塩野七生『三つの都の物語』の書評・3:孤高と連帯……自己の帰属する場所と価値を求める人

自由な経済活動によって自国の優雅な繁栄を導いたヴェネツィアは、カトリックのイタリア各国やヨーロッパ諸国とも交易していたし、イスラム教のトルコ帝国とも貿易をしていたが、迫り来るハプスブルク家の君主カルロス5世の猛威の前にどのような方略で自国防衛をすべきかという窮迫した状況下にあった。 ヴェネツィアは、異教徒であるオスマン・トルコと密…
トラックバック:0
コメント:0

続きを読むread more

斎藤昭彦さんの死から考えさせられた事:SOLとQOLから見る人生の重要な選択の倫理判断

イラクでイスラム武装勢力のアンサール・スンナ軍に襲撃され拘束されていた斎藤昭彦さんの死亡がほぼ断定されつつあるというマスメディアの報道を受け、昨日あたりから『斎藤昭彦 イラク』といった検索ワードでのアクセスが増えていますが、私のブログでは斎藤昭彦さんに関する直接的な言及や最新情報を記しているわけではないので、検索エンジンから来た人は、探…
トラックバック:1
コメント:0

続きを読むread more

塩野七生『三つの都の物語』の書評・2:16世紀ヴェネツィアと現代日本のデジャヴュ

オスマン・トルコがヨーロッパ世界への浸透を始め、ヴェネツィアの隆盛が頂点から衰退に向かおうとする時代の転換期を舞台にして、『緋色のヴェネツィア』というヴェネツィア貴族の宿命と試練を描いた悲劇が語られる。 生まれながらに対照的な境遇にある美しい二人の貴公子マルコ・ダンドロとアルヴィーゼ・グリッティは、陰謀と政略が渦巻く国際政治の渦中に身…
トラックバック:1
コメント:0

続きを読むread more

塩野七生『三つの都の物語』の書評・1:独立の岐路に立つ海の都ヴェネツィア共和国

歴史的事実と創作的ロマンスが絶妙な配分で織り込まれた“塩野七生『三つの都の物語』朝日新聞社”を読み、私の精神は暫しの間、人文と芸術の隆盛が頂点に達したルネサンスの余韻を残す16世紀初頭のイタリアを浮遊しました。 『三つの都の物語』は、非常に長大で重厚な大作(547P)であり、文庫本では3冊に分冊されていますが、ハードカバーの単行本では…
トラックバック:2
コメント:0

続きを読むread more

うつ病の意欲の減退と動機付けの低下を促す“学習性無力感”の関係:2

意欲や気力、興味関心、爽快感、リラックス感といった好ましい気分と密接な関係にある神経伝達物質として知られているものには、セロトニン(5-HT)やγアミノ酪酸(GABA)、ドーパミン、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)などがあるが、これらの物質が精神状態と関係しているとする仮説を“脳内モノアミン仮説”といい、向精神薬の薬理作用機序や症状…
トラックバック:3
コメント:0

続きを読むread more

うつ病の意欲の減退と動機付けの低下を促す“学習性無力感”の関係:1

“心の風邪”とも呼ばれる精神疾患であるうつ病(気分障害)は、確かにその生涯有病率が先進国で概ね10%前後であり、風邪のように比較的ありふれた病気、言い換えれば、誰がいつ罹ってもおかしくない発症頻度の高い精神疾患である。 しかし、精神の風邪の症状の苦痛と疲弊は、身体の風邪の症状の苦痛を遥かに凌駕し、時に、重症化すれば人間の生きる意志その…
トラックバック:5
コメント:0

続きを読むread more

カウンセリングの有効性に関する効果研究について

科学的な実証性や客観性を重視する心理カウンセラーや臨床心理士であれば、自らの心理療法や理論に関する知識、助言や励ましの効果の多くの部分が自分の行動や実力以外の要素にあることを知っているので、過度な救世主コンプレックスや自己否定感に基づく無力感に悩まされることはないだろう。 心理臨床家は、自信ある態度と寛容な雰囲気を持っていなければなら…
トラックバック:1
コメント:0

続きを読むread more

森博嗣『朽ちる散る落ちる』の書評

森博嗣の小説『朽ちる散る落ちる――Rot off and Drop away』を読んだが、この小説は前作の『六人の超音波科学者』の事件の経緯や人間関係と連続しているミステリーなので、前作を読まずに偶然手にした本書を読んだ事を私は些か後悔したが、本書だけでも物語の大略と事件の顛末を掴む事は出来る。 森博嗣の作品は、ミステリー愛好家の…
トラックバック:3
コメント:0

