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zoom RSS 医療社会学者アーロン・アントノフスキーの『健康生成資源』と運命論に陥りやすいトラウマ仮説

<<   作成日時 : 2017/11/05 05:08   >>

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現代の精神医学では精神疾患の発症を『素因ストレスモデル』によって説明していますが、先天的な素因(遺伝・体質気質)に加わる環境条件のストレスによって、人の性格行動パターンは様々な形に変わりやすいところがあります。

現代では有能なビジネスパーソンの過労死やパワハラ・セクハラの被害(ブラック企業による虐待・搾取)を典型として、『本人自身の人格・心理の問題』はなくても、環境条件のストレス(不適切・犯罪的な人間関係)によって、心身が疲弊して各種の精神疾患・不適応問題が起こるというケースは少なからずあると考えられます。

ストレスに対する現代人の“回避・逃避”と“依存・執着”の自己防衛的かつ非適応的な性格行動パターン

人間と社会生活・経済活動の環境や対人関係の相互作用、仕事(関係)で求められる能力がより複雑化してストレスも大きくなってくる中で、そのストレスからできるだけ離れて関わらないようにしようとすれば回避性パーソナリティー障害に近づきやすく、そのストレスとぎりぎりの精神状態で何とか向き合って、脳の報酬系を快楽行動で刺激してリフレッシュしようとすれば依存症に近づきやすくなるという問題が現代では広がっていると考えられます。

精神疾患や不適応問題はその原因を、身体疾患(感染症)のような単一の原因(特定可能な原因)に還元できない難しさがあり、『同じようなストレス(苦痛な出来事・優劣の意識を刺激される競争・承認されない孤独な状況)』に晒されても、そのストレスがプラスに影響して発奮する人もいれば、マイナスに影響して立ち直れなくなる人もいます。

強くて持続的なストレスが、その人に対してどのような影響を及ぼして、どんな性格行動パターンを形成するかは非常に多様なのです。また人間は完全にストレスのない環境(何も刺激がなくて何もしなくても良い環境)でも生きることができないので、『各人にとっての最適なストレス(外的刺激)のレベル』を見極めて、心身の健康が維持できる程度の頑張りで適応できる環境を見つけていく必要があるのです。

アドラー心理学や解決志向のブリーフセラピーでは、精神疾患の原因や精神的な傷つき(トラウマ)の原点を突き詰めていく『原因論』ではなくて、今ある症状や苦悩をどうすれば和らげていけるのかの『目的論』を優先すべきであると考えますが、それは発症のメカニズムや根本的な原因を知るだけでは実際の症状緩和に結びつかないことが多いからです。

『心理的問題の緩和・解決』のためには、確かに理屈による原因の納得以上に、今の自分にできる考え方や行動の中で、より適応的(マシ)なものを探すほうが効果はあると言えるのです。

PTSDの精神医学的な理論やトラウマセラピーの治療方略が有効なケースもあるので、トラウマ理論に基づく原因論のすべてが無効なわけではないのですが、『広義のトラウマへのとらわれ』によって今ある症状や不適応の水準が軽くなっても、『今ここからの自分の人生』に前向きに向き合えなくなる問題(デメリット)がでてくることもあるということは、頭に置いておいた方が良いかもしれません。

PTSDやアダルトチルドレンなどの過去のトラウマ体験が根本原因になって生じる各種の症状・問題・不適応に対処することは、控えめにいっても簡単なことではありません。

しかし『トラウマの原因論=過去にトラウマ体験をしたから現状が悪いのは当たり前という人生の脚本が固定された運命論』のように解釈することは自己変革を否定する悪影響の方が大きく、『今の自分の悪い側面・何もかも全てがダメという決めつけ』だけではなく、『今の自分の良い側面・行動や意識において改善できそうなポイント』に注意を向けることが心理状態の回復にもつながってきやすいのです。

トラウマ論は、ジークムント・フロイトの『幼児期トラウマ理論』やクラウディア・ブラックの『アダルトチルドレン論』を典型的なものとして、『幼少期のトラウマを原点とする精神疾患・不適応の決定論』の色彩をどうしてもまといやすい傾向があります。実践的な解決よりも精神疾患の原因の探求にどうしても力点を置いてしまいやすいのです。

ナチスドイツの強制収容所体験をした女性のメンタルヘルスを調査研究した医療社会学者アーロン・アントノフスキー(Aaron Antonovsky, 1923-1994)『健康生成論(強制収容所レベルの過酷体験でも精神の健康を維持できる力が人にはある)』のようなポジティブなアプローチもありました。

医療社会学者アーロン・アントノフスキーは、ナチスの強制収容所から生還した中年女性たちの中で約30%の女性が精神の健康を維持していたことを調べ、いつ殺されるか分からない過酷環境のストレスを受けても精神の健康を維持できた女性たちには以下の3つの特徴が見られたとしています。

1.有意味感

どんなに過酷で無意味と思われる環境に置かれても、『自分にとっての主観的な意味』を何とか探し出して実感することのできる感覚と能力。

強制収容所の生死の危険のある環境でも、労働の後の休養や仲間との些細な談笑、わずかな娯楽の楽しみなどに有意味感を感じ取って、完全な絶望や何もかも諦める自暴自棄には陥らなかった。

2.全体把握感

現在の局所的な恐怖感・絶望感にとらわれずに、『物事の全体像を把握する視野の広さ』や『状況の変化に対する大局的な視点』を持っていたので、『今がきつくて絶望的でもこの先に希望を抱けるチャンスが必ず来る』と信じられたこと。

自分の置かれている状況や関係性の『今・ここの時点における絶望や苦しみ』がすべてではないと知っていて、『今・ここから全体的な状況や物事が良い方向に変わっていくという可能性』を信じて、そのために行動できる感覚と能力を持っていた。

3.経験的な対処能力の確信

強制収容所の過酷な労働体験や理不尽な指示・命令に対して、『自分なら過去の経験に照らして何とか対応できるだろう』という楽観的な見通しや対処能力の確信を持てたということ。

今までにない新しい課題や状況を強制されても、自分の経験的な対処能力の確信を持っているので、『自分はもうダメだ・これですべてがおしまいだ』という悲観的な認知を持つことなく投げやりにならずに、目の前の課題をこなして、いつか必ず来るチャンスを落ち着いて待つことができた。

アーロン・アントノフスキーは、生物全般には有害なストレスに対抗して自分の心身の健康と正常性を維持していける『健康生成資源』が備わっているという仮説を提唱して、あらゆるストレスに対抗可能な『一般抵抗資源』の定義として『環境変化の全体的な予測能力+自分の経験的な対処能力の確信』を上げています。


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