怠感、むずむず感など
循環器系心悸亢進・動悸・頻脈・胸部圧迫感・血管の脈動感・失神感覚や脈拍の停滞感や不整脈
呼吸器系呼吸困難・過呼吸症候群・胸部圧迫感・絞扼感・窒息感・息苦しさなど
消化器系胃腸症状・胃部不快感・食前食後の疼痛や胃もたれ、嘔吐、吐き気、膨満感、胃の灼熱感など。下痢、便秘、体重の減少。嚥下困難、ガスが溜まるなど。
泌尿器系頻尿・尿意切迫感・失禁・男性(早漏・勃起不全ED・陰萎)・女性(無月経・月経過多・不感症)
自律神経系口渇・蒼白・多汗・めまい・筋緊張性頭痛・立毛・紅潮・ほてりなど
臨床場面での異常緊張してリラックスできない表情や態度の硬直感。手指を神経質に動かし続けたり、強く握り締めたりする。音声や運動による反射的な行動(チック症状)、うろうろと歩いて落ち着かない、顔面蒼白となり緊張性が亢進している。その他にも呑気・おくび・大量発汗・安静時の心悸亢進など明らかな生理学的症状が観察される。







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現代社会のストレス過剰の主要原因とストレス・トレランスのチェックシート

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