続きを読むread more

精神疾患と精神障害の概念の移行と精神保健福祉行政:DSM-Ⅳの功罪

医学には、身体の疾患と異常を対象とする“身体医学”、精神の疾患と異常を対象とする“精神医学”があり、その両者を架橋する医療分野として“心身医学”があります。 精神医学では、伝統的に“心の病”の事を総称して“精神疾患(mental disease)”と呼んできましたが、精神疾患の標準的な診断基準マニュアルとして認知されてきているDSM-…
トラックバック:3
コメント:0

続きを読むread more

近代における国家主権の変遷:“核の抑止力”への信仰を超えて

イラク戦争の戦後処理とアラブの歴史に関する記事を書いたが、そこから国家主権と軍事力によるパワーバランスについての話を展開してみたい。 民主国家ではない独裁者が専制支配する独裁国家であっても、対外的には不可侵の国家主権を主張でき、国民・領土を他国の攻撃や侵略から防衛する当然の権利があるとするのが、ウェストファリア条約締結(1648年)以…
トラックバック:3
コメント:0

続きを読むread more

唯一の客観的真理を前提とする“論理実証主義”と現実の多様性の生成を前提とする“社会構成主義”

『臨床心理学の統合的な発展』という記事で、臨床心理学の基本的な3つの研究方法である実験法、調査法、臨床法を挙げて、それぞれの研究法の概説を施した。 理想的な心理カウンセラーやサイコセラピストは、クライアントの心理的な苦悩や症状を緩和し援助する実践家であると同時に、基礎理論を検証する科学者であることが望まれるわけだが、日本では科学的な理…
トラックバック:2
コメント:0

続きを読むread more

臨床心理学の統合的な発展:科学的実証性と臨床的実践性のバランス

欧米の臨床心理学の教育プログラムである『科学者―実践家モデル(scientist-practitioner model)』の流れに影響されて、日本の臨床心理学を『生物―心理―社会(bio-psycho-social)』領域を幅広く網羅する総合的な体系を持つ科学的学問として再構築したいという流れが急速に高まっている。 日本の臨床心理学の…
トラックバック:4
コメント:0

続きを読むread more

重松 清『流星ワゴン』の書評:3

しかし、この物語の主人公はやはり飽くまでもカズオであり、カズオと美代子の揺れ動く夫婦関係と理性の制御を打ち崩す性愛感情の悲劇、カズオと広樹の擦れ違う親子関係と広樹の回避的な性格と悲観的な生き方の問題、カズオと父親忠雄の積み重なった誤解と対立の解消こそが『流星ワゴン』の物語のメインストリートである。 父親・忠雄との感情の擦れ違い…
トラックバック:1
コメント:0

続きを読むread more

斉藤昭彦さんの拉致事件:イラク戦争の戦後処理とアラブ民族の紆余曲折の歴史

イラクで再び邦人の斉藤昭彦さんが拉致拘束されて、重症を負って安否が不明という事件報道を受けて、イラク戦争の戦後処理とアラブ民族主義の歴史、国民国家の主権問題などについて簡単に概略をまとめ、幾つかの私見を述べてみようと思う。 イギリスの民間軍事会社ハート・セキュリティに勤務していた斉藤昭彦さんが強硬派の武装勢力アンサール・スンナの攻…
トラックバック:5
コメント:0

続きを読むread more

重松 清『流星ワゴン』の書評:2

どうして――。 予兆など、なにもなかった。我が家はどこにでもある当たり前の家族だったはずだ。平凡で穏やかな日々を続けていたはずだ。僕は美代子を愛していて、美代子も僕を愛していて、それはもちろん新婚時代のような熱く燃え上がるものではなくなっていても、だからこそ織火(おきび)のように、いつまでも我が家の暮らしを温めてくれるのだと思い込…
トラックバック:1
コメント:0

続きを読むread more

重松 清『流星ワゴン』の書評:1

現代社会における不安定な家族関係と父性の衰退、男女の複雑な感情が取り交わされる恋愛の歓喜と悲哀、過去に戻ってやりなおす事が適わない運命論的な人生のあり方といった様々なテーマが散りばめられた重松清の小説『流星ワゴン』を読みました。 この小説は、信頼していた妻の不倫、優秀だった子どものひきこもりと家庭内暴力、そして、予期せぬリストラに遭っ…
トラックバック:4
コメント:0

続きを読むread more

『男らしさと女らしさ』を巡る論争…ジェンダー問題は何故アポリア(困難)に陥るのか?

“人間の社会的性差(gender)”に基づく精神機能や性格傾向の差異について語る場合には、喧々囂々の議論は沸き起こり難いが、“生物学的性差(sex)”に基づく精神機能や性格傾向の差異について語る場合にはラディカル・フェミニストやジェンダーフリー論者から強い反発や抵抗を受ける恐れがある。 私は、一般に『男らしさ・女らしさ』と呼ばれる…
トラックバック:7
コメント:0

続きを読むread more

『溢れる余剰としてのエロス』を消尽する生の歓喜と充溢:純粋な快楽と贈与の祝祭

エロスとしての愛とは、主体である私が対象であるあなたを求める事であり、愛の充足として対象であるあなたと融合し、愛の関係として対象であるあなたと愛着や興奮を伴う時間を共有する事です。 エロス(異性への愛と憧憬)は、一般に利己的な欲求の充足を含むものですが、真のエロスは、ジョルジュ・バタイユが語る非経済的な享楽的消費の概念“消尽(cons…
トラックバック:6
コメント:0

続きを読むread more

西洋文明圏の“愛”と東洋文明圏の“慈悲・仁”の差異と統合

過去に、『6種類に分類される恋愛の形態と実質』という記事を書きましたが、人間は文化の変遷や文明の発達に合わせて多種多様な愛の形態を作り上げてきました。 心理学的な分類として典型的なものの原型は、既に古代ギリシア世界において形成されていました。 異性を含むあらゆる対象に向けられる一般的な愛着や好意としての愛は“フィリア”と呼ばれ、…
トラックバック:1
コメント:0

続きを読むread more

愛情の代理表象としての食物(ミルク)の快楽:魔術的思考や幼児的全能感を超えて現実へ

母親や養育者から与えられる“ミルク(母乳)”は単純に食欲を満たす食物ではなく、ミルクは愛情や保護といった精神的肯定感を象徴するものとして赤ちゃんに受け取られます。 人間の新生児は、他の動物の赤ちゃんと比較しても非常に無力で脆弱な存在であり、養育者の手厚い保護や世話がなければこの世界で生きていくことが不可能な状態にあります。 その為、…
トラックバック:2
コメント:0

続きを読むread more

脳の解剖学的構造と生理学的機能:脳と心の相関関係

人間の神経系は、“中枢神経系(脳・脊髄)”と“末梢神経系(自律神経系・体性神経系)”の二つの系によって成り立っていて、脳・脊髄と身体各部は相互的に化学的・電気的な情報伝達をしています。 人間の複雑な精神機能と精妙な生命維持を司る脳器官は、大きく分類して以下の3つの部分から構成されています。 大脳……大脳は、五感の感覚器官から…
トラックバック:12
コメント:0

続きを読むread more

リビドー発達論と自己アイデンティティを確立する性格形成の過程

前述した、精神分析のリビドー発達論(性的心理的発達論)の詳細について下に記しておきます。 リビドー発達論(性格の発達段階説) 1.口唇期(oral stage:誕生~1歳半頃まで) この世界に誕生した赤ちゃん(新生児)が、初めて世界と接触して“心地良い快の刺激と安心感”を感じる部位が口唇であり、母親の乳房や哺乳瓶か…
トラックバック:5
コメント:0

続きを読むread more

愛する者を獲得する事と愛する者を喪失する事:生理心理学的恋愛論序説

異性に対するロマンティックで情熱的な“エロス”や他者に対する無償の博愛主義に根ざした“アガペー”は、過去の記事で略述したように、『生きる意味と等価にも成り得る無上の幸福や歓喜』を人間にもたらすものとして伝説や詩文、小説で讃美されてきました。 特に、キリスト教文化とヨーロッパの封建社会を発祥とする清楚な女性に一途な恋心を捧げる騎士道…
トラックバック:6
コメント:0

続きを読むread more

リビドーの発達論と性格論:他者との相互的な受容と承認を求める心

精神分析の精神発達理論は、心のエネルギーの仮想的概念である“リビドー”の発達を用いた発達理論であると同時に、リビドーの固着と退行によって性格類型を説明する理論でもあります。精神分析に限らず心理療法理論を提起する目的は、クライアントの人格や行動をより適切に理解して、心理的問題や精神障害の解決を支援することにあります。 クライアントの…
トラックバック:4
コメント:0

続きを読むread